2017-11

2016・7・15(金)飯守泰次郎指揮関西フィル「トリスタンとイゾルデ」第3幕

      ザ・シンフォニーホール  7時

 関西フィルハーモニー管弦楽団が、その桂冠名誉指揮者・飯守泰次郎とともに、ほぼ毎年1回の割で進めているオペラ演奏会形式上演シリーズ。今年は第14回で、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」第3幕だ。

 ちなみにこのシリーズ、ワーグナーの各幕ずつの演奏会形式上演がこのところ連続しており、「ヴァルキューレ」第1幕(09年)、「トリスタンとイゾルデ」第2幕(10年)、「ジークフリート」第1幕(11年)、「ヴァルキューレ」第3幕(12年)、「ジークフリート」第3幕(14年)と来て、この「トリスタン」第3幕が、6作目になる。

 配役は、二塚直紀(トリスタン)、畑田弘美(イゾルデ)、片桐直樹(マルケ王)、福原寿美枝(ブランゲーネ)、萩原寛明(クルヴェナール)、松原友(メーロト)、谷浩一郎(牧童)、黒田まさき(舵手)という顔ぶれ。
 コンサートマスターは岩谷祐之。

 二塚直紀のトリスタンは初めて聴いたが、素晴らしい。以前、「ジークフリート」第1幕の時にミーメを絶妙な表現力で歌っていたのを聴いて感心したことがあるが、今回のトリスタンも声は充分、この役柄の懊悩、苦悩、憧憬を歌い切って見事だった。

 一方、出番は少ないけれども、福原寿美枝のブランゲーネもいつも通り貫録たっぷり。以前、彼女のブランゲーネを「怖い家庭教師か女監」みたいだと書いたことがあるけれど、今回も同様、厳格な侍女役を表現していた。つい先日もメイシアターでの「修道女アンジェリカ」の公爵夫人役に接し、その怖さに震え上がった(?)ばかりだが、その存在感は強烈である。

 イゾルデの畑田弘美は、大阪での「飯守のワーグナー」でもう何度も聴いた人だ。声の質が柔らかいので、ワーグナーものではどうかなと思ったこともあるが、このヒューマンな雰囲気が飯守の好む所以なのかもしれない。
 ただ、出来得れば、「拍」をもう少し正確に歌ってほしいところで、━━というのは、特にこの「トリスタン」では、旋律的要素よりも和声的な動きが重要で、声楽パートと管弦楽パートとの関連においてもそれが徹底されていることは周知の通り、したがって両者のリズムがずれると、両者の和声の妙味が失われてしまうのではないか。

 関西フィルは、これまでのワーグナーでいつも感じられたアンサンブルの不備が、今回は解消されていた。この作品に相応しい音が聴かれたのは嬉しい。
 ただし、オルガンの下に配置されていた「牧笛」役のイングリッシュホルンは━━東京のオケから参加したゲスト奏者で、巧いのは事実だが━━その演奏の解釈には大いに疑問がある。この「笛」は、本来、素朴で哀切な慟哭の歌のはずであって、スコアに書かれているクレッシェンドやアッチェルランドにしても、今回のように協奏曲のカデンツァの如く華やかに表情たっぷり吹かれてしまうと、トリスタンの悲痛な世界もどこかへ吹っ飛んでしまうだろう。

 なおこの笛は、イゾルデの船が見えて来た個所では、ホルツ・トランペットに替えられて吹かれ、一定の効果は上げていた。
 この部分は、いろいろな上演のたびに、あれこれ趣向が凝らされる。どんな楽器が使われても結構なのだが、とにかく劇的な瞬間なのだから、音が外れさえしなければ━━。いっそ、イングリッシュホルンでそのまま「完璧に」吹いてもらった方がどれほどいいか、といつも思うほどである(今日のイングリッシュホルン奏者の腕と、その立ち位置からすれば、それだけで充分効果を出せたのでは?)。

 飯守の指揮は、今回も独特の味を発揮した。「前奏曲」は悲痛で重厚なテンポで開始されたが、トリスタンの感情が昂る個所、イゾルデの船が近づいて来る個所での緊迫感は素晴らしく、特に「愛の死」の個所でのうねるような昂揚感は、関西フィルの好演もあって感動的なものになった。先日の「大阪4大オーケストラ」の時の演奏とは比較にならぬ密度の高い演奏であった。

 「トリスタン和音」が解決し、消え去るように終ったあとの感動的な静寂を破った狂気じみた下品な声のブラヴォーの主は、全く人間性を疑われるべき、音楽テロリストと称してもいいほどの輩だが、不快な体験の記憶は早く消し去り、演奏の素晴らしさだけを心に残すことにしよう。
  ☞別稿 モーストリー・クラシック10月号 公演Reviews

コメント

私も拝聴しました!

ひょっとして、東条先生もいらっしゃってるかも、と期待しておりましたら、やっぱりね!お疲れ様でした!今回、飯守さんのワーグナーにかける想いがひしひしと伝わってきました。奥深いテーマですね。歌手の方々の表現力にも圧倒されましたし、関西フィルさんもお見事でした。関西フィルさんは昨年、ヨーロッパ5公演を大成功させていらっしゃいます。以降、公演毎に響きが良くなり、皆様の表情も柔らかくなっていらっしゃるのは、その成果でしょうか。自信と情熱を感じます。素晴らしいワーグナーを有難うございました!!

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拝聴せず

残念ながら、関西には常に人様を死角から攻撃することを狙っているような神経粗暴な輩が少なくない。
ブラックレイン的な凶暴なオオサカは、あながちフィクションだと言い切れない。
先ごろの京響60周年の大阪公演でも、後半演奏開始直前に大声で悪態を吐き散らす異常人格者が
いて仰天した。広上氏が指揮を始められずに振り返るほどだった。
それほどに内面が荒廃するような、騒音騒光だらけの酷い日常環境の国であるのは確かだが。
そのような精神環境に対し、音楽関係者がほぼ全く問題提起しようとしないのも不可解。
小生はもう地元大阪で演奏会に行くことは基本的に諦めている。
もうトラウマが重なりすぎて限界を超えている。
だから、この関西フィルのワーグナーも聴きたかったが行かなかった。

以下引用

当たり前だけれど多くの大フィルの課題