2017-08

2016・9・10(土)高関健指揮東京シティ・フィル 「ファウストの劫罰」

      東京オペラシティ コンサートホール  2時

 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団が第300回定期公演を迎えた。今日は常任指揮者・高関健の指揮で、ベルリオーズの劇的物語「ファウストの劫罰」。
 ステージには、西村悟(ファウスト)、福島明也(メフィストフェレス)、林美智子(マルグリート)、北川辰彦(ブランデル)、吉成文乃(天の声)、東京シティ・フィル・コーアと江東少年少女合唱団が並ぶ。コンサートマスターは戸澤哲夫。

「ファウストの劫罰」をナマで聴ける機会は滅多にない。私が聴いたものを振り返ってみても、今世紀になってからは、東京二期会の舞台上演の時のみだ。前世紀(!)には、サイトウ・キネン・フェスティバルでの小澤征爾指揮、ザルツブルク音楽祭でのカンブルラン指揮の、それぞれ舞台上演。その前は━━東京でのレヴァインとMETオーケストラの、遡れば小澤征爾指揮や若杉弘指揮のいずれも演奏会形式上演、という程度だろうか。

 そのレアな「ファウストの劫罰」が、この9月に限っては、東京シティ・フィルのほかに、スダーン指揮東京響(24、25日)でも競演されるという珍しい事態になっている。ここでもまた偶然の「カチ合い」である。不思議なものだ。しかしこの曲は、ベルリオーズの最高傑作だと私は思うし(プレトークで高関さんも同じことを言っていた)昔から好きで好きでたまらない曲だから、何度でも聴きたいほどである。

 さて、その高関健が、精魂こめて取り組んだ「ファウストの劫罰」。彼らしい整然たる構築と、節度と均衡を保ったテンポ及びデュナミークで、極めて密度の高い演奏をつくり出した。シティ・フィルも、文字通り熱演した。冒頭のヴィオラだけはいかにも自信なげで頼りなかったけれど、その個所を除けば、現在のこのオーケストラの100%の力が発揮された演奏ではないかと思う。

 日本勢だけで固めた歌手陣も好演である。ファウストの西村悟は伸びの良い、明るい声で全曲を押し切った。この作品でのファウスト博士は年齢不詳だから、こういう若々しい声でオーケストラの流れの中に身を委ねる解釈も成立するだろう。
 一方、林美智子は、この作品でのマルグリートに相応しく、憂いと悩みとに打ち沈んだ女性の性格を見事に表現していたように感じられる。「トゥーレの王」の最後、言葉が切れ切れになって沈んで行く個所では、あまり「眠り込んでしまう」ように聞こえなかったのだが、これは解釈の違いかもしれない。
 メフィストの福島明也は、後半では凄味を利かせたものの、もう少しこの役柄に相応しい皮肉な闊達さといったものが前面に出せたら、と思う。

 彼らソリストたちに劣らぬ重要な音楽的な演技を必要とされる合唱(東京シティ・フィル・コーア)も力演していた。ただ、第2部の終結個所で2種の主題が組み合わされる部分や、終結近くの悪魔の合唱の部分では、男声パートにもう少し人数が欲しいと感じられたが・・・・。完璧な水準にはかなりの距離があるけれども、曲の良さを失わせぬ出来であったことは確かだろう。

 そして「アーメン・コーラス」では、いかにも酔っぱらった学生たちの野蛮な歌声という性格がよく出ていて、これは上々の出来。ベルリオーズが「なるべく下手糞に、よれよれの声で歌え」と指示したと伝えられるこの個所は、そのいきさつを知らぬ聴き手から「下手な合唱団」と思い込まれるのが嫌ゆえに、崩して歌われることがなかなか無いものだが、今回は敢えてそれに挑んだ勇気を讃えたい(オヤマダアツシさんの解説が、さり気なくそれに触れていた配慮にも感心した)。
 ちなみに、レコードで「思い切り下手に」歌わせているのは、マルケヴィッチ指揮の盤くらいなものだろう。

 東京シティ・フィルの300回記念定期は、このように、熱演を以って成功した。客席もほぼ満杯で、祝着の極みである。今後もこの勢いで続くことを祈りたい。
 なお今回は、抽選(チケットの席番号)で「300回記念のどら焼き」が提供されていた。もちろん、われわれ業者連中が当選するような仕組にはなっていない。

コメント

アーメンコーラス

合唱ではそこが一番良かったと思います
林美知子さんのマルグリットも良かったです
シティ・フィルは本当に現在出しうる限りの最上の演奏だったのではないか、と思います
満足感の高い演奏会でした

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