2017-10

2016・11・13(日)モーツァルト:「後宮からの逃走」

     日生劇場  2時

 「NISSAY OPERA 2016」として上演されたもの。
 田尾下哲の演出、川瀬賢太郎指揮読売日本交響楽団の演奏に、配役(ダブルキャストのA組)はコンスタンツェを森谷真理、ベルモンテを鈴木准、ペドリッロを大槻孝志、ブロンデを鈴木玲奈、オスミンを志村文彦、太守セリムを宍戸開。合唱にはC・ヴィレッジシンガーズ(合唱指揮は御大・田中信昭!)。
 歌唱はドイツ語、台詞は日本語という上演形態。

 田尾下哲の演出は、基本的にはオリジナルに従っているが、非常に動きの激しいもので、長い歌の間にも絶えず舞台上で目まぐるしく何かが行なわれているという、ドイツの歌劇場などでは日常茶飯事のように行われているタイプのものである。
 例えば、脱出の機会を窺いつつアリアを歌うベルモンテは、トルコ兵士の巡察を逃れるため、間奏のたびごとに物陰に身を隠す。また、コンスタンツェのアリア「どんな拷問も」は、太守セリムとのレイプ寸前の激しいもみ合いの中で歌われる。

 私としては、いわゆる「アリアを客席に向いて両手を拡げて歌う」などというやり方は大嫌いなので、今回のようなやり方の方が好い。日本人歌手はこう言う手法に慣れないので嫌がるという話を聞いたことがあるが、最近はだいぶ変わって来たようだ。
 特に、あれだけ滅茶苦茶な姿勢で暴れ回りながらも全く歌唱にブレが感じられなかった森谷真理の体当り的熱演は高く評価されていいだろう。

 歌手陣。その森谷真理は、このところ活躍目覚ましいソプラノだが、どんな姿勢をとってもまっすぐ声が出るところなど、日本人歌手としては珍しい存在だろう。歌唱に冷たさと硬さが感じられることも多いので、温かい人間的な表情が加わるのを待ちたい。
 安定していたのは鈴木准。彼もこのところモーツァルトなどで活躍目覚ましい。大槻孝志も好演だ。

 志村文彦は芝居達者で馬力もあり、オスミンにはぴったりだが、オスミンの売りものの肝心な低音域が響かないのだけは惜しい。
 鈴木玲奈はチャーミングな舞台姿でブロンデ役には適しているが、聴かせどころのアリア(第8番)での高音のコロラトゥーラは全く未だしの段階だ。早いところ基礎を固めて欲しいところである。しかし拍手と歓声の大きさから、凄い人気があると見える。

 演劇畑から来た宍戸開のセリム太守役は、恰幅のよさで映えた。声もよく響いていたので安心した次第である━━なぜこんなことを言うかというと、ちょうど50年前の今頃、所も同じこの日生劇場でベルリン・ドイツオペラが「後宮からの逃走」を上演した際(あれは印象的だった!)、セリム役として当時の大名優クルト・ユルゲンスが特別に来日したのだが、声の質が歌手たちと全く異なり(当たり前だが)ちっとも響いて来ずにがっかりさせられたことがあり、以来「役者によるセリム」にはトラウマになってしまっていたからである。

 なお、今回の日本語台本は田尾下哲の補完によるもので、オリジナルにはないストーリーの伏線や背景の事情などが加えられていた。それは「無くても解るが、あればさらによく解る」という性質のものだろう。
 ついでながら、セリムがベルモンテの父親の「暴虐」のほかに、母親のホクロのことを語るくだりでは、台詞は何処か抜けていなかったのだろうか? あれでいいのだとすると、「序曲」のさなかに演じられていた「花嫁略奪」の伏線が、非常に解り難くなるのだが・・・・。
 また今回の日本語の台詞、歌手たちの一部に例の「歌うような発声」が聞かれたのが残念。これでは、せっかくのリアルな芝居がぶち壊されてしまう。

 さて、注目の川瀬賢太郎の指揮。小編成の読響を歯切れよく鋭く響かせて、いいところを聴かせてくれた。とはいえ、ちょっと力み返った演奏という印象が無くもない。
 また何故か、歌手とのテンポがずれてしまうことがやたら多かった。歌手が走り過ぎるケースで、特に「バッカス万歳」の個所など━━彼のテンポも遅すぎたのは事実だが━━どうなることかと思わせられるほどだったのである。このあたりは、やはり指揮者の統率力が問われるところだ。これからいっそう出番が多くなる人である。今後に期待をかけよう。
 終演は5時20分頃。
     音楽の友新年号 Concert Review

コメント

後宮からの逃走(2016年11月11日)

初日公演を鑑賞。東条さんがお聴きになった公演と同キャスト。初日は一部の台詞のやり取りで譲り合うような場面があったものの、全体としては緊張感の高い公演でした。歌手のアンサンブルはたいへん良く、歌わない太守セリム役である俳優の宍戸開とのバランスも良かったと思いました。
最前列で聴いたので、歌・表情・演技・キャスト同士の間合いなど間近に感じとることができ終始集中して聴くことができました。
初めて聴く「後宮からの逃走」はモーツァルトの後のオペラの曲・ストーリー・登場人物のエッセンスが入っている部分があって楽しい体験でした。もっと上演されても良い気がします。2日後には横浜で「フィガロの結婚」を聴き、頭の中ではこの二つの作品の音楽がつながっているような感じになりました。
田尾下演出作品を初めて観たのは2012年の二期会「カヴァレリア・ルスティカーナ/パリアッチ」。それ以来、気にして田尾下演出を観るようにしています。今回も全体として興味深い演出でした。
今回の作品は「ニッセイ名作シリーズ」として中高生をオペラ公演に無料招待するプログラムが用意されているとのことで、会場ではその事前学習用に制作したDVDが参考資料として配付されました。過去の恨みを乗り越え、宗教の違いを乗り越え、許しと感謝の場面で終わるこの作品は、中高生が初めて接するオペラ作品として非常に適していると感じました。
初日の川瀬さんの指揮はとても魅力的でした。読売交響楽団の演奏も良かったです。
「俳優が参加しているオペラ公演」「演出家は演劇の仕事も多い」「生徒への無料公演が用意されている」などが理由かどうか、通常のオペラ公演とは少し違う雰囲気の観客の多い公演でした。オペラ・ファンの層が広がるのは喜ばしいことだと思います。

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