2021-06

2017・10・12(木)ノルウェー・アークティック・フィルハーモニー管弦楽団

      東京文化会館大ホール  7時

 2009年にノルウェー政府の肝いりで創設されたというこのオーケストラ、本拠地は北の方で、ボード―とトロムソを中心とする「北方各都市を拠点」としている由。
 ボード―(ボーデ―)という町は私も1996年夏にひょんなことから訪れたことがあるが、北の海に面した地方色豊かな小さな街━━昔はさぞ鄙びた漁村だったろうと思わせる雰囲気の街の一角、海岸近くにコンサートホールがあり、そこで1日だか2日だかの「音楽祭」が行われていたのを偶然聴いたことがある。

 政府のバックアップということもあってか、この日はホワイエに「北ノルウェー美術館所蔵の絵画」が10点ほど展示され、ノルウェーの名産品も僅かだが展示販売され、多分ノルウェーの人たちと思われるお客さんも多数・・・・という賑やかさであった。

 この日のプログラムは、オーレ・オルセンの「アースガルズの騎行」と、ラッセ・トーレセンの「触れられざるものへの讃美歌」(後者に関してはプログラム冊子にも公式表示なし。事実上、予告なしに演奏された)、グリーグの「ピアノ協奏曲」(ソロはペーター・ヤブロンスキー)、チャイコフスキーの「第5交響曲」というものだったが、最初の2曲では場内を暗くし、反響版の白い部分いっぱいにノルウェーの山岳の光景やオーロラなどの映像を投映して雰囲気を出すという、凝った演出も加えられていた。

 このノルウェー・アークティック・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者は、あのトロンボーンの超絶名手、クリスチャン・リンドバーグ(クリスティアン・リンドベルイ)である。今回も彼は、ぴったりとしたカラフルな衣装を着け、黒いタイツに包んだ長い足でステージを慌ただしく走り回る。指揮姿も忙しい。体の動かし方の激しさはそのかみのゲオルク・ショルティにも似て、ぎくしゃくとした攻撃的な身振りで、腕を鋭角的に振り回す。

 こういう指揮だから、オーケストラがつくり出す音楽もやはりエネルギッシュな、切り立ったようなつくりになって来るのも当然だろう。アンサンブルの緻密さよりも、勢いで聴かせるような。
 同じノルウェーのオーケストラでも、私たちがかつてよく聴いた、マリス・ヤンソンスの指揮していた頃のオスロ・フィルのしっとりした陰翳のある音とは全く異質な響きを出す。さすがリンドベルイの個性だな、という感がする。

 チャイコフスキーでは、リンドベルイは、最初の3つの楽章を30分以内に収めてしまう驚異的な快速テンポで指揮した。ホルン群はしばしばベル・アップして咆哮し、クラリネットまでがまるでマーラーの「第6交響曲」でも演奏するような身振りで第3楽章後半の下行音を吹き鳴らす。
 ホルンの1番奏者はすこぶる力強い音を持ち、第2楽章の有名な主題をもがっちりと吹いたが、普通ならそのあとのオーボエが吹く個所で一歩下がるところを「ここもおれが主役」と言わんばかりにフォルテで吹き続け、オーボエのモティーフを霞ませてしまったのには微苦笑。これはリンドベルイの指示によるものかもしれないが。
 しかしこのオケ、「5番」を演奏するのはよもや初めてではないだろうに、第4楽章コーダの冒頭でトランペットが1小節早く出てしまったのは、ご愛敬というか、何というか・・・・。

 と言っても、全体としては決して雑な演奏ではない。アンサンブルこそおおらかではあるものの、誠実で情熱的で、美しい弱音の響きをも併せ持つオーケストラであることは間違いない。現代音楽のように割り切った明晰さを出すかと思えば、緩徐楽章ではたっぷりロマン的に歌い上げるという、不思議な雰囲気を出すオーケストラである。コンサートマスターはカワミ・ユウコという日本の女性であるのは頼もしい。

 アンコールは4曲、1曲目は私も初めて聴く曲で━━終演後のホワイエに小さな紙に曲名を細かい字でぎっしり書いたのが、しかも低い位置(!)に張られていただけで、スマホで撮影する人たちでごった返し、とても近寄って見られるどころではなく、不親切この上ない対応だったが━━次のグリーグの「山の魔王の宮殿にて」では、弦のピッツィカートの主題よりもファゴットなど管のリズムを強く吹かせ、曲の構造まで変えてしまうといったように、牙をむいたようなユニークな解釈も現れた。
 ステンハンメルのカンタータ「歌」からの「間奏曲」を美しく演奏したあと、リンドベルイはついにトロンボーンを振りかざしつつ飛び出して来て、モンティの「チャールダシュ」を超絶技巧で吹きまくるというワザを披露。やはりこれがなくちゃ、という感じで9時20分頃、コンサートは終った。

コメント

 当日17列目で聴いた観客の一人としてコメントさせていただきます。 
 トーレセン(Lasse Thoresen)の作品は先月27日に初演されたばかりで、作曲家の公式サイトには「日本へのツアー前に演奏される」とあるのですが、日本でも演奏される予定とは書いていませんでした。 
 チャイコフスキーの第4楽章は12分を要していました。小林研一郎氏が指揮する場合とそんなに変わらないと思いますが、小林氏のとは異なり58小節以降のアレグロ・ヴィヴァーチェで大きく変化しなかったのが意外でした。
 アンコールの1曲目は、Wikipediaの英語版によると、Geir BøhrenとBent Åserudの「スヴァールバルのテーマ」という曲のようです。ノルウェーで1985年に公開された「Orions belte」という映画音楽の一部として作られたとあります。
 なお、コンサートマスターの川見優子さんですが、以前はマレーシア・フィルの団員だったと聞いています。長文失礼しました。

大阪で拝聴しました!

大阪のザ・シンフォニーホールでは、プログラム変更のチラシが入ってました。トーレセンの「触れられざるものへの賛美歌」この曲聴けて良かったです。幻想的な演出は、まさに北極圏のオケならではですね。演奏はおおらかさと情熱と繊細さがブレンドされたユニークな印象を受けました。アンコールでのリンドベルイさんの「チャールダシュ」は圧巻でした。それと、オーロラのカラープログラムが200円とはお値打ちもの!

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