2017-08

2016・9・27(火)インキネンの日本フィル首席指揮者就任記念演奏会

     サントリーホール  7時

 アレクサンドル・ラザレフの後任として日本フィルの首席指揮者となったピエタリ・インキネン。その就任記念の演奏会は、定期ではなく、特別演奏会の形で開催された。

 それも、マーラーやシベリウスではなく、ワーグナー・プロだ。しかもありきたりの「名曲集」ではなく、ソリスト歌手を招いての「ニーベルングの指環」からの抜粋プロである。指揮者とオケの意欲が覗われ、「打ち出し方」の巧さが感じられる。
 協演歌手はリーゼ・リンドストローム(ソプラノ)とサイモン・オニール(テノール)。コンサートマスターは木野雅之。

 前半に「ジークフリート」第3幕から、序奏に続いてヴォータンの場面の最初がオーケストラのみで演奏され、次いでジークフリートが岩山へ向かう場面からブリュンヒルデとの二重唱の最後までが全部演奏された。
 第2部では「神々の黄昏」から、序奏と、少し飛ばしてジークフリートとブリュンヒルデの二重唱および「ジークフリートのラインへの旅」、第1幕のハーゲンのモノローグのあとの間奏の一部、そして「ジークフリートの死と葬送行進曲」、「ブリュンヒルデの自己犠牲」および終曲━━という具合に、巧みに接続されて演奏された。

 これは、相当な長さと重量感である。終演は9時25分頃になり、すこぶる力のこもった演奏になった。
 インキネンは速めのテンポでたたみかけ、時にはスピーディ過ぎて素っ気ないところもあったが、若い世代の指揮者によるワーグナー解釈の一つのあり方として、決して悪いものではない。ワーグナーはやはりいいものだ、という感慨を抱かせる演奏であったことは確かである。

 ソリスト2人の声も、昔の歌手のような女傑・豪傑のタイプでなく、むしろ細身のリリカル系で、これもインキネンの指揮のタイプによく合致していた。リンドストロームのブリュンヒルデは、ゲルマン神話の女戦士というより初々しい少女といった趣であり、オニールのジークフリートも神経質で純粋な少年という感。

 だがこのお二方、「ジークフリート」第3幕の最後の二重唱は美しく昂揚して素晴らしかったが、何かそれで全精力を使い切ってしまったような感じではなかったろうか。「神々の黄昏」もよく歌っていたことは確かだが、どうも声のパワーも含め、第1部に比べるとやや精彩を欠いたような気がする。

 日本フィルは、並々ならぬ頑張りよう。ステージ上の雰囲気たるや、火の玉と化して突進し、インキネンの煽りに応え、ワーグナーの魔窟に挑む、という感だった。
 それはいいのだけれど、「ジークフリート」冒頭の手探りのような出だしや、同幕でのホルン群の弱さ、第2部までの全体を通じてのトランペットの不安定(珍しいことだ)、細部の仕上げの乱れなどもあり、そう手放しで絶賛できる状態でもない。ラザレフの定期で聴かせたあの鉄桶のごときアンサンブルと比べると、夏の間に何かがあって、アンサンブルが「また」荒れてしまったとしか思えぬ。そういう一進一退の状況があるようでは、未だオーケストラとして完璧とは言い難いのではないか。

 とはいえ、「ジークフリート」後半の演奏は見事な昂揚と充実を示し、前述の歌手陣の快唱とともに、客席を熱狂的に湧き返らせたのは、紛れもない事実だった。
 そして「神々の黄昏」でも、ホルン群が復調し、特にホルンのソロは見事な演奏を聴かせ、オーケストラも概して引き締まって、3年前の「ヴァルキューレ」第1幕の演奏の素晴らしい出来には及ばぬまでも、熱気充分のワーグナーを聴かせてくれたことも間違いない。「葬送行進曲」でのエネルギー感など、目覚ましいものがあった。
 新しい首席指揮者との今後の活動に期待しよう。

コメント

いつも興味深く拝読させて頂いております
この演奏会、オーケストラ演奏(インキネンの解釈)についてワーグナーらしくなく、がっかりしたというご感想の方が多かったようですけれど、わたしは上記の批評内容にに非常に共感します

ワーグナー

50年前こういうプロをやるのは、国内では、若杉弘くらいだった。「オーケストラの音じゃない」と評されていた読響を指揮して、それでも聴衆は、今日と同じく結構わいていたものだ。当時よりはオケの技術は随分進歩しており、ホルンのソロなど、安定感で際立っていた。ゲルト・ザイフェルトのよう、とはいかないが。東条先生は「素っ気なさ」と書かれていたが、指揮は、少しストレート過ぎるのではないか。ライトモティーフ等の理解度の問題か、オケもそれぞれの場面にふさわしくない音をときおり出していた。

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初めて投稿させていただきます。
ワーグナー作品、とりわけ「指環」を中心に聴いている者です。
歌手陣の、第1部に比べるとやや精彩を欠いた、という部分、同感でした。
特に、ブリュンヒルデの自己犠牲では、もっと心に迫るものがほしかったです。

ワーグナー作品では、今年4月の上野の春・音楽祭でも、
第一幕と比べて、二・三幕が尻すぼみ気味。
先日の二期会の「トリスタンとイゾルデ」(9/10)でも、同様の印象があり、
最近どうも、最初が盛り上がり、徐々にしぼんでいく傾向を感じます。
この先も、新国立の「ワルキューレ」や、ティーレマン指揮の「ラインの黄金」など、
楽しみな公演が続きますが、最後まで高揚するようなパフォーマンスを期待したいものです。

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