2017-05

2016・10・20(木)バッティストーニ指揮東京フィル 「イリス」

       サントリーホール  7時

 この9月に首席指揮者に就任したアンドレア・バッティストーニが、マスカーニのオペラ「イリス(あやめ)」を取り上げた。東京フィルの「ジャポニズム・オペラ」のシリーズの第2弾、とのことである。

 演奏会形式だが、ちょっと面白い趣向が凝らされていた。照明(喜多村貴)が活用されているのはもちろんだが、オルガンの前には大きな紗幕が下ろされ、バッティストーニ自ら選定した葛飾北斎や歌川広重、狩野芳崖らの浮世絵が、若干デフォルメされた図柄で投映される、という具合である。これが単に雰囲気づけにとどまらず、たとえば好色な若衆「大阪」がイリスを卑猥に近い言葉で口説く場面では、北斎の「蛸と海女」(この絵、昔、樋口可南子と緒形拳が凄い場面を繰り広げた映画「北斎漫画」の一場面を思い出させた)が投映され、いやが上にもエロティックな幻想を誘い出す効果を上げているのだ。
 歌手陣は、主としてステージ前面で、ある程度の演技を交えつつ歌うが、幻想的な場面では、前述の紗幕の彼方で歌う。

 バッティストーニは、例のごとく速めのテンポで歯切れよく、最弱音はやっと聞き取れるような音で、最強音は荒々しくホールを揺るがせるような音で轟かせ、緊迫感を全曲に漲らせた「イリス」を再現した。これまでにも何度かこのオペラを聴く機会はあったが、これほどドラマティックな音楽のオペラだったか━━と、今回初めて認識させられた次第である。
 正直いって聴く前は、この作品は演奏会形式で聴くオペラとしてはどうかな、と危惧していたのだが、それは全くの杞憂に終った。このバッティストーニのオペラにおける並外れた才能に、ここでもまた舌を巻かされたのである。こうなると、彼の指揮でイタリア・オペラをもっと聴いてみたい、という気も起って来る。次回は来年9月の「オテロ」になるというが━━。

 歌手陣もよかった。イリス役のラケーレ・スターニシは、最初のうちはヴィブラートが物々しく重く聞こえて辟易させられたが、第2幕以降はのびやかな声にスケール感を加え、「太陽の光のうちに選ばれた女性」といったイメージに相応しい歌唱を聴かせてくれた。
 出色だったのは、金持の男・大阪を歌ったフランチェスコ・アニーレで、粋な若衆というイメージからは遠い容貌と体躯だが、それだけに第2幕での好色丸出しのオヤジの雰囲気でイリスに迫る場面では、大いに存在感を出していた。

 イリスの父親チェーコ役の妻屋秀和と女衒・京都役の町英和はいつも通りに「決め」ていたし、出番は少ないが屑拾い役の伊達英二も舞台を引き締める。ディーアと芸者の役を歌った鷲尾麻衣が極めて清澄な声で映えたことも特筆すべきであろう。

 P席に配置された新国立劇場合唱団もなかなかの迫力で、最後の「太陽賛歌」では轟くオーケストラに負けず声を響かせたのは立派である。東京フィルも、オペラを劇場のピットの中で演奏する時とは違い、ステージ上では豊かな音で「音楽し」てくれたのが有難い。コンサートマスターは三浦章宏。
 休憩1回を含み、終演は9時25分頃。

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