2020-05

2016・8・28(日)セイジ・オザワ 松本フェスティバル(終)Gig

       キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館) 5時

 このフェスティバルにおける唯一の「クラシックとジャズ」の合体スタイルによる演奏会「Gig」。2013年に始められたものだが、昨年は行われなかったので、今回が第3回になる。
 常連のマーカス・ロバーツ・トリオと、小澤征爾および村上寿昭(指揮)、サイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)がステージに上るという豪華な顔ぶれだ。

 プログラムは、プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」からの抜粋、フェスティバル委嘱作の世界初演になるロバーツの「Rhapsody in D」、イベールの「ディヴェルティスマン」、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」の計4曲。
 演奏は、プロコフィエフとイベールを村上寿昭とSKO、委嘱新作をマーカス・ロバーツ・トリオと村上指揮SKO。最後のガーシュウィンで、小澤とSKOおよびマーカス・ロバーツ・トリオが勢ぞろいする、という具合である。

 トリオ(ピアノがマーカス・ロバーツ、ベースがロドニー・ジョーダン、ドラムスがジェイソン・マルサリス)の演奏が前評判を呼んでいたのはもちろんだが、人気の的はやはり最後のガーシュウィンだったであろう。一つは、元気を取り戻した小澤征爾の指揮であるということ、もう一つは、「ラプソディ・イン・ブルー」がマーカス・ロバーツ・トリオの参加によってどのような新しいスタイルで再現されるかということ━━。

 その「ラプソディ・イン・ブルー」は、3人のインプロヴィゼーションがもっと盛大に行われるのでは、と期待していたのだが、オーケストラのスコアがあるとそうも行かないのだろう、やや規模の大きいカデンツァという感じにとどまり、演奏時間も予想より短く、20分に達しない長さで終った。
 なにしろ小澤征爾が指揮台に上り、矢部達哉がコンサートマスターを務め、大編成で臨んだSKOのパワーも凄まじかったので、主導権はやはりオケが堅持したという印象である。ともあれ質感、量感ともにたっぷりの「ラプソディ・イン・ブルー」の演奏であったことは間違いない。

 満席の聴衆の熱狂のうちに3回ほど繰り返されたカーテンコールでも、総監督小澤は活気充分の様子で、ロバーツたちを含め、全員をリードしていた。彼が姿を現わし、指揮してくれれば、それだけでフェスティバルには明るい雰囲気が満ちあふれるのだから、その個性は実に偉大である。

 以前は、このフェスティバルでは、小澤征爾がオペラやコンサートでどのような音楽を聴かせるか、その内容がどんなものであるかが話題の焦点だったが、今では、指揮する曲が何であろうと、どんな演奏内容であろうと、とにかく彼がステージに姿を現わしてさえくれれば、それだけでわれわれは安心する、という状況になってしまっているのである。彼がこの数年、大病に苦しんでいたことを思えば、それは当然のことであろう。
 とはいえ、音楽祭の本質に立ち返って考えれば、それはやはり本来の姿とは違うものである、と言わねばならない。

 いずれにせよ、小澤総監督の体調が回復に向かっているのは嬉しいことだ。だが年齢を考えれば、もう無理は避けた方がいい。
 彼に今必要なのは、確実な協力者と、協力体制であろう。彼とともに音楽祭全体を取り仕切るべき強力なインテンダントの存在と、しっかりした事務局体制、確実な首席指揮者、フェスティバルの核を成すサイトウ・キネン・オーケストラの楽員の自覚━━。
 そして何より肝要なのは、このフェスティバルの確固とした「理念」であろう。
     別稿 モーストリー・クラシック11月号

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