2017-10

2017・9・8(金)セイジ・オザワ松本フェスティバル
オーケストラ コンサートC 小澤征爾&内田光子

     キッセイ文化ホール  7時

 ザルツブルクで転倒して腰を痛めたということで、同フェスティバルでの9月4日のリサイタルを中止した内田光子だが、小澤征爾とのピアノ・コンチェルトだけは何とか頑張って弾く、と発表されていた。
 そのため、今日のコンサートで彼女が登場した時には、はたして答礼のお辞儀なんかやって大丈夫なのかな、などという危惧も含め、聴衆はかなりハラハラしながら見守っていたのは事実である。何しろ入場と退場の際は、小澤征爾が彼女をエスコートしながら歩く━━というわけで、かえって小澤さんの元気さの方が目立つ雰囲気だったのだから。

 それはともかく、今回2人がサイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)とともに演奏したのは、プログラム第2部における、ベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第3番」だった。1999年以来18年ぶりの、このフェスティバルでのこの曲の協演である。そして、2人がこの音楽祭で協演したのは2006年の「皇帝」以来だったのだ。

 第1部での2曲が指揮者なしで演奏されていたこともあって、第2部の協奏曲で小澤征爾が指揮を始めた途端━━いや始める前から、場内には息づまるような期待感と緊張感がみなぎっていた。この25年続いて来た松本のフェスティバルは、やはり小澤征爾あってこそのフェスティバルなのだ、ということが、こういうところで否応なしに示されてしまうのである。いいかどうかは別として、彼はここでは半ば神格化された立場にあるといっても、決して過言ではないであろう。

 とにかく、その小澤の指揮のもと、SKOの演奏は恐ろしいほど引き締まって、重量感とスケールに満ち、揺るぎない構築感を以って進んで来る。記憶にある18年前の演奏とは全く違う。あの時よりも小澤の指揮が深みと重みを増し、いっそうの凄みを増しているのである。

 かたや内田光子の演奏は、あの頃よりは柔らかくなったか。体調のせいかもしれないが、18年前のピリピリした、聴き手に並外れた緊張を強いる演奏というイメージはやや薄れ、温かみが加わって来た。
 といっても第1楽章でのカデンツァや第2楽章(ラルゴ)で、ぐっとテンポを落して沈潜の極みに達するのはいつも通り。しかもカデンツァでは、敢えて言えば、いつの間にかオーケストラの存在をすら一瞬だが忘れさせてしまう━━変な言い方だが、まるでソロ・リサイタルを聴きに来ているような、本当にそんな感覚にさせてしまうほどの内田光子の演奏だったのである。
 実に、この2人の協演が実現しただけでも、素晴らしいことというべきだろう。

 演奏会の前半に、SKOが指揮者なしで演奏したのは、グリーグの組曲「ホルベアの時代から」と、R・シュトラウスの「13管楽器のための組曲」。
 前者は豊嶋泰嗣をリーダーとする日本人弦楽奏者たちの演奏で、文字通りかっちりと引き締まって隙のない、技術的にも完璧さを誇った快演だ。先日の、これも豊嶋がリーダーを務めていた水戸室内管弦楽団の演奏よりは多少柔らかい、ふくらみのある音楽だったが、それでも全員が一致して、ただ一点に集中して行く演奏には違いなかった。

 いっぽう、対照的に後者では、ジャック・ズーン(フルート)、フィリップ・トーンドゥル(オーボエ)ら外国人勢が多いSKOの管楽器グループの演奏なので、完璧に音の揃った合奏というより、それぞれがオレがオレがといった調子で自己の存在感を主張しつつ、その上でアンサンブルをつくり上げて行くというタイプの演奏となった。
 これほど、日本人奏者と外国人奏者のアンサンブルに対するスタイルの違いが明確に示された演奏会も珍しいだろう。

 前述の、小澤と内田によるコンチェルトのあとのカーテンコールは、客席総立ちのうちに、およそ10分間続いた。
 今年のセイジ・オザワ松本フェスティバルは、明後日・10日に、今日と同じプログラムがもう一度繰り返され、閉幕の運びとなる。
   別項 信濃毎日新聞
   別項 モーストリー・クラシック12月号
   →(談)北海道新聞

コメント

稀に見る忘れがたい演奏会でした

内田さんのいつもの床に頭が着きそうになる答礼のお辞儀には驚きましたね。
腰の怪我で心配でしたが、凄い演奏でした。堂々とした弾きぶりはベートーヴェンの音楽と対話をするかのような演奏で圧倒されました。第1楽章でのカデンツァについても<まるでソロ・リサイタルを聴きに来ているような>とのご感想にも同感で、舞台上のオケの楽員さんが皆前かがみになって耳を澄まして聴いていた光景も忘れ難いものです。小澤さんの指揮も伴奏というものではなく、内田さんと小澤オケとの究極の協奏だった感じで、感銘を受けました。前半の二曲もサイトウキネンのメンバーならではの個性と勢いと熱意が強く感じられる素晴らしい演奏に酔いました。マーラーのシンフォニーを三年続けているルイージさんの演奏も毎年本当に感動していますが、主演目になるオペラがないフェスティバルは何とも残念です。

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