2017-11

2017・5・14(日)山田和樹指揮日本フィル マーラー・ツィクルス第7回

      Bunkamuraオーチャードホール  3時

 山田和樹と日本フィルハーモニー交響楽団がやっている「マーラー・ツィクルス」も着々と進み、ついに第3期の「昇華」という段階に入った。
 今回は、第7交響曲「夜の歌」である。組み合わせている武満徹の作品は、今日は「夢の時」だ。

 このシリーズ、最初の頃は緊張が過ぎて━━ということもあったのだろうが、気負いが先行してしまい、あまりまとまりの無い演奏になったこともあった。
 だが今日の「7番」では、オーケストラの状態が、これまでの中でおそらくいちばん良かったのではないか、という気がする。

 これは、山田和樹と日本フィルの呼吸がいっそう合って来たこと、日本フィルの演奏水準がより上がって来たこと、このオーチャードホールの音響的な特徴━━「音の癖」に、日本フィルが慣れて来たこと、などの要素も関係しているだろう。
 特に今日は、江口有香を久しぶりにコンサートマスターに迎えた弦楽器群の音色がことのほか美しく、ふくよかな拡がりと厚みにあふれて演奏をリードしていたことに加え、トランペットやホルン、テノールホルンをはじめとする金管のソロ、木管やティンパニのソロなどがどれも快調そのもので、胸のすくような、鮮やかな演奏を繰り広げていたのである。

 山田和樹は、今日のプレトークで「この曲を《夜の歌》と呼ぶことには疑問がある」と話していた。したがって最初の4つの楽章も、どちらかといえば屈託ない表情の演奏になっていた。もっとも、彼のマーラーには、もともと全体にそうした楽観的な色合いがあるようで、前回の第6番「悲劇的」などでも、悲劇性とかいうよりも、強靭なエネルギー性を重視した演奏になっていたように思う。
 今回も、前半4つの楽章が持つ「夜の怪奇な雰囲気」は薄められ、むしろスケルツァンドな、夕べのセレナードといったような感の演奏になっていた。

 そういう解釈には、個人的には異論がないわけでもないが、彼の(少なくとも現在の)マーラー観がそうなのであれば、それはそれで尊重すべきであろう。それに、その観点の方が、前半の4つの楽章と、最後の「躁状態」ともいうべき第5楽章とが、しばしば問題になっているような大きなギャップを感じさせずに結びつく、という長所(?)も出て来るというわけだ。

 それにしてもこの日の第5楽章は、まさにその「マーラーの躁状態」の極みを出した演奏ではなかったか。山田和樹は、ひたすら猛速テンポで押しに推し、狂乱の坩堝のまま最後まで押し切った。この休みない怒号狂乱には、本当にマーラーという人はおかしな作曲家だ、と、途中で苦笑し、頭がぐらぐらして辟易してしまう。だが、その勢いで最後まで乗り切った山田和樹と、それに臆することなくついて行った日本フィルのエネルギーには、ただもう感嘆するほかはない。

 しかも、そこでのオーケストラのアンサンブルは、以前のような乱れを生じさせなかった。ホールの響きがいいために、音に明晰さが失われることは多々あったけれども、それは決して混濁した音にはなっていなかったのである。
 私は、基本的には、ホールの響きに応じた音づくりがあってもいいとは思う。だが、それは指揮者のコンセプトによるし、こちら側の聴く席の位置にも音の響き方が違うから、一概にどうこう言うわけには行くまい。ともかくいずれにしても、いい演奏であったことは疑いのない事実なのである。

 プログラム前半の、武満徹の「夢の時」(1981年)は、大編成の管弦楽による、かなり強い響きを持つ作品だ。
 この場合の「夢」は、決して「甘い静かな夢」ではなく、むしろ劇的な変化に富んだ、「明るさ」と「翳り」が交錯する世界ともいえる。今日はアクセントの強い、部分的に激しさをも含む演奏だった。

 私たちの世代、あるいは、もう少し年上の世代の指揮者たちによる武満の作品は、むしろレガートで抒情的な、静謐な表現が採られることが多かったのだが、山田和樹のような若い世代の指揮者は、外国人指揮者が演奏するような、メリハリの強いタケミツのイメージを考えるのかもしれない。このシリーズで彼が指揮したタケミツは、概してそういう特徴があった。面白いものである。
          →別稿 モーストリークラシック8月号

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