2017-04

2016・8・5(金)広島交響楽団 「平和の夕べ」コンサート

      広島国際会議場フェニックスホール  6時45分

 恒例の「平和の夕べ」のコンサート。今年の指揮は、スイスのベテラン、マティアス・バーメルト。ブルックナーの「交響曲第9番」をメインに、前半では広島市出身の萩原麻未がシューマンの「ピアノ協奏曲」で協演、というプログラムである。

 このホールに来たのは、アルミンクが広響を指揮してマーラーの「9番」を演奏した時以来、2年ぶりだ。かなり広大な空間を持つが、椅子のつくりがゆったりしているため、客席数は1500程度の由。1階席中央(13列の13)で聴いた範囲では、音は少し散る傾向がなくもないが、音響はなかなか良い。

 協奏曲では、萩原麻未がテンポとデュナーミクにそれぞれ大きな振幅をもたせ、音楽に鋭い対比をつくり出していたのが印象的だった。非常に起伏の大きな、感情の揺れの激しいシューマンである。
 この曲、おっとりと弾かれるのは、私はあまり好きではないので、彼女のこのシューマン像には非常な興味を覚えた次第だ。

 ただし、バーメルトは、彼女の神経過敏ともいえるシューマン像とは対照的に、あくまで落ち着いた柔らかい表情で管弦楽パートを紡いで行く、という指揮を貫いた。跳ねる少女を、静かに愛情をもって見守る老匠━━といった感じか。
 広響(コンサートマスターは佐久間聡一)のしっとりした響きも良く、特に第2楽章は、チェロをはじめ、弦の美しさが映えた。
 アンコールはバッハ~グノーの「アヴェ・マリア」、「祈りをこめて」という彼女自身のアナウンス付きでの演奏であった。

 ブルックナーの「9番」は、目覚ましい力演である。
 第1楽章は比較的淡々とした演奏だったが、速めのテンポで演奏された第2楽章では、スケルツォ部分にデモーニッシュな勢いがあふれる。この部分、ブルックナーの交響曲のスケルツォの中で群を抜いて悪魔的な雰囲気を湛えていると思うが、それがライヴで視覚的な要素が加わると、更にスリリングになる。

 何年か前、ザルツブルクでハイティンクがウィーン・フィルを指揮した際、キュッヒル以下のヴァイオリン奏者たちが憑かれたような、狂乱的な身振りで弾いていた光景には鳥肌立つような思いをしたものだ。日本のオケではさすがにそこまでの光景は無いけれども、唯一、第1ヴァイオリンの第3プルトの外側にいた男性奏者が熱狂的な身振りで弾いていたのが目立った。

 第3楽章のアダージョは、今日の演奏における圧巻であったろう。広響の重厚な音は、まさに荘重なマエストーゾそのもの。特に弦の澄んだ音色は素晴らしい。
 全曲最後の13小節間の祈りも、感動的なものだった。エンディングのホルンやワーグナー・テューバ、トロンボーン等による金管は難しい個所だが、今夜は(ちょっと粗っぽいものの)決まった。最後の消え行くようなピッツィカートで大きな咳をした御仁がいたのは残念だったが━━。

 全曲が終り、バーメルトが手を下ろし、楽員も楽器を下ろしたが、そのあともなお、バーメルトは長い祈りを捧げるように、1分以上も身動きしない。場内が長い静寂に包まれていたことは、このコンサートの趣旨から言っても妥当なことだったろう。待ちかねた僅かな人たちから少し拍手が起こったが、それもすぐに止んだ。騒々しいブラヴォーの声などが起こらなかったのは、この演奏会が「平和への祈り」であることをみんなが意識していたからだろう。

 そのあとに、バッハの「G線上のアリア」が演奏された。これも祈りの一環か。
 ブルックナーの「9番」の第3楽章のあとにアンコールを━━この場合には主旨は違うのかもしれないが、とにかく何であろうと別の曲を━━演奏するというのは、ブルックナー・フリークの立場からするとあまり良い趣味とは思えないけれども、演奏そのものは非常に美しかった。

 終演は9時少し前。広島駅市内のビジネス・ホテルはどこも満杯、空き無しとあって、翌日の予定を考慮し、新幹線で岡山まで移動し、駅前のANA CROWN PLAZAに宿泊。
    ⇒モーストリー・クラシック10月号 公演Reviews

コメント

バーメルト指揮広島交響楽団「平和の夕べ」(2016年8月5日)

ブルックナー終演後の長い沈黙は良かったです。翌日は原爆記念日なので、バーメルトさんに「平和への祈り」を示していただいたと感じて、この空白にたいへん感動しました。
曲が終わる0.1秒前の大きな音のくしゃみ。消え入るように終わる曲の雰囲気が壊された感じでしたので、バーメルトさんの「黙祷」と言えるような長い沈黙はそれを補う意味もあって、当初想定していたよりさらに長くなったのかという気がします。
ブルックナーの後、そして、この長い沈黙の後、アンコールは必要なのか?と思いました。一方で、萩原さんのアンコールと合わせて「平和の夕べ」の雰囲気はより強まったという気もしました。

会場は平和記念公園内にある広島国際会議場フェニックスホールでしたが、帰りは翌日の式典の準備が整った平和公園内を経由して帰宅。飾りつけも整い、線香のにおいがいつになく強く漂っていました。

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