2017-05

2016・7・26(火)佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ
ブリテン:「夏の夜の夢」

     兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール  2時

 2005年に「ヘンゼルとグレーテル」で幕開けして以来、名作レパートリーで満席状態を続けて来たこの所謂「佐渡オペラ」が、今回初めてブリテンの作品上演に踏み切った。それも、有名な「ピーター・グライムズ」でなく、「夏の夜の夢」━━。

 しかし、ちょっと渋いオペラなのに、今日も補助席まで並ぶほどの超満員である。6回公演(毎回午後2時開演)全部がこの調子なのだそうだ。客は、圧倒的に女性客が多い。リピーターが80%以上の由。

 演出および装置と衣装のデザインは、英国の老練アントニー・マクドナルドが担当した。穏健なスタイルで、メルヘン的な、少しミュージカルのような寛いだ雰囲気も取り入れた舞台だが、比較的まとまりは良く、安心して観ていられるといったタイプのプロダクションである。
 ただ、宿命的ともいえるバランス上の問題がないわけではなく━━。

 今回の舞台では、「人間グループ」は来日歌手組が受け持ち、英語で歌う。
 一方、「妖精グループ」は日本人出演者が受け持ち、日本語で歌う。
 人間は「現実世界」なので英語、妖精は「違う世界」なので日本語になる、ということなのだそうな。
 日本で上演するならむしろ逆のイメージじゃないかと思うけれども、演出が英国人なので、そうなったのだそうである。ただし、妖精の王妃ティターニアが人間世界に降り、ロバに変身させられた男ボトムに恋する場面では、彼女も英語歌唱になるという具合である。

 それはまあ、どちらでも構わないけれども、しかし、もともと英国のオペラゆえに、来日歌手陣が原語で歌う部分と、邦人歌手が日本語訳歌詞で歌う部分とが、同一舞台に並列された場合、どうしてもギャップが感じられてしまうのは、致し方あるまい。
 来日歌手たちは、何気ない動作さえ、そのままサマになって、洒落た感じを出しているのに対し、日本人グループの方は、日本語歌詞を曲に当てはめて歌っている関係もあり、どうしてもつくりものめいた歌唱と芝居に・・・・という雰囲気が露呈してしまうのである。
 これはもう、どうしようもないのかもしれぬ(これが日本のオペラだったら、その立場は文句なく逆転するはずなのだが・・・・)。

 その来日組━━クレア・プレスランド(ハーミア)とピーター・カーク(ライサンダー)およびイーファ・ミスケリー(ヘレナ)とチャールズ・ライス(ディミ―トリアス)の恋人2組は、まさに闊達で、躍動感たっぷりの歌唱と演技だったし、また、アラン・ユーイング(ボトム)ら6人の職人たちの自然な発声と芝居も、良い雰囲気を生みだしていた。
 なおプレスランドは過日舞台で足を怪我したとかで、傘(ビニール傘?!)を杖代わりにして歩いたり、車椅子に乗ったりして舞台をこなしていた。その敢闘ぶりを讃えたい。

 一方、妖精グループを受け持った日本人歌手陣の方は━━藤木大地(妖精の王オーベロン)は、もう少し王様らしい威厳と存在感と神秘性が欲しいところ。
 森谷真理(王妃ティターニア)は、英語で歌う個所の方が音楽に乗れていたという印象で、第2幕では魅力を発揮していた。
 塩谷南(パック)は、飛んだり跳ねたりの大活躍ながら、セリフ回しはいかにも学生芝居っぽく、これがラストシーンを少し弱いものにしてしまったのは残念だが、大熱演に免じて・・・・ということにしよう。その他、第3幕では森雅史(シーシアス)と清水華澄(ヒポリタ)も登場した。

 邦訳歌詞が音楽に乗りにくいことから来るハンデはあったものの、邦人組もよくやっていたことに疑いはない。
 とりわけ、小妖精たちを歌い演じた「ひょうごプロデュースオペラ児童合唱団」は、歌も芝居もめっぽう上手い。その可愛らしさは、前述の国籍の問題云々を超えて、第2幕のハイライトとさえ感じられたほどである。今日の殊勲賞は、この児童合唱団に贈呈したい。

