2017-10

2016・11・12(土)ターネジ:「Hibiki」世界初演

     サントリーホール  6時

 サントリーホール開館30周年記念行事の一環。
 前半に、30年前の落成記念委嘱作品、芥川也寸志の「オルガンとオーケストラのための響」が演奏され、後半にこの30周年記念委嘱作品であるマーク=アンソニー・ターネジの「Hibiki」が演奏された。
 大野和士指揮東京都交響楽団に、前者ではオルガンの鈴木優人が、後者では東京少年少女合唱隊とミヒャエラ・カウネ(ソプラノ)および藤村実穂子(メゾ・ソプラノ)が協演。

 芥川作品は、私は30年前の初演の際には聴いていなかったので、今回が初めての体験だったが、オルガンのパートもオーケストラのパートも、随分荒々しく攻撃的な曲想にあふれているものだと驚く。当時のプログラム冊子に彼が「いささか“祝祭”的な意味から遠くなってしまった」と書いている(今回のブックレットに再録)のは、それを指しているのだろうか。

 発音上ではそれと同じタイトルを持つ今回のターネジの新作も、「祝祭」というよりは、現代の世界の苦悩を織り込んだ要素の多い作品である。演奏時間約46分、全7曲からなる構成のうち、第1曲「Iwate」と第5曲「Suntory Dance」にこそ(少しは)明るいイメージも込められているけれども、そのような曲想はこの2曲だけ。

 第2曲「Miyagi」には地震と津波による激動のイメージが織り込まれているし、第3曲「Hashitte Iru」にいたっては、宗左近が東京大空襲の際に逃げる途中で母の手を放してしまったことの苦悩を詠んだ「炎える母」の一節が引用され歌われるという、身の毛のよだつような内容をもっている。
 第4曲「Kira Kira Hikaru」では「きらきら星」の和訳歌詞が児童合唱により歌われるが、その曲の最後にオーケストラがあたかも希望を持つように上昇した瞬間、それが突然、無情なほどにスパッと断ち切られるくだりなど、ターネジはまるで、夢や救いなどこの世にあり得ない、と突き放しているようにさえ感じられる。

 第6曲「On the Water’s Surface」は、近松門左衛門の「曽根崎心中」の「道行」、つまり何と心中の「あはれ」である。そして最後の第7曲の題名は「Fukushima」で、合唱と2人のソリストがこの単語を繰り返し歌って行くという内容になる。━━ああ、日本について何か書くとなると、結局やはり話を「フクシマ」へ持って来るのかよ、という、やりきれない思いが、曲を聴いているあいだじゅう、胸の中で渦を巻く。

 煎じ詰めれば、この曲の核となっているのは、日本の苦悩のイメージである。プログラム冊子に掲載されているターネジ自身の解説には、「開館30周年を記念する作品を書いて欲しいと・・・・東日本大震災から5年に当る年でもあるとのこと・・・・お祝いと追憶を兼ねた作品を書くのは至難・・・・」とある。結果としては追憶の方に重点が置かれたようだが、祝祭の記念委嘱作だからといって陽気な曲でなくてはならぬという謂れはないのだし、いつか再演されることがあっても、その時には記念委嘱の但し書などはどこかへ消えてしまっているであろうから、これでもいいのかもしれない。
 ただし微苦笑させられるのは、「サントリー」という言葉が、ついに現代音楽の題名(第5曲)にまでなった、ということ。

 音楽の方は、ターネジのことだから、特に過激なことはやっていない。ごく穏健で、耳当りの好い音だ。このような精緻な大曲をたった一度聴いただけで云々するのは、私ごときが烏滸がましい限りでもあるから、これ以上は言うのを避ける。ただ、そのわりに曲の構築が実に明晰に聴き取れたのは、大野和士と都響の優れた演奏によるところが大きいだろう。
 しかも、アンコールとしてその「サントリー・ダンス」がもう一度演奏された時には、そこでの音楽構築はいっそう明解なものに聞こえ、また都響の演奏も卓越した美しいものになっていたのである。

 声楽も見事。合唱団も美しく歌ったが、ソロにこの2人の女声歌手を迎えたのも、成功の一因であったろう。特に藤村の深々としたアルトの声は、曲に濃い陰翳を与えていたのだった。

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