2017-03

2016・11・27(日)マリス・ヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団

       サントリーホール  2時

 マーラーの「交響曲第9番」1曲というプログラム。満席のホール。

 この曲でも、マリス・ヤンソンスの指揮は、温かさに満ちている。第1楽章も、陰翳は濃いが、決して深い憂鬱に陥らず、絶望的な気分をもたらす演奏にならない。どこかに優しい希望と慰めの情感を湛えているような演奏なのだ。
 第3楽章なども、演奏の形としては充分に荒々しいものだが、そこにマーラー特有のヒステリックな騒がしさとか、形容し難い躁状態━━他の多くの指揮者はそれらを強調して表現する━━のようなものが感じられるかというと、そうでもない。

 それゆえ、第3楽章を聴き終って、過去と決別するかのような別世界の第4楽章に入った時に、その2つの楽章の対比をかみしめようとすれば、ちょっと戸惑いを感じるものがある。
 少なくともこのヤンソンスとバイエルン放送響の演奏では、第4楽章の弦の幅広い主題が、前楽章までの世界との違いを衝撃的に感じさせるという効果は生まなかったのだ。

 だがそれはヤンソンスの失敗ということでは決してないはずで、おそらく彼は当初から、この交響曲を死への道程とは解釈せず、憂鬱―苦悩―未来―希望といったような解釈を考えていたのではないか。だからこそ、第4楽章のあの圧倒的な量感の弦を、それほど濃厚かつ強烈に響かせず、そこでもむしろ温かみのある優しさを以って主題をつらぬいて行ったのではないかと思われる。
 いわゆる激烈な感情にあふれたこの曲の演奏を聴き慣れていた私としては、今回の演奏には正直なところ、ちょっと戸惑ったのは事実だ。だがそれを理解し、いったんそれに心身を投じてしまうと、ヤンソンスのヒューマニズムは、この上なく魅力的なものになる。

 第4楽章の中盤以降は、まさにその表れだ。
 どの小節においても演奏に均整美を失わないヤンソンスとバイエルン放送響は、スコアの最後の40小節ほどを、見事な構築性と形式感を以って演奏して行った。最後の第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロによる最弱音を、これほどはっきりとした和声感を意識して聴くことができた演奏は、初めて体験するものだった。

 それゆえに、すべては安息に包まれて「完結した」という印象がいっそう強くなる。しかもその終結の、何と柔らかく、美しく、快いこと。そう、どんなに幸せだろう、こういう音楽のように、こういう演奏のように生を終えることができたなら━━。

 最後の音が消えたあとも、満席のホール内には物音一つ、息づかい一つ聞こえず、静寂が保たれていた。やがてヤンソンスが僅かに身体を動かし、弦楽器奏者が高くあげたままの弓を静かに下ろし終ると、会場全体から微かな吐息が漏れ、それから拍手がおもむろに巻き起こり、急激に熱狂的に高潮し、ブラヴォーの歓声が交じって行った。作品と演奏に対する聴衆のこの集中力は、近来稀なほど素晴らしいものだった。

コメント

お疲れさまです。かなり遅れてのコメント失礼致します。 残念ながら28日(ストラヴィンスキー:「火の鳥」(45年版) 他 )の聴衆はそこまでの緊張感、集中力は無く、散漫でした。   今回のBRSOで私が聴けたのは、26日(「アルプス交響曲」 他 )と28日ですが、どちらもマリスの(音楽の)芸風に枯れた魅力が出てきたなぁ・・・という印象でした。「火の鳥」(45年版)でも「カスチェイ・・・」なんかは、かなり遅めのテンポ設定がとられていたし、「終曲」も過去を回想するようなノスタルジックな雰囲気が漂っていました (そんな音楽を聴いて普通なら直ぐにブラヴォーなんて言いたくない)。 アンコールの直前、登場したマリスは雛壇を踏み外し派手に転倒 (!!) 。直ぐには起き上がれず、拍手は止み場内は騒然となりましたが、楽員に助け起こされたマリスはガッツポーズで無事をアピール。アンコール2曲を難なく乗り切ったのでした (老齢の指揮者、出演者を何度も何度もステージに呼び戻すのは酷だ ((マリスの場合、ただでさえ心臓に持病を抱えているのだから) 。時は21世紀。我々は、そろそろ考え直す時期に来ている)) が、連日大曲を指揮し続けたためか、かなり疲れが見えました。元来はサービス精神豊富な芸人系。どうか無理はなさらないでほしいです。 コンセルトヘボウを辞めたので、今後は一年おきの来日となるでしょう。   話は変わりますが、11月後半はコンサート予定が重なりすぎ・・・。他とうまくずらせないものでしょうかね? おかげで随所で究極の選択を迫られました(来年も凄いことになりそう・・・)。 日本も海外のように11:00開演の公演が組まれるようになると、例えば11:00~、15:00~、19:00~ と一日に3公演聴くことも可能になります。ま、黙ってても来るマニア、コンサート・ゴアーではなく一般聴衆に合わせてるわけだから難しいだろうが。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://concertdiary.blog118.fc2.com/tb.php/2594-32f142b3
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

Since
September 13, 2007

これまでの来訪者数

最近の記事

カテゴリー

全記事表示

全ての記事を表示する

RSSフィード

ブログ内検索

プロフィール

リンク

News   

雑誌 モーストリー・クラシック に連載中
「東条碩夫の音楽巡礼記」