2021-06

2017・10・13(金)水戸室内管弦楽団第100回定期演奏会

     水戸芸術館コンサートホールATM  7時

 1990年4月8日に小澤征爾の指揮で第1回定期演奏会を開いた水戸室内管弦楽団━━ついに迎えた100回目の定期は、ベートーヴェンの「第9交響曲」。
 弦は7-6-4-4-3の編成で、コンサートマスターは豊嶋泰嗣。合唱に東京オペラ・シンガーズ、ソプラノに三宅理恵、メゾ・ソプラノに藤村実穂子、テノールに福井敬、バリトンにマルクス・アイヒェという顔ぶれである。

 そして肝心の指揮は、前半2楽章をラデク・バボラーク、後半2楽章を音楽総監督・小澤征爾が、という形が採られたのだが━━小澤さんの体調を考えれば、趣旨そのものはある程度仕方がないとしても、バボラークの指揮が大失敗だった。
 彼のホルン奏者としての実績と才能にはいかなる讃嘆をも惜しまないけれども、今日は、最初から最後までメトロノームのように同じテンポで振っているだけで、言っちゃ何だが、とても「指揮」になっていない。私はこれほど表情も息づきも皆無な、機械的で単調な演奏の「第9」をかつて聴いたことがない。かりにコンクールに初めて出た若い指揮者だって、もう少し演奏に起伏をつけた、まともな指揮ができただろう。

 第1楽章の提示部のさなかから早くも、小澤さんだったらここはこういうふうに指揮してくれるだろうになあ、とそればかり考え続けて、聴いているのが次第に苦痛になって行ったくらいである。
 オーケストラの方はというと、おそろしく力み返ったどっしりした音で、終始メトロノームに合わせたような味気ないテンポで、それでもデュナミークだけはあれこれ変化をつけて演奏していた。

 こういう場合、小澤さんが最初から指揮台に座っていて、指揮をしなくてもいいから、腕組みしていても構わないから、黙ってオケをジロリジロリと見渡すだけでもいいから、全曲をやってくれないかな、といつも思うのである。もともと気心知れた腕利きのオケなのだから、小澤さんの目線ひとつでちゃんとやるだろうに。そして第4楽章だけ、実際に、いつものようにがっちりと指揮してくれればいいのであり・・・・。

 などと苦し紛れの空想にふけっている間に、どうやら第2楽章までは終る。スケルツォ部分のリピートをやらなかったのがせめてもの救いだった。
 バボラークは、恐縮しきった雰囲気で、豊嶋に「ゴメン」という身振りをして、引き上げて行く。「第9」の指揮には慣れないのだろう、全曲演奏後のカーテンコールで小澤さんが彼に謝意を表した時にも、いかにも照れ臭そうに、「お役に立たず、ほんとに申し訳なくて」という態度を丸出しにしていた。何となく気の毒になった。

 そして、もちろん休憩なしで、合唱団と声楽ソリストが入り、指揮台に椅子が運び込まれ、椅子に腰を下ろした小澤征爾の指揮で、第3楽章が始まる。
 演奏は、先ほどの余波か、いつもよりやや硬質に感じられたが、それでもフレーズの息づきや微細なテンポの変化など、それまでとは全く異なった雰囲気が生まれて来たのだ。音楽が静かに胎動しはじめたという感である。
 小澤の指揮も初めはいつもより淡々としているようにも思えたが、第3楽章終り近く、安息の音楽が初めて不安げに翳る個所(【B】からの4小節間)での彼の指揮は、しかし明らかに昔とは違っていた。以前はあっさり片付けていたその個所を、彼は、今日はテンポを微妙に調整し、重厚にバスを響かせ、一種の悲劇的な音楽をつくり出していたのである。病を体験した後の小澤の音楽に深みと凄みが生まれて来ていることが、ここでも証明されていた、と言えるだろう。

 第4楽章での、歓喜の主題がソリストと合唱で繰り返されて行くあたりから、演奏は異様な熱気と、何か一種の魔性的な激しさを増しはじめる。楽章後半は凄まじい熱気にあふれ、ドッペルフーガの個所では、小澤さんも両足を踏み鳴らしつつ指揮、演奏者全員が何かに憑かれたようにひたすら突き進んで行くという趣を呈した。
 彼がもう立ち上がったままで指揮を続けて行ったコーダのプレスティシモにおける昂揚感は、私もこれまで聴いたことがないほどの物凄さだったと言っても過言ではない。彼が指揮した多くの「第9」の中でも、いや、私がかつてナマで聴いた「第9」の中でも、これほど情熱的な「第9」にめぐり会ったことは無かった、と言ってもいいくらいである。

 なおバボラークは、後半2楽章ではホルン・セクションに加わり、第3楽章の4番ホルンの有名なフレーズ(第96小節)を、水を得た魚の如く、見事に吹いてくれた。

 合唱は、人数は多くなかったが、極めて力強い。4人の声楽ソリストのうち、アイヒェだけは譜面を見ながら歌っていたのは、なるほどな、という感だったが、その確信に満ちた歌唱は立派である。福井も藤村も重みのある歌唱だったが、三宅理恵だけは声質が軽く、明るすぎて、声楽クァルテットとしてはバランスを失わせていた感も無くはなかった。

 8時20分演奏終了。オケと合唱を含めて全員が出たり入ったりするカーテンコールは10分以上も続き、なおも拍手は止まらなかったが、ステージマネージャーが袖のドアを「終りだ」とばかりにピシャリと閉めて、おしまい。同じピシャリでも、せめて「終りなんですけど」と一礼でもしていれば、盛り上がっていた聴衆の気持をさらに和ませたろうに。
 会場の外には、水戸駅まで行くバスが2台待っている。それに飛び乗り、21時27分の特急「ひたち」で帰京。
     別稿 モーストリー・クラシック新年号、産経新聞

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