2017-05

2016・9・3(土)いずみホールオペラ「ドン・ジョヴァンニ」

     いずみホール(大阪) 4時

 残響の長いこの演奏会用ホールが、河原忠之の指揮するザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団を豊麗に響かせる。モーツァルトの雄弁かつ多彩なオーケストレーションが、まるで声楽付きのシンフォニーにように鳴り渡る。

 一切の小細工を配し、滔々と音楽を進めるのが彼の指揮の特徴で、それは骨太な迫力を持ってはいるが、登場人物の心理的な動きを描き出すためには、もう少し演奏に細かいニュアンスの変化があってもいいのではないか。第1幕前半など、一本調子で単調になるきらいがあった。

 ただし、この大河のような音楽づくりが、第1幕の終結や、ドン・ジョヴァンニの地獄落ちの場面、あるいはいくつかのアリアの個所などで、スケールの大きな力感に転じるのだから、その点では面白い。ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団の好演も、モーツァルトの音楽の素晴らしさをわれわれに伝えてくれる。

 歌手陣も良かった。ドン・ジョヴァンニの黒田博は貫録十二分の舞台姿と歌唱力だし、レポレッロの西尾岳史は張りのある声でエネルギッシュな従者ぶり。
 ドン・オッターヴィオの清水徹太郎は体調不良だったということをあとで聞いたが、そんなことを感じさせぬ安定した舞台を示してくれていた。ただ、第2幕でのアリアが、アンダンテ・グラツィオーソにしては速いテンポだった上にブレスも多かったので、どういう解釈なのかなと訝っていたのは事実なのだが・・・・。

 また澤畑恵美は、見事な大人の女性ドンナ・エルヴィラといった雰囲気で、この役が唯一純粋な、ひたすらジョヴァンニに愛を捧げることに徹してブレることのない性格であることを再認識させてくれる見事な演技と歌唱の表現だった。
 一方、石橋栄美のドンナ・アンナは、美しい声(第2幕では声がフラット気味になったが)ではあったものの、もう少しこの役柄に相応しい複雑な心理表現が欲しいところ。老田裕子のツェルリーナは、第1幕での方が闊達で洒落ていた。
 ジョン・ハオの騎士長、東平聞のマゼットも好演。合唱にはザ・カレッジ・オペラハウス合唱団が登場していた。

 演出は粟国淳。コンサートホールのステージを巧く活用して、過不足なく物語を描き出した。たとえオペラハウスでの本格的上演であっても、妙に見え透いた小細工を弄する演出(誰とは言いませんが、今年のザルツブルクのプロダクションのごとき)を見せられる今日この頃、このようなセミ・ステージ的スタイルで音楽の良さに没頭できる上演の方が、よほど好ましい。
 ただし、「地獄落ち」では舞台手前から黒子たちが引き出す深紅の巨大な布がステージを覆い、ジョヴァンニを包み込んで舞台下手に退くという手法が採られたが━━セリがないホールだから仕方がないにしても━━もう少し何か、洒落たテはなかったものでしょうか。

 まとまりのいいこのホールのオペラのシリーズ。さて、来年は何だろう?
       ⇒モーストリー・クラシック11月号 公演Reviews

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