2017-08

2016・10・12(水)マリインスキー・オペラ 「ドン・カルロ」

     東京文化会館大ホール  6時

 ヴェルディの「ドン・カルロ」、今回は4幕版による上演。

 演出には、ジョルジョ・バルベリオ・コルセッティとファビオ・チェルスティッチという2人の名がクレジットされており、どちらが主導権を取っていたのかは定かでないが、いずれにせよイタリア系の人たちによるプロダクションと思われる。
 シンプルな装置に、流行りのプロジェクション・マッピングもどきの映像も取り入れた舞台だが、しかし━━これほど「演技性の希薄な」演出は、今どき、ちょっと珍しいのではないか。

 歌手によっては、何とか(自主的にでも?)身振りや顔の表情に演技を示す人もいる。
 フェルッチョ・フルラネット(フィリッポ2世)がそうだし、アレクセイ・マルコフ(ロドリーゴ)も、憂国の志士の役に相応しく、多少の強面の演技をみせていた。
 だが、ヨンフン・リー(ドン・カルロ)は身振りと表情は大きいものの、これは演技というよりむしろ、両腕をあちこち動かすだけの、歌う時の類型的な身振りという類だろう。そしてイリーナ・チュリロワ(王妃エリザベッタ)は能面のような表情を最後まで崩さないし、ユリア・マトーチュキナ(エボリ公女)も舞台上での視線の方向が定まらない。

 おまけに群集と来たら、主人公の悲劇に全く反応を示さず、大広場の場面での兵士や群衆はただ歩き回るだけだ。大詰めの場でカルロと槍で戦っていた2人の兵士が、先帝カルロ5世の声で歌う謎の修道僧に出くわしたとたんにあっさりと向きを変え、のこのこと引っ込んでしまうのに至っては、手抜きもここに極まれり、としかいいようがない。
 このラストシーンはもともと謎だらけで、どう演出しても訳の解らない舞台が多くなるものだが、今回のもフィリッポ2世だけが顔を覆ってしゃがみ込んだ以外は、全員があまり驚いた様子も見せずボーッと立っているだけで、ドラマの終結としては、ますますインパクトのないものになっていたのである。

 とはいえ、興味深い設定も観られなかったわけではない。その唯一の個所は、第3幕のフィリッポ2世の居間の場面だ。
 王が「妻はわしを愛したことがない」と嘆く時、彼が王妃の裏切りの証拠たる首飾り(これは後でエリザベッタが「盗まれた」と訴えて来るもの)を苦々しく手にして歌うこと。なるほど、これは良い伏線である。
 また背景に写される映像で、死して横たわる自分を、息子のカルロが王冠を頭に着け、この上なく穏やかな優しい表情で見守ってくれている幻想が描かれたことは━━息子がおのれの後継者になってくれたらどんなに幸せであろうか、という彼の内心の想いを描き出したもので、王のもう一つの悩みを如実に表す解釈として、出色のものだった。

 もう一つ、王が宗教裁判長との問答との間に仕方なく書いたカルロの処刑命令書(?)を、ロドリーゴが盗み見するという演出が行われたが、これも彼の自己犠牲の決意の伏線として成り立つアイディアだろう。
 こういう精妙な設定を思いつく演出家なら、他の場面でももう少し気の利いたことをやるはずだと思うのだが・・・・あるいは2人のうちのどちらかが、もしくは他の誰かがオリジナルを歪めたか、または本来の意図が歌手陣に周知徹底されていなかったか、だろう。

 音楽面においては、決して悪くはない。エリザベッタ役のイリーナ・チュリロワが、最後のアリアで少々不安定で、しかも歌い方が物々しく、一時代前のロシア人歌手のスタイルのような感を与えたことを除けば、みんな一応手堅く安定して歌っていた。
 フルラネットは貫録で聴かせるといった雰囲気だし、マルコフは予想通り胸のすくような歌唱ぶりで、表現に色彩感が伴うようになればいっそう素晴らしくなるだろうと思わせる。ヨンフン・リーは、かなり癖のある歌いぶりだが、これはこれでいいのだろう。またミハイル・ペトレンコ(宗教裁判長)は、この不気味な役には声の点で少し軽いものの、歌唱としてはそれなりにまとまっていただろう。

 そしてゲルギエフの指揮。かつてザルツブルク音楽祭の「ドン・カルロ」(ヴェルニケ演出)でウィーン・フィルを指揮した時と同じように、骨太で剛直で、轟々と流れる大河のごとき「ドン・カルロ」をつくり出していた。マリインスキー劇場のオーケストラも、今回はかなり良い状態に在るように思われる。
 休憩2回を挟み、10時20分終演。

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