 佐渡の指揮する兵庫芸術文化センター管弦楽団(ゲスト・コンサートマスター ベルンハルト・バルトーク)は、作品の性格もあって控えめな演奏だったが、美しく拡がりのある、重心の豊かな音で、この幻想的な物語を紡いで行った。

 それにしても、冒頭の話に戻るが、「阪神間」(大阪と神戸の間)には、どうしてこんなに女性のオペラ・ファンが多いのか、驚くべきことである。アンケート結果によると、「佐渡オペラ」だから観に来る、毎年観に来るのが習慣になっている━━などの回答が多いとのこと。

 だがその他、「上演されるオペラのストーリーがいいから」という要素もあるのだそうだ。つまり一般の女性ファンには、温かい内容の物語が好まれる、というのである。たしかに、殺伐たるストーリーは嫌がられるというのは、私も知っていた。
 ちなみに、これまで取り上げたオペラのうち、「トスカ」や「カルメン」には、殺人場面もある。だがそれらは名作の強みゆえ、ということなのだろう。ブリテンの作品を取り上げたがっていた佐渡芸術監督が、まず「夏の夜の夢」を先に選んだのは、物語がハッピーエンドで美しいから、という理由もあったという話も聞いた。

 終演は5時半近く。ホールからどっとはき出された群衆で、隣接する阪急電鉄の西宮北口駅の改札口は大混雑。運よく、すぐ来た特急に乗れたので、そのまま大阪へ戻り、新大阪6時半の「のぞみ」で帰京。

コメント

今度は兵庫ですね。あの大混雑する西宮北口からの御帰宅お疲れ様でした!佐渡オペラは、今年も6回全て完売だったそうですね。もちろん、佐渡人気もありますけれどね、ふと思い出したのは、阪神間在住の作家田辺聖子さん。彼女の小説とファンタジー風オペラには「ほっこり」という共通点があるような感じがします。阪神間女性気質でしょうか。それと、いつも感じる事ですが、オペラやバレエでは、指揮者やオーケストラは縁の下の力持ちなんですね。長丁場お疲れ様でした!

英語で歌うからイギリスオペラなのであって、全編英語のほうがもっと自然な流れになったと思います。やはりネイティブと比較して日本人の英語は・・・演出家の意図を勘ぐってしまいます。

真夏の昼の夢

7/30日行きました。イギリスより10度は高い真夏の午後。珍しいオペラを聴く。一幕の低弦の気持ちの悪いポルタメントから始まる舞台。確かに当たり前だが英語は滑らかで日本語訳の歌唱は別物だ。しかし歌手に罪はない。ただ二幕までは眠気が襲って来て.......。
ところが三幕に入り職人たちの重唱がノリノリ、さすが演劇の国だと感嘆した。佐渡さんは二幕までの幻想舞台からこの幕の転換の魅力(ブリテンの天才)を聞かせたかったのではないか。そのきっかけは若き日に下働きでこのオペラに接したのだという。
舞台はでこぼこした形状の上を動き回るので怪我をしないか心配でした。カーテンコールでその女性歌手は少し足を引きずっていた。ともかくこのオペラを素晴らしい歌手たちとオーケストラで聴けて大満足。

「夏の夜の夢」2016年7月26日(火)

今年の7月はブリテンの貴重な曲を聴くチャンスに恵まれた。7月8日に下野竜也指揮広島交響楽団による「シンフォニア・ダ・レクイエム」を聴き、7月26日に佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2016「夏の夜の夢」を聴くことができた。いずれも記憶に残る公演であった。

