2019-07

7・27(日)パリ国立オペラ/ワーグナー:「トリスタンとイゾルデ」

  オーチャードホール

 オーケストラと歌の豪華な演奏付で、無声映画を観ているような感。
 と言っては、また下世話に過ぎるか。

 舞台上の生身の歌手たちの演技はセミ・ステージ・レベルで、「あってもよいが、なくてもよい」程度の演出。しかしこれは、今回の主眼たる映像演出と均衡を保たせるためのピーター・セラーズの意図だったのだろう。
 背景のスクリーンに最初から最後まで一貫して投影される映像は、ビル・ヴィオラによるもので、巧妙に演奏とシンクロしており、トリスタンとイゾルデの心象風景をさまざまな形で表わしている(ただし、マルケ王のそれは無情にも無視されている)。
 第1幕ではあまり趣味の良くないところも少し出てくるけれど、海や雲や水といった自然の映像は私の好みでもあり、大いに楽しめた。

 これは、バイロイトのシュリンゲンジーフ演出のようなグロテスクな映像ではなく――あれはあれで面白かったが――、あるいは先日のエクサン・プロヴァンスの「コジ・ファン・トゥッテ」のようにリアルな背景効果を持つ映像でもない。きわめて抽象的な心理映像である。
 それゆえ、音楽のイメージを破壊することが全くない。それがありがたい。
 こういった映像演出は、音楽の魔力を引き立てる効果を持つはずである。それゆえ、私はこの試みを支持する。このような手法は、今後一層増えることになるだろう。

 今日の指揮は、セミョン・ビシュコフ。昔とは比較にならぬほど、音楽に巧みを増した。
 オーケストラも、先日の「アリアーヌと青ひげ」に劣らず豊麗で官能的で、見事なものであった。楽員の間にオーケストラ・ピットの造りについて不満が生じていたことは23日の項にも書いたが――私の印象では、パリの本拠のガルニエなりバスティーユなりで聴いた時より、今回日本で聴いた時の方が、よほどいい音に聞こえていると申し上げたいくらいだ。
 とはいえ、そのいい音の中にも、今日のオーケストラには、ちょっと聞き慣れない、不思議なバランスの個所がいくつかあった。特に第2幕終わり近く、当然聞こえるべき木管や弦のパートがどこかへ行ってしまい、妙に金管が出すぎたりして、異様な和音に聞こえるところがいくつもあったのである。
 これは、いったい、何なのだろうか。もしパートが「落ちた」のでなければ、ビシュコフの音作りに一風変わったところがあった、としか言いようがないだろう。

 主役歌手陣は、クリフトン・フォービス(トリスタン)、ヴィオレータ・ウルマナ(イゾルデ)、フランツ・ヨーゼフ・ゼーリヒ(マルケ王)、エカテリーナ・グバノワ(ブランゲーネ)、ボアズ・ダニエル(クルヴェナル)。いずれも文句ない。
 ごうごうと鳴るオーケストラに声が消されるところもなくはなかったけれど、ドイツやフランスの歌劇場のオーケストラはこのくらい雄弁であるのがふつうなのである。
 ただ、客席上方で歌った「ブランゲーネの警告」では、グバノワは少々怒鳴りすぎたのではなかろうか。メーロトを舞台上で歌ったサムエル・ユンという人も同様だ。
 
 一つ、文句がある。今回のプログラムには、脇役歌手のプロフィールが全然載っていないのだ。こういうことは困る。

コメント

6/20に兵庫県立でトリスタンを見ました

今回のトリスタンは歌手・オケともに良い演奏を聴かせてくれて良かったです。特にビシュコフの円熟ぶりには感心しました。一方演出についてですが、セラーズ・ヴィオラの演出意図は恐らく、これは阿部さんの受け売りですが、「マルケ」という名詞は古代ケルト語で海を意味し、映像内でトリスタンとイゾルデが最初は水浴、その後愛し合い、海に落ちて苦しむというストーリーですが、ある程度マルケ王は2人の関係を察知し、最初から容認していたのではないかと思います。ただその表現方法が映像だけでは情けないですね。特に私の席が最前列左端であり、PAのすぐ前で、スピーカーの音が大きすぎ、それで映像ばかり見つめているとまるで家でDVDを見ているのと代わりませんね。映像を使うのも一部だけにしてセラーズらしい他の演出方法を考えてほしいですね。

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