2019-05

8・9(土)フェスタサマーミューザKAWASAKI 最終日
ユベール・スダーン指揮 東京交響楽団

   ミューザ川崎シンフォニーホール

 今日もほぼ満席状態。

 スダーンが指揮するロシアや東欧のレパートリーはこれまであまり聴いたことがなかったが――あったかもしれないが、すぐには思い出せない――今日の最初の「ルスランとリュドミラ」序曲など、弾むようなリズムで開始され、しかも要所に聴きなれぬアクセントがつけられて音楽が鋭角的になっているあたり、いかにもスダーンぶしといった感じなのにはニヤリとさせられる。
 ところが、帰宅して序曲のスコアを引っ張り出してよく見ると、スダーンが強調していた音符には、まさにスフォルツァンドやアクセントがちゃんと付いているのだ。
 つまり彼は、これまで慣習や演奏の勢いで等閑にされていたスコアの指示をもう一度正確に再現しようとしていたのである。この辺は彼がロシア人指揮者でないために――あるいはいわゆるオペラ指揮者でないために、既存のイメージに捉われずにできたことなのかもしれない。

 だがそうはいっても――やっぱり正直なところ、ロシア特有の色彩を充分に感じさせない演奏は、必ずしも手放しで楽しむというわけにも行かないところが、辛い。
 次のラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」も、最後のドヴォルジャークの「交響曲第8番」も、実にきちんと設計構築された立派な演奏だったのだが、どうも面白み(というのは曖昧な言い方だが)に不足するのである。演奏とは、演奏する方にとっても聴く方にとっても、実に難しいものだ。

 その点、楽しませてくれたのは、協奏曲と、アンコールで「音の絵」の1曲を弾いてくれた小川典子の色彩感豊かな演奏であった。デビューした頃は力任せのところもあった人だが、今はもう別人の風格がある。今日は、ラフマニノフの光と影を充分に味わわせてくれた。

コメント

8・9(土)フェスタサマーミューザKAWASAKI 最終日

ミューザ音楽祭の掉尾を飾る公演とあって、コンサート全体にフェスティーヴォな雰囲気が溢れていました。しかし演奏内容には音楽祭のファイナル特有のルーティンともいうべき印象よりも、一種の興味深いものを、感じさせるのでした。何しろこのミューザ音楽祭に東京交響楽団から初めて音楽監督が指揮をする演奏会なのですから、オケの抱える諸相も明らかになろうというものです。座席は2階C6列34番。

小川典子のピアノは流石というか、実に堂々たるグランドマナーによってこの作品のすべてを語り尽くしていました。こういう演奏によってこそラフマニ2は本来の姿を見せるのです。思い返せば僅か十年ほど前までは、私はこの協奏曲がチャイコンと共に大の苦手でした。有名ピアニストの演奏でも、凡そ最後まで聴き通せないのでした。ところが或る機会に小川典子の演奏に接して「目から鱗」。以後小川典子の演奏で聴くのが楽しみになったのでした。

この日もそうであったように、どんな細部も曖昧な表現が無い。正確に言えばラフマニノフがこの曲に込めたピアニズムが、思いの丈が、詰まるところこの作品のすべてが等身大に伝わる演奏なのです。何よりも拡張の高さは他のピアニストたちと比べて比類なく、響きは透徹しきっている。オケとのコンビネーションも心得たもので、ピアノが普通に出るところ、微妙に引くところ、オケと仮借なく闘うところ、それらをすべて自在に操りながら表現してゆくのです。世界レヴェルで見て第一級のピアニズムを堪能しました。小川さん、ありがとう!

さてスダーンの指揮についても触れるべきでしょう。一纏めに言ってスダーンは作品の楽譜に立ち戻って、曲を丁寧に組み立てていく姿勢をとっていたことが印象的でした。グリンカでは、ノンビブラート奏法に加えて拍節感も鋭角的な隈取りに徹するなど、ピリオド的なアプローチが目立ちます。ドヴォルザークでも事情は似たようなもの。作品の表情の洗い直しという点では、新鮮且つ挑戦的な演奏でした。

しかし肝心の演奏結果としてどうでしょうか。アクセントの過度の強調によって、特にグリンカでは流麗さを伴った躍動は失われ、鋭角的な重さが支配しがちでした。ラフマニノフでは小川典子の折角のスケール感に富んだ表情付けに対して、オケのフレージングに膨らみと大きさが不足しがちでした。ラフマニノフに必須の響きに色彩感も厚みもないのです。そしてドボルザークでは、細部には珍しいバランス表現にも事欠かなかった反面、過去の指揮者がドヴォルザークの書法の弱点を補っていた箇所を、元のまま裸で鳴らすことにより思わず貧相な響きを露呈するなど、必ずしも成功したとは思えません。全体に音楽の運びが不自然で、豊かさに乏しいのでした。因みにスダーンは在京オケの音楽監督として珍しい、ある意味でユニークな存在ではあることを申し添えておきます。

ところでラフマニノフで記憶に残るのは、小川典子がシナイスキーの指揮で弾いた英国での演奏。これはネットで世界に放送されています。その指揮の素晴らしいここといったら比類が無く、小川典子は持ち前のピアニズムを伸び伸びと発揮していました。シナイスキーは過去にも来日したことがありますが、一般的にはさほど注目を浴びなかったはず。今季の読売日響に再登場するので要注意です。ただし今回は小川典子との共演はなし。シナイスキーは女性ソリストには厳しく、ある意味で女性演奏家から恐れられているマエストロですが、小川典子に対しては敬意をもって英国で共演を重ねています。

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