「夏の夜の夢」は私自身初めて聴く作品。それぞれの幕の序曲は弱音で進み、「夢の中の出来事」という雰囲気を作っていて興味深かった。全体の演奏も「夢の中」のようにふんわりしている。
最近の何年間かで「ピーター・グライムズ」「ねじの回転」「夏の夜の夢」と続けてブリテンのオペラを聴く機会があり、それぞれに魅力的な作品であると感じている。ブリテンのオペラが日本でもっと上演され、「あの時の●●が▲▲より良かった」と比較できるくらい上演されることを期待したい。
「夏の夜の夢」プログラムでの佐渡裕さんの挨拶の中に「11年目は少し冒険して」とあり、ブリテンのオペラ上演は冒険だったとのこと。ブリテンに限定しないが、今後もぜひこのシリーズで「冒険」を重ねてほしいと感じる。その中で2017年作品は「フィガロの結婚」とポピュラーなものに戻ってしまうのはもったいない。
「夏の夜の夢」はシェイクスピア作品の中では芝居として観た時は割合ドタバタと進むイメージだったが、オペラでは全体にゆったりしっとりしている印象。
オーベロンは彌勒忠史さんと藤木大地さんのダブルキャストだが、それ以外はシングルキャスト。どちらのオーペロンを聴くべきか悩んだが、二期会によるライマン「リア」エドガー役で好演した藤木さんは、その後リサイタルを聴くチャンスはあったもののオペラを聴くチャンスがなかったので最終的には藤木公演を選んだ(本来、聴き比べをしたかった)。
妖精は日本語(日本人)、人間は英語(主に来日メンバー)という上演について、チラシをよく読んでいなかったので、会場で初めて知ったが、意外に違和感はなかった。先般、日本語版ミュージカル「キンキー・ブーツ」(シンディ・ローパー音楽・作詞)を観たのだが、うまく日本語をはめていて、こちらも違和感がなかった(こちらはすべてが日本語。来日版・英語上演は秋に公演があり、上演を比較可能)。
藤木さんはエドガー役を超えるとまでは感じなかったが、2017年4月にはウィーン国立歌劇場でライマン「メデア」ヘロルド役を歌う予定があるとのことなので引き続き応援したい(同歌劇場初演というのも名誉なことである)。
プログラムを読むと来日メンバーについては多くが「初来日」。日本での良い印象を持って帰ってほしいものだと感じた。ハーミア役のプレスランドさんの捻挫姿は痛々しい。早い回復を祈りたい。開演前の佐渡さんの挨拶で「なぜ、捻挫を?」と思ったが、幕が開いて舞台美術を見て納得。自然の森を再現しているので結構危険な舞台装置であるとわかった。

観客のマナーはおおむね良いと感じるが、最弱音から始まるオペラであるにもかかわらず、開演前や休憩中の準備の悪い人が多く、冒頭、バッグのファスナーを閉める音、長々と大きな音をたててキャンディーの袋を開ける人など落ち着かない雰囲気で始まるのは残念。日本でこれだけの観客を集めるオペラ公演は他にはないのだから、マナー教育も日本一になってほしいところ。「序曲・前奏曲からすでに公演は始まっている」という意識付けがなされると良いと感じる。
第3幕ではさらに後席の人が上演中、ずっとビニール袋の音を立てていた。休憩中に買い物をしてそこで入れてもらった袋なのかもしれない。何とか注意したかったが前の席からは無理。横の席の人に一言注意をしてもらいたいものである。横の席の人は気にならないのだろうか。まったく不思議である。上演中のおしゃべりは少ないものの、前席の人を注意せざるを得ない状況が1回あった(注意と言っても上演中だから、言葉の注意は難しい。肩をトントンして気づいていただく)。こうしたことも完全になくなることを望みたい。
会場ロビーでは咳やくしゃみを抑えるクッションを販売していたが、オープンマウスの咳とくしゃみが少なくない公演であったのも残念(くしゃみは可能な限り制御してほしい。咳の制御は難しいが、ハンカチで押さえれば影響はほとんど気にならない程度に緩和される)。
第1幕・第2幕の拍手は幕が下りてからの拍手となり良かったが(それでも我先に拍手する人がいる)、第3幕は演奏が続く中、パックの「お気に召したら拍手をしてください」という台詞がかるのでかなり早いタイミングで拍手。このあたりはうまくタイミングを計った台詞にできなかったのか…。

この日は平日の昼公演ということで、観客の熱気は例年このシリーズで感じるものより弱かった。もう少し熱狂的でも良いと感じた良い上演であった。

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