2018-11

2018・2・17(土)日本オペラ協会 團伊玖磨:「夕鶴」

     新宿文化センター 大ホール  2時

 定番の出しもの。主催と制作は日本オペラ振興会。

 園田隆一郎が東京フィルを指揮して、実にまとまりのいい演奏を聴かせてくれた。オーケストラのバランスも響きも上々、全体に仄かな暗い音色で悲劇的なイメージを描き出し、各モティーフを明確に浮き彫りにする。殊更に劇的な激しい起伏を施さない控えめなつくりではあったが、この時代の團伊玖磨独特の抒情性は充分再現されていたと思う。こういう演奏で聴くと、このオペラは、やはりいい。

 歌手陣は、明日とのダブルキャストで、今日は佐藤美枝子(つう)、中井亮一(与ひょう)、柴山昌宣(運ず)、泉良平(惣ど)に、こどもの城児童合唱団、という顔ぶれ。

 演出は岩田達宗、舞台美術は島次郎。この書き割り的な舞台装置には、ちょっと寂しい感もあるが━━近年は鍋も釜も囲炉裏もないシンプルな抽象的な舞台(市川右近演出)や、「雪の幻想」的な舞台(新国立劇場の栗山民也演出)など、所謂「日本の農村風景」から離れた斬新な舞台も現われて来ている時代だし━━まあしかし、岩田達宗らしく温かい演出は随所に観られた。

 特に後半、運ずの与ひょうに対する同情と労わりを前面に強く押し出していたのが印象的だったし、惣どが織り上がった「布」を与ひょうから強奪するなどの手荒い演出がなかったのにもほっとした。幕切れ近く、つうと遊ぼうと集まって来た子供たちが、つうの代わりに奥から惣どがぬっと現われたのを見て、ぎょっとしてたじろぐという演出は、細かいことだが、なかなかよかった。

 所謂「涙もの」の人気定番だけあって、客の入りは上々だが、大半が女性客、そして圧倒的に高齢者という客席である。それはそれで結構ではあるものの、家族連れを除けば若い世代の客がほとんど見当たらないのには暗然とする。
       ☞別稿 音楽の友4月号 演奏会評

コメント

夕鶴

少々ご無沙汰いたしましたが、諸賢各位におかれましては、益々ご健勝のことと存じます。小生は翌18日の公演を拝見・拝聴いたしました。つうは伊藤晴、与ひょうは中鉢聡、運ずは清水良一、惣どは豊島雄一という顔ぶれでした。

中鉢さんはリリコとは言え結構強い声も出せる人なので、与ひょうはどうかなと思っていたのですが、割と抑制的に歌っておられたように思います。伊藤さんは期待の新鋭ということでしたが、豊麗な声と美しい演技で存在感を発揮しました(最高音域の発声がさらにコントロールできれば万全でしょう)。他の男声二人も堅実で安定した歌唱でした。

指揮の園田さんにとっては初めての日本語オペラだったそうで、個人的にはもう少し大胆に表情を付けてもよかったのでは(その方が今回の演出によりマッチしたのでは)とも感じましたが、全体的にバランスのとれた好演だったと思います。

演出の岩田さんによると、鶴の恩返しという民話の雰囲気ではなく、主役二人の愛情表現と悲劇性を強調した舞台作りを志向し、それは「つうは、恩返しのためではなく、与ひょうに恋してその恋を成就するために人に化けた」という山本安英さんの解釈への原点回帰であるとのこと。

与ひょうは(お金への欲望ではなく)つうを都に連れて行ってあげたいという純粋な思いから布を織るように命じ、つうは与ひょうに尽くそうという純粋な思いから布を織ることを受け入れた。そのような相手を思う二人の愛の深さが破滅をもたらしたという流れでしたが、このオペラを観るとき「私のほかにはなんにも欲しがっちゃいや」と叫ぶ、つうの独占欲の強さ(恩返しを超えた感情のようなもの)にいつも僅かな違和感を感じていた小生としては納得できる演出でした。

小生が「夕鶴」の舞台を初めて観たのは1970年の大阪国際フェスティバルでの公演(つうは伊藤京子さん)でした。それから数多くの実演に接しましたが、何回観ても涙腺が緩んでしまう名作ですね。

でも、今回の公演プログラムの丹羽正明氏の解説に「團伊玖磨は、初演後かなりの長い間、自分以外の指揮者がこのオペラの指揮をすることを認めなかった」「夕鶴が初演されてから(中略)実は総譜スコアもなかなか手に入れることができなかった」「作曲者が音楽面のすべてを自分のコントロール下に置こうとする思い入れの強さの現れだったのだろう」とあるのを読んで、そんなことがあったのだと少し驚きました。

世に出した自分の作品を他の指揮者が演奏することを認めないという行為は、音楽作品の新たな解釈の可能性を狭め、さらには、他の指揮者の演奏意欲を阻害するという点で(少なくともクラシック音楽の作曲家としては)いかがなものかと思うのですが、初演からしばらくの間、まだ決して裕福ではなかった作曲者は指揮者のギャラが喉から手が出るほど欲しかった(背に腹は代えられなかった)ということだったのかもしれません(笑)。「夕鶴」の初演は1952年、当時の日本はまだそれほど豊かではなかったでしょうし。

2月に入ってから、ヘンゼルとグレーテル(びわ湖・・・素晴らしい舞台でした!)、夕鶴(今回)、ローエングリン(東京二期会)、ワルキューレ(びわ湖)、ノルマ(東京二期会)、ディドとエネアス(びわ湖)とオペラ(含む演奏会形式)が続きます。4月になると、いよいよ新国立劇場開場20周年記念特別公演が始まりますね。

寒くなったり、暖かくなったり、季節の変わり目で不順な気候が続きますが、どうぞご自愛ください。

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