2021-06

2017・10・28(土)ラドミル・エリシュカ、最後の日本公演

      札幌コンサートホールKitara  2時

 札幌交響楽団第604回定期公演、その2日目。この日がエリシュカの、正真正銘の告別公演である。
 ホワイエでは昨日からエリシュカのドキュメント写真集が展示され、またファンのエリシュカへの寄せ書きが行われている。さしものKitaraの広いホワイエも、昨日と今日は聴衆がひしめき合い、横切って行くのにも人をかき分けて歩かなくてはならないという大混雑ぶりである。

 プログラムは、もちろん前日と全く同じ。札響も、昨日よりは気分がほぐれたのかもしれない。「売られた花嫁」序曲では、昨日の硬さがなくなり、躍動感がぐっと増したように感じられた。とはいえ、このような軽い序曲においてもがっしりとした構築が為されているところが、エリシュカがただ温かさ、懐かしさだけで聴かせる指揮者ではないという一つの証明とも言えよう。

 その堂々たる構築の最たるものは、最後の曲目となった「シェエラザード」である。昨日の演奏にも増して重厚かつ壮大な演奏となり、アンサンブルのバランスも、完璧と言っていいほどのものとなった。
 遅いテンポで矯められた重厚なエネルギーを、最終楽章に至って全面的に解放するというのがエリシュカの「シェエラザード」の設計。クライマックスで全てのエネルギーを最強奏のシャリアール王の主題(Allegro non troppo e maestoso)に集結させた瞬間の演奏の豪壮さは、昨日のそれをはるかに上回る。

 音響の大きさや重量感や華やかさなどという点に限って言えば、この札響のそれを凌ぐものは世界にゴマンとあるだろう。だが、情感の豊かさや、演奏の真摯さという点では、今日のエリシュカと札響に勝る演奏がそうあるとは思えない。
 あらゆる意味で、私はこれほど誠実な演奏の「シェエラザード」を聴いたことがない。これこそが過去11年間、エリシュカと札響が相互の強い信頼のもとに音楽を紡いできた、その完結の演奏だったのである。

 とかく海外の指揮者や批評家から「合わせることには秀でていても、情感的な意味での共感に乏しい」と評されることの多い日本のオーケストラ━━遠い国の作品を演奏するのだから、ある意味ではやむを得ないことなのだが━━にとり、このように滋味豊かな音楽をつくり出す指揮者エリシュカは、実にかけがえのない存在であった。

 カーテンコールは昨日より長く、20分以上も続いた。菅野猛とエリシュカの2人への花束贈呈も昨日と同様に行なわれる。
 エリシュカへの花束は、トップサイドに座っていたもう一人のコンサートマスター、大平まゆみが、涙に咽びつつ捧げる。エリシュカと彼女の温かい抱擁に、客席の拍手が大きく揺れる。女性楽員の何人かも涙を拭いている。
 客席は、今やほとんどが総立ち。今日が本当のお別れとあって━━われわれ聴衆にとっては、多分これがエリシュカとの「今生の別れ」になるのだ━━拍手と歓声はなお止まない。楽員たちが引き上げた後にも、エリシュカは独りステージに呼び戻される。ブラヴォーの歓声の中で、エリシュカも胸に両手を当て、時に顔を覆って涙をこらえるといった様子で、ステージを取り囲む客席のあちこちに向かい、答礼を長いあいだ繰り返す。

 やがてエリシュカは、手を振りながら次第に下手側袖に歩みを進めて行き、なおも名残惜し気に何度か立ち止まっては、繰り返し聴衆に手を振り続けた。そしてついにその姿は、ゆっくりと扉の彼方に消えて行った。
     →別稿 モーストリー・クラシック新年号 公演Reviews

コメント

ブログを拝読して

大阪でのコンサートを拝聴しまして、(ああ、これがエリシュカさんとの今生の別れかな)と、じ~んとなりましたが、東条先生の感想を拝読して泣けてきました。札響と聴衆の方々は私以上に感慨深かったと思います。尚10月27日の演奏は、11月26日にNHK-FMで放送されるそうです。ネットラジオで札幌を受信指定にすれば全国で拝聴出来るそうです。もうひとつ、札幌交響楽団のホームページにエリシュカさんからのメッセージが掲載されています。改めて、エリシュカさん、有難うございました!そしてお元気で!

札幌まで遠征しました

はじめて書き込ませていただきます。私は関西から遠征して2日間ともききました。シェエラザードばかりが注目されがちですが、2日目のチェコ組曲がほんとうにすばらいい演奏だったと思います。4曲目ロマンツァのフルートの変奏が見事にきまって、エリシュカさんが満面の笑みを浮かべたのをサイド席からみることができました。シェエラザードでは、ハープに京響の松村さんが客演されていましたが、1日目は冒頭のフレーズがあまりにも力強く響き驚かされました。2日目は多少抑え気味でしたね。会場の熱気にも圧倒されました。これは大阪フィルの定期よりもハイテンションでした。エリシュカさんの指揮した関西での演奏会、センチュリー、大阪フィル、京響、読売日響はすべてききましたが、何と言っても、大阪フィル初登場時のヤナーチェク「グラゴール・ミサ」の印象が強烈に残っています。今回の2日目のシェエラザードのクライマックスは、あのヤナーチェクの時と同じぐらいのエネルギーを感じました。そして最後に。シェエラザードがヴァイオリン・ソロで締めくくられる曲であったことが、何よりも素晴らしかったと感じました。この何とも言えない余韻が、そのままエリシュカさんの音楽をあらわしているのだと思いました。

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