2019-08

8・20(水)旅行日記最終日 ザルツブルク音楽祭 「ルサルカ」

   モーツァルト・ハウス(旧祝祭小劇場)

 湖のほとりの「森」を曖昧宿(夜の女の溜り場? 娼婦の館? 今は何ということばで呼べばいいのか?)に読み替えた、ヨッシ・ヴィーラーとセルジョ・モラビトの演出。

 魔法使いの老婆をその元締めに、さらに3人の森の精を全裸に薄いヴェールをまとっただけの娼婦に仕立てたのは、第2幕における森番の歌詞にもある「森では魔法使いの婆さんが皆をたぶらかし、一糸まとわぬ森の精が男を惑わせる」を拡大強調した設定だろう。
 シェローが76年のバイロイト「指環」で、フリッカが「今まで何人もの男たちをたらしこんで」と噂する言葉を利用し、ラインの乙女たちを娼婦として設定したのと同じ発想である。

 ルサルカ自身は森の精でなく水の妖精だが、スラヴの伝説では、彼女もまた男を誘惑し、狂わせる性格を備えている由。となればこの演出におけるように、彼女が魔女の仕切る娼婦の館で森の精たちと一緒にいる理由も成り立つのかもしれない。「遊女が客に惚れた」という伝か。
 もっとも、冒頭でルサルカが湖から出て館にもぐりこむ場面があるので、無邪気な彼女が単に「遊びに来ている」だけのことかもしれないが。

 毒々しい赤色を使ったこの「宿」のサロンは、非常に下品で、感じが悪い。
 だが、第2幕での人間の館もこのヴァリエーションのような光景になっており、それは少しは綺麗に飾られてはいるものの、本質的には両者は共通している。
 普通は、人間世界は穢れたもの、妖精や自然の世界は無垢なもの、という対比の概念があるものだ。このオペラも一見その構図のようでありながら、しかし台本をよく読むと、実はそうでないことが解る。この演出もそこを衝いたものといえよう。

 この演出では、ルサルカが魔女から(王子を殺すために)渡されたナイフで自らを刺し、早々と死んでしまうという設定にされている。
 もっとも、これも台本ではあまり明確に描かれておらず、その後で王子の前に現われる彼女が「生きているとも死んでいるとも判らぬ亡霊のような姿と化している」という説明もあるので、この演出のような形になっていても全く違和感がないどころか、むしろ自然に思えるほどなのだ。「あらゆる犠牲も無意味だった」という歌詞も最後にあるため、なるほどそのことかと思わせられてしまうのがヴィーラー&モラビトの演出の巧妙なところだろう。

 フランツ・ウェルザー=メストの指揮が実にいい。いわゆる情緒纏綿たるスタイルではないが、無味乾燥なものでもない。ドヴォルジャークの音楽の旋律と和音の美しさを浮き彫りにして、今まで気づかなかったような魅力を作品から引き出して見せてくれる。また演奏の構築が明快そのものなので、聴いていて長さを感じさせないのだ。
 オーケストラはクリーヴランド管弦楽団。少々殺風景な音色で、几帳面な演奏ではあるが、この曲の良さを存分に味わわせてくれたことは間違いない。

 ルサルカのカミッラ・ニールンドは清純な歌唱表現で、しかも美しく、妖精としての雰囲気を充分に出している。「亡霊」になってからのメイクもなかなか巧く、息を引き取った王子をみずから「水中」(といっても揚げ蓋の中だが)に落し、自身は十字架を手にして彼を見送るラストシーンでの死霊同然の顔つきなどには、ちょっと鬼気迫るものがあった。
 声楽面で最もすばらしかったのは王子役のピオトル・ベチャーラ。情熱と力感があふれる歌唱で、第1幕の終わり近くにある長い歌など、息を呑ませる迫力だ。
 底意地の悪い公女役はエミリー・マギーで、これは何となくぴったりのイメージ。魔法使いの老婆役はビルギット・レンメルト、大柄な体躯を生かして、メイクからして何か気持悪くて物凄い。河童のような水の精はアラン・ヘルドで、これも迫力満点だろう。3人の全裸の森の精(アンナ・プロハスカ他)は、本当に見事に踊って歌う。

 7時半開演で、休憩は第1幕の後に1回あり、終演は10時40分となった。薄汚くて気持の悪い舞台のところもあったが、好みを別にすれば、これも良くできたプロダクションといえるだろう。
 

コメント

・メスト・クリーヴランド管がこんなに中欧的な音を出すのかと驚きました。翌々日のコンサートも金管がけばけばしくなく弦がやわらかくしっとり。早くこのコンビで来日してほしいですね。
・初演時は、演出のみにかなりブーイング出ましたが、まぁ仕方ないでしょうね。しかし、ドヴォルジャークのオペラってこんなに素敵なのかと再認識しました。べチャーラは、昨年の来日時は印象薄かったのですが、これはすばらしかった。
・瑣末ですが、魔女の老婆のアレゴリーの猫。人形、実物、かぶり物と出てきますが、実物の猫、20分くらい鎮座し、よく調教されてるなと感心しました。

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