2017-10

2017・6・1(木)新国立劇場「ジークフリート」初日

      新国立劇場オペラパレス  4時

 新国立劇場の「指環」の第3作。指揮は芸術監督・飯守泰次郎。シュテファン・グールド(ジークフリート)、グリア・グリムズレイ(さすらい人)、リカルダ・メルベート(ブリュンヒルデ)他の歌手陣で上演。

 ゲッツ・フリードリヒのこの「指環」での演出は、ゴットフリート・ピルツの舞台美術を含め、どうも作品ごとにムラがあるのではないか。「ラインの黄金」での舞台の凡庸さは「ヴァルキューレ」で何とか払拭され、名誉挽回かと思われた(もっとも、かなり手直ししたらしい)が、この「ジークフリート」ではまた、あやふやな水準に戻ってしまった感がある。

 第1幕は未整理ながらも、宝剣ノートゥングの再生に関しては、ミーメの下手糞な機械操作による鋳造作業より、自然児ジークフリートの手造り作業の方が遥かに上━━ということを多分主張したいのだろうと推察されたが、舞台の緊密度がどうも低すぎる。ただこれは、2回目の上演以降には、ある程度解決される可能性はあるだろうと思う。
 だが、第2幕となると・・・・「大蛇」は何とも玩具じみているし、歌手1人とダンサー1人の計4羽集団になった「小鳥」たちの格好は、趣味の違いは別としても、どう見てもあまりサマにならぬスタイルである。これでは、拍手も少々おざなりにならざるを得ない。

 第3幕後半(岩山の上)は、「ヴァルキューレ」第3幕の舞台に近くなる。中央の「台」と、両側の壁の他には、猥雑物のない光景だ。むしろこの方が、まとまりを感じさせたのではないか。
 ともあれ、この第3作まで観たところでは━━フリードリヒの演出としては、ベルリン・ドイツオペラで制作された所謂「トンネル・リング」に比べると、水準にはどうやら大きな差がある。制作費の関係もあってこのような程度のプロダクションを持って来なければならなかった芸術監督の苦衷も察したいとは思うけれども━━。

 今回ピットに入ったオーケストラは、東京交響楽団である。別に悪い意味で言っているわけではないけれども、このオケは、本質的にワーグナーにはあまり向いていないのではないかという気がする。 以前ここで演奏した「さまよえるオランダ人」もそうだったが、これまで成功した例があるとは言い難い。
 今日も、第1幕では慎重に構え過ぎたか、重量感とスケール感に乏しく、最強音も硬く、弱音も瑞々しさに不足するきらいがあった。

 ただ、第2幕の「森のささやき」などでは美しい雰囲気を醸し出していたし、第3幕ではオーケストラ全体に、量感も力感も出て来ていたようにも思われた。第3幕のワーグナーのオーケストレーションは、第2幕までのそれとは大きく違うから、その所為もあるとは思うが、、いずれにせよ第3幕ではオケの鳴りがかなりよくなったことは、たしかだろう。ブリュンヒルデの心が和らいだ時からの「純潔の動機」の個所なども、弦には豊かなふくらみが戻って来ていた。
 それゆえ、もしかしたら2日目以降の上演では、全体に持ち直すかもしれない。
 とはいえ、第2幕の「ジークフリートの角笛」のホルンは・・・・やはり不可ない。溜息が出てしまう。

 飯守泰次郎の指揮は、今日の演奏だけ聴くと、第1幕では抑制し、第3幕に雄大な頂点を持って来る意図というところだろうが、その他の点に関しては、オーケストラの出来から言ってその意図が完全に達成されていたとも言い難いだろう。

 主役歌手陣は、程度の差こそあれ、いずれも佳い味を聴かせてくれた。
 シュテファン・グールド(ジークフリート)は、第1・2幕での放埓な少年と、第3幕で「怖れを知った」あとの若者とを極めて明確に演じ分けた。ほとんど出ずっぱりのこの超人的な役柄を疲れも見せず、最後の強靭な愛の二重唱までを強靭に歌い上げたのは流石というほかはない。
 リカルダ・メルベート(ブリュンヒルデ)は、出番こそ短いものの、目覚めた乙女に相応しい明るい声で、途中の髙いH音と、最後の髙いC音とを輝かしく響かせた━━特に後者では、朗々と長く延ばして聴かせどころをつくった。ブリュンヒルデ自身にも、ジークフリートにも、新しい世界が開けるだろう━━そうした期待をはっきりと示す歌唱だった。

