2021-06

2017・6・25(日)山田和樹・日本フィル マーラー・ツィクルス(完)

       Bunkamuraオーチャードホール  3時

 2015年1月に開始されたマーラーの番号付交響曲のツィクルスも、早いもので、あっという間に完結になってしまった。
 今日、最終回は、「交響曲第9番」。そして、組み合わされて来た武満徹の作品は、「弦楽のためのレクイエム」である。コンサートマスターは扇谷泰朋。

 武満徹の作品は、このシリーズの中で、ある方面からは「添え物」「前座」とでもいう目で見られてきたようだが、これだけ彼の作品がシリーズとして取り上げられた例は稀である。その意味では、極めて有意義な企画だったと言うべきだ。9つの作品の演奏には多少のムラもあったが、演奏はすべて真摯であった。
 今日の「弦楽のためのレクイエム」は、満を持して代表作が登場したといった感である。だがこの曲が、マーラーの「9番」の終楽章と、いかに見事な「対」を為していたか、両者を真剣に聴いた聴き手には納得できたはずである。良い組み合わせの選曲であった。

 「9番」の方は、山田和樹のこれまでのマーラーにおける演奏構築と同様、明快で、どんなに沈潜した個所においても、陰鬱な翳りをあまり感じさせない。
 それは特に、全曲の頂点たる第4楽章で際立っていたのではないかと思う。ふつう聴かれる演奏よりも、レガートな性格がさらに薄くなり、主題のフレーズがメリハリに富み、リズム感も明快だったことや、重厚な和声感よりも各パートの旋律性が重要視され、浮き彫りにされていたことなどもその原因であろう。

 例えば第49~50小節の朗々たるホルンのソロの、活力にあふれた歌。ふつうならこのソロは、弱音の弦の上にフォルテでふっくらと浮かび上がるように、弦との和声感を保ったまま吹かれ、瞑想の中に光明を見出したような感じを生むものだが、今日はフォルティシモで朗々と、屈託なく吹かれて行った。このあたり、山田和樹も若々しいな、という気がする。

 一方、弦で言えば、冒頭3小節目以降の、あるいは第56小節以降の弦楽器群の動きなどで、分厚いハーモニーの凄絶な力感というより、各パート間の明るい対話といったような特徴が聴かれた。従ってそこでは、弦の轟々たる厚い響きが、深みへ、深みへと下降して行くような、「不安の交じった安息」は得られない。それゆえ、重々しく深刻な世界には陥らなかったようである。やはり山田和樹は、いい意味で、青年なのである。

 それにしても、このスコアの最後の1ページほど、物凄い音楽はないだろう。マーラーは大変な音楽を書いたものだ、とつくづく思う。
 今日の山田和樹が指揮した演奏のように、極限までテンポが落され、主題が原形をとどめないほどまでにばらばらになり、虚空の中に溶解して行く、というのは多くの指揮者も強調している手法だ。それもまた一つの美しい浄化の凄みを感じさせるだろう。

 だがその対極的なものとして、昨年のマリス・ヤンソンスが指揮した演奏のように、あまりテンポは落されず、しかも最後まで和声的な響きを保ったまま結ばれて行く、という演奏もあった。
 それはまるで、最後まで端然とした容を崩さずに、安らかに生を終って行く、というようなことを感じさせて、私は心の底から震撼させられたものである。

 マエストロ山田は、終演後の楽屋で私に、そして打ち上げパーティの席上でも来客たちに、「あの最後のところをやってみたら、死ぬのが怖くなくなったような気がして来た」と語っていた。
 私も同じことを考えていたのだが、ただそれは、若い時における感じ方と、年齢を重ねてからの感じ方とでは、おそらく全然違うはずである。━━聴き手が齢を取るに従い、あの最後のページは、ますます強烈な凄さを感じさせるようになるだろう。
      別稿 音楽の友8月号 Concert Reviews

コメント

あのホルンの一番は至るところで音楽を壊していたように感じたのは私だけでしょうか?一楽章最後のフルートと絡むミステリオーソと書かれた箇所がまるでホルンの無神経な演奏でぶち壊されたように感じましたし、至るところでホルンの一番が出たとたんに音楽が壊されているように感じ、耐えられませんでした。あれがヤマカズの意図なのだとしたら私にはヤマカズの音楽は理解できないのだと思います。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://concertdiary.blog118.fc2.com/tb.php/2736-1bf7826b
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

























Since
September 13, 2007

これまでの来訪者数

ブログ内検索

最近の記事

Category

プロフィール

リンク

News   

雑誌 モーストリー・クラシック に連載中
「東条碩夫の音楽巡礼記」