2017-05

2016・10・2(日)新国立劇場 「ヴァルキューレ」初日

      新国立劇場オペラパレス  2時

 新国立劇場の新しい「指環」ツィクルスが、「ヴァルキューレ」に入った。

 芸術監督・飯守泰次郎が自ら指揮する東京フィルハーモニー交響楽団が、今回は珍しく、これまでにないような大音響で鳴り渡った。時にはムキになって咆哮怒号しているようなところもなくはなかったけれど、か細い貧弱な音のワーグナーよりは、ずっといい。
 要所でホルンなどが音を外したり、木管がひっくり返ったりすることが頻発するのだけは困るが、とにかく、今回のオーケストラは、概ね良しとしたい。弦のトレモロの力感も充分だった。
 ただ、歌手陣が粒も揃っていることだし、声量も充分なのだから、ピットの位置をもう少し上げて、オケの最強奏を無理せずに楽々と豊麗に響かせるというやり方はできないのだろうか?

 飯守は、おれの劇的なワーグナーを聴け、といわんばかりの指揮を繰り広げた。「ヴォータンの告別」の頂点でのクレッシェンドは、昔から彼の得意とした個所だが、今回も見事に盛り上げて決めていた。
 現代の指揮者がよくやるような、乾いて素っ気ないワーグナー演奏とは根本的に異なる、ヒューマンな情感が根底に流れるアプローチが、飯守のワーグナーのそれである。私は、こういう温かいタイプのワーグナー演奏の方が好きだ。アンサンブルに多少の緩みがあるにしても、そういう不確かさが飯守の持ち味なのであり、それがむしろ手づくりの温か味を生むのである。

 ヒヤリとさせられた個所といえば、第1幕のジークムントのモノローグの中で、トランペットの「剣の動機」がしばらく出なかったところくらいなものだろう。しかし、われわれ聴き手側からすれば、奏者がここの音楽をよく知っていれば、こんなにマを空けていいわけはないと気がつくだろうに、と訝ってしまう。こんなのは奏者が自然に流れに乗って吹いて行くのが当然のような気がしてしまうのだが・・・・。

 歌手陣は前述の如く、今回はいい顔ぶれが揃っていた。
 まずジークムントのシュテファン・グールド。まさに「荒々しいヴェルゼ」の息子、大神ヴォータンが期待をかける英雄━━といった力強さだ。第1幕での「ヴェルゼ! ヴェルゼ!」における力にあふれた長い叫び、同幕最後の「かくてヴェルズングの血よ、栄えよ!」での力感に富んだ大見得など、理想的なジークムントといえよう。

 ヴォータンのグリア・グリムスレイは、3年前のびわ湖ホールにおけるのと同じように、今回も落ち着いた風格の神々の長を歌い演じた。ブリュンヒルデのイレーネ・テオリンは例の如くの馬力だし、ジークリンデのジョセフィーネ・ウェーバーは可憐さを残した歌唱と演技で注目されるだろう。フリッカのエレーナ・ツィトコーワが気品と冷たさをよく表現していたのには感心。フンディングのアルベルト・ペーゼンドルファーも、ちょっと愛嬌のある顔の表情と力のある低音の声とで、面白い個性の役柄を作っていた。
 ヴァルキューレたちは佐藤路子、増田のり子、増田弥生、小野美咲、日比野幸、松浦麗、金子美香、田村由貴絵、いずれも大暴れして健闘。

 ゲッツ・フリードリヒの演出は、人物の構図が第3幕などであの「トンネル・リング」を思い出させるようなところがあるが、とにかくオーソドックスでストレートなスタイル、当節としてはむしろ珍しいものに属する。
 ヴォータンは決してやくざの親分ではなく、一族の安寧をひたすら模索している「神々の長」だし、ブリュンヒルデを除く8人のヴァルキューレたちは少し素頓狂だが、それでも忠実に父神の命に従っている。すべてのキャラクターがシリアスに生き、行動しているという、ト書きに従った演出だ。新鮮味に欠けるとか面白味がないとかいう批判は受けるだろうし━━事実その通りではあるが━━しかし、これはこれで悪くはない。

 舞台美術と衣装はゴットフリート・ピルツ。フリードリヒのストレートな演出の中で精一杯趣向を凝らしているという感だが、見せ場の「魔の炎の場面」では舞台を取り巻く炎の中に緑色のレーザー光線(でしょう?)によるフレームが作られたのは、何となくクプファーのバイロイト版を連想させた。
 衣装に関しては、ヴォータンやフンディング、フリッカなどのそれは結構だと思うが、第1幕のジークリンデのスタイルがドイツ料理店のおばさんみたいだったのはともかく、ブリュンヒルデの姿と来たら何か空手の試合着のようで、あまり趣味がよろしいとは言えない。

 観客の入りは良い。ホワイエは初日らしい賑やかな雰囲気にあふれていたし、上演にはブラヴォーとブーイングが交錯し、少し活気が出て来たようだ。
 休憩40分と35分を含み、終演は7時25分となった。

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