 グリア・グリムズレイ(さすらい人)は、今日はちょっと声が粗く、特に第3幕第1場では━━いくらヴォータンが焦りの心境にあったにしても━━音程さえ判別できぬほどの荒々しい歌い方をする必要もないと思われたが、如何なものか。
 アンドレアス・コンラッド(ミーメ)は、狡猾な、というよりは必死で知恵を絞るいじらしい小者といった巧い歌唱と演技。
 トーマス・ガゼリ(アルベリヒ)は、ヴォータンに切り落とされた右手首に鈎をつけた凄愴な姿で駆けずり回っていたが、彼の歌唱にもうほんの少し凄味があれば、さすらい人やミーメと対峙して相手の行動の矛盾を論理的に突く迫力がいっそう明確に出たろうと思われる。

 クリスティアン・ヒューブナー(大蛇ファーフナー)は、巨人時代のヘルメットをかぶったまま現われたのがご愛敬だが、このような演出はどこかで見たことがある。クリスタ・マイヤー(エルダ)は短い出番ながら存在感充分で、第3幕前半を立派に引き締めた。
 なお、「小鳥」は、鵜木絵里、吉原圭子、安井陽子、九嶋香奈枝が順に歌っていたが、大木にぶら下がったような無理な姿勢のせいか、みんな妙にヴィブラートが強すぎ、「可愛い小鳥」のイメージとは程遠く、おしつけがましくなってしまったようである。

 ━━以上が初日の模様である。45分の休憩時間2回を含め、終演は9時40分頃。
 長丁場なので、休憩時間には、ホワイエに並んだ売店が賑わっていた。特に第2幕のあとではカレーライスだかハヤシライスだかが大人気で長蛇の列。漸く行列が消えたので、せめてそのカウンターで売っているソーセージ・セットだけでも・・・・と行ってみたら、残ったソーセージはたった3本、ザワークラウトがちょうど前の人の分で全部なくなってしまい、仕方なく諦める。

※追記 字幕は三宅幸夫さんのもの。安定した、主語も起承転結も明確な文体で、安心して視ていることができた。なお、次作「神々の黄昏」でのオーケストラは、同劇場サイトによれば読響で、飯守さんとは東京二期会の「パルジファル」の協演で成功しているから期待できよう(新国のプログラムでは東京フィルとなっていたので驚いたが、どうやら間違いだったらしい)。

コメント

新国に到着してから担当オケが東響であることに気が付きました。なかなか健闘していたと私は思いました。ヴァルキューレの担当オケと比べ、何より覇気があり、低弦がしっかりし、金管も安定。新国での東響は“影のない女”、“マクベス夫人(ショスタコーヴィッチ)”、快演が記憶に残っています。
グールドは素晴らしいジークフリート! 演出はインスピレーションの感じられない平凡なもの。

皇太子殿下ご臨席でありましたが、オケは特に序盤、どうも固かったですね。東響が好きなので聴きに行ったのですが。

小鳥達は妙に露出の多い衣装で、カーテンコールではバレエ団のダンサーさんは羽根できちんと隠していたのに、歌手さんの三羽が開けっ広げだったのがどうも、気になってしまいました。

ホルンのトップだけ、一時的にベルリンとかミュンヘンに応援を頼むわけにはいかないんでしょうかね。歌手1人分くらい余分に払っても、この曲なら十分その価値あると思います。

読売交響楽団

6月4日のマチネーを聴きました。第3幕は本当に素晴らしかった。ステファン グールドは天才です。まるで日本でなく異国にいる夢心地でした。ところでミスプリと発表されていましたが、演奏は読売交響楽団らしいです。

6/7、二幕までは隙間風の吹く舞台と、どうにもピンとこない演奏に?でしたが、三幕はやっとワーグナーらしい上演に。装置が劇場サイズより小さく、歌手が装置上で歌わないのはちょっと興醒めかと。ピット内の楽器配置は前作の時の方が良いのでは。シャーガー以上のタイトルロールはいないのではと思っていましたが、グールドはさすがです!

4日、7日から、4日の感想を。

1, 2幕では、オケの響きが力強いライトモティーフには合うのかなと思う一方、
流麗さや雄大さには欠け(特にさすらい人のモティーフが残念)、どうもノリが悪い印象も...。

第3幕ではオケも(歌唱も)舞台も、一変し、冒頭から一気に引き込まれました。
東条先生の評や公演動画で予想はしていたものの、想像以上でした。

昨年の上野の、第3幕冒頭の几帳面な演奏、第1幕が「頂点」だったのとは対照的だと思いました。

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14日、3回目

14日が1日、10日に続いて3回目でした。
小鳥たちは、この日は前をスカーフ(?)で隠してカーテンコール出て来ました‼️自然でした。初日などの姿はかわいそうでしたね。
多分、14日のグールドは最高だったのでは。声がその前の二日をはるかに凌駕すると思える、鋭さ、輝きでした。ブリュンヒルデが少々かわいそうにも感じました。(とても良かったのですが)超人ですね!
3幕のオケは輝いてました。ワーグナーの長い断筆後の豊饒さを存分に感じ取らせてくれました。
# あの赤い傘は何を象徴していたのでしょうか?

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