2021-06

2017・9・24(日)関西歌劇団「白狐の湯」「赤い陣羽織」

       あましんアルカイックホール・オクト  2時

 尼崎市の総合文化センターの中にある「アルカイックホール」の小ホールともいうべき「オクト」(550席)で、関西歌劇団が第99回定期公演として、日本のオペラを2本立てで上演した。2回公演で、今日は2日目。

 「白狐の湯」は、谷崎純一郎の原作、芝祐久の作曲。「赤い陣羽織」は木下順二原作、大栗裕の作曲。
 ともに関西歌劇団が武智鉄二の演出と初代団長・朝比奈隆の指揮で、「創作歌劇第1回公演」として1955年6月に大阪三越劇場で初演、翌年3月に東京・産経ホールで東京初演したオペラである。
 爾後、この2作を組み合わせた形で上演するのは、今回が初めての由。今回は船曳圭一郎の指揮とザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団、籔川直子の演出で上演されたが、「赤い陣羽織」の方は武智鉄二の原演出によるとクレジットされている。

 この2作を比較しながら聴いてみると、「日本のオペラ」としては、やはり大栗裕の音楽に注目すべきものが多くあるように思う。つまり、芝祐久の手法の方は、所謂セリフにフシをつけて歌っているという感であるのに対し、大栗裕のオペラの方は、方言のセリフがそのまま自然に歌になった、という印象なのだ。

 日本語の話し言葉が、リズムやアクセントもそのままに自然な歌に移し替えられた例は、昔の歌謡曲になら「若いお巡りさん」とか「3年目の浮気」など、特徴のあるものも少なくない。だが、こと創作オペラの分野になると、昔も今も━━皆無とまではいわないものの━━まず稀と言ってもいいのではないか。
 その意味でも、「赤い陣羽織」は、極めて巧みな作曲技法を示しており、それゆえに希少価値の高い、貴重な作品と言えるだろう。言葉と音楽の「日本的な掛け合い」が巧く決まっているのも、聴いていて快い。

 この「赤い陣羽織」は、「おやじ」と「おかか」の夫婦が、好色な悪代官を懲らしめるという、「三角帽子」の日本版のような物語だ。
 その演出は━━武智鉄二の舞台の記憶がない私としては、彼の「原演出」がどこまで再現されているのかは判らないけれど、「足拍子」や「悪玉踊り」など、歌舞伎や狂言の手法が随所に取り入れられているところは、やはり武智ならではのものなのであろう。現在の団員の中で「当時の舞台を経験した唯一の人」という林誠が、武智の演出を今に伝えたそうである。今回は歌手たちが、歌も演技も非常に巧かったので、その面白さがいっそう印象に残る。

 その林誠が、主人公の「おやじ」の役で、実に温かい表現で輝いていた。さすが、ベテランの味である。今日はこの人の存在が大きかった。
 清原邦仁の「代官」役も、好色さと横柄さで、その「おやじ」の対極としての存在を見事に発揮していた。横柄だが間の抜けた「庄屋」は、富永奏司が(石橋蓮司をパロディ化したような顔のメイクで)コミカルに好演、またその手下たる「子分」は、清水崇香がいかにもヘイコラした演技で巧く演じていた。
 孫太郎(馬)の橋本恵史も飛んだり跳ねたりでご苦労様。彼は前日の公演では「おやじ」を演じていたそうで、なかなか多芸多才な人である。

 女声陣でも、「おかか」の西原綾子、「奥方」の福住恭子がいずれも芸達者なところを見せた。代官屋敷の「奴(やっこ)」や「腰元」たちも、ただ立っているだけで、または「はい」と返事をするだけでサマになっているのは、やはり日本人が日本人役を演じるという強みだろう。
 最後は「名誉劇団員」の林誠が座長役を務めるような形で、幕を降ろした。

 話は戻るが、第1部で上演された「白狐の湯」は、白狐の化けた美女(河邉敦子)に恋い焦がれた少年・角太郎(松浦綾子)が彼女の魔力に引き込まれ、命を落とすという物語である。
 演出は籔川直子。カーテンを使ったシンプルな装置(野崎みどり)の舞台で展開される彼女の演出は、幻想的な美しさを狙いたかったことは解るけれども、この不思議な物語の視覚化としては、もう少し強いインパクトが欲しいところだ。たとえば泉鏡花的な怪奇さ、あるいは谷崎文学的な頽廃的妖艶さ━━そのどちらかの要素をもっと濃厚に打ち出せば、かなりイメージが違ったであろう。最後の白狐と角太郎の「愛と死」の場面など、もう少し耽美的なやりようもあったのでは? 解り易さを狙うあまりに、画竜点睛を欠くきらいがあった。
 それに、歌手にいつも客席を向いて歌わせる演出は、こんにち、すでに時代遅れである。「赤い陣羽織」で日本の伝統的演出の良さを示すのであれば、もう一方の「白狐の湯」では、もっとモダンな演技で対比を強調してもよかったのではないか。

 歌手陣には他に、中野陽登美(お小夜)、久本幸代(その母)、田中由也(巡査)、福井由美子(白人のカプルに仕える召使の女)らが出演したが、今日は若手が多かったそうで、そのせいか、舞台としての緊密感や味といったものには、残念ながら不足していた。その中で、角太郎を歌い演じた松浦綾子の澄んだ美しい声が印象に残る。

 ともあれ、関西歌劇団が総力を挙げた「縁の2作」の同時再演、大いに意義のある企画であり、上演だったことは疑いない。
 4時55分終演。阪神電車の駅へは向かわず、ホールに隣接するホテルの前からタクシーを拾い、JR尼崎駅に直行、5時46分新大阪発の「のぞみ」で帰京。

コメント

赤い陣羽織 数十年前、関西歌劇団、朝比奈さんの指揮で聴いたこと思い出しました。おかかは桂とし子さん林誠氏もでていたかもです。(彼は若かった)

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