2017-10

2017・9・10(日)ヴェルディ:「オテロ」 バッティストーニ指揮

      Bunkamuraオーチャードホール  3時

 今回の「オテロ」では、真鍋大度らの「ライゾマティクスリサーチ」による映像演出が鳴り物入りでPRされていた。
 演奏会形式ではあるが,舞台一杯に映像を投映し、登場人物の心理を視覚的に表現するというのが狙いだったようである。

 だが、歯に衣着せで言えば、この程度のものでは、現代のオペラ演出に一石を投じるとか、総合芸術としてのオペラに新しい風景を誕生させる、などという段階には、ほど遠い。
 抽象的な図柄を舞台一杯に投映し、躍動させるというアイディア自体は大いに結構だ。だが冒頭の嵐の場面でモノクロのさまざまな「模様」のみが乱舞するさまを、たとえば30秒間凝視していると、それだけで「だから何なの?」という心理状態になり、もう先が見えてしまうのである。
 私が唯一効果的だと感じたのは、第3幕の幕切れ、倒れたオテロを嘲笑するイヤーゴの惨忍性を視覚面でも強調するために、魔性的な映像を乱舞させた場面だけだった。

 映像演出は、これからますます大規模にオペラの舞台に取り入れられるだろう。プロジェクション・マッピングしかり、アニメ映像の活用然りである(来年4月にベルリン・コーミッシェ・オーパーが東京・西宮・広島で上演するバリー・コスキー演出の「魔笛」などは、全編これアニメと人間との組み合わせで、それはウィリアム・ケントリッジのドローイング・アニメ映像による演出よりも美しい)。

 今回の「オテロ」での試み自体は積極的に評価したいが、すでに音楽そのものにより心理描写が完璧に行なわれているオペラに視覚効果を加える演出というものは、この程度では残念ながら、とても目の肥えた観客を納得させるわけには行かぬ。いっそうの工夫を願いたい。面白くなる可能性は、充分にある。カーテンコールで、上階席からいくつか飛んだブーイングは、私から見れば、すこぶる正直な意思表明だったと思われる。

 となると、やはり今日の「オテロ」の成功の第一要因は、やはりアンドレア・バッティストー二の指揮である。これは予想通り、直截でスピーディで、胸のすくような「オテロ」の音楽だった。
 もちろん、ただ威勢がいいだけのものではない。丁寧で、神経の行き届いた指揮である。第4幕の「柳の歌~アヴェ・マリア」などではぐっとテンポを落し、絶望に打ちひしがれたデズデーモナの心理を存分に表現し、かつ叙情的な美しさを強調していたのが見事だった。そして、彼に煽られた東京フィルハーモニー交響楽団の演奏も、なかなかに熱っぽかった。

 歌手陣は手堅い。
 題名役のフランチェスコ・アニーレは、澄んだ声を持っていて、声だけ聴くと若々しい気鋭のオテロという雰囲気を感じさせるが、風貌とはだいぶイメージが違う。彼は、先頃のバッティストーニ指揮の「イリス」で、好色な男オーサカを歌い演じた時には実に見事だった(?)ので、推して知るべし。
 イヤーゴのイヴァン・インヴェラルディは大柄の体躯に力のある声で、悪役ぶりを過剰に強調しない表現に徹していた。

 デズデーモナはエレーナ・モシュク、あまりオペラ歌手らしくない容姿で、声も時に音程が明確でなくなるのが気にはなるけれど、可憐なヒロインという役柄には向いているだろう。2008年に上岡敏之の指揮で「椿姫」のヴィオレッタを歌った時など(新国立劇場)、愛らしく真摯な高級娼婦という感だったのである。

 共演は、高橋達也のカッシオ、清水華澄のエミーリアを筆頭に、ジョン・ハオのロドヴィーコ、与儀巧のロデリーゴ、斉木健詞のモンターノなど、実力派を揃えて充実。
 合唱は新国立劇場合唱団と世田谷ジュニア合唱団で、特に前者は最後まで板付きのまま、力と安定感に満ちたコーラスが流石に素晴らしかった。
 なお字幕は、直訳体の文章が随所に見られて意味が解りにくく、流れを掴みにくい傾向があったのが惜しい。

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眼目は,出だしのつかみと言うべき、一気に劇の中に引き込む集中力と明瞭さを保ちバランスいい大音量から、柳の歌で歌手に気持ちよく役になりきって歌わせるバッテイストーニのオペラ指揮者の手腕です。
東條氏ご指摘のように字幕訳は所々違和感ありました。
イリスで聴いてオテロ役は少し心配しましたが、歌唱は安心して聞けました。
イアーゴは立派で、全体として、十分に満足できる公演。
来期の演奏会形式オペラに又期待したい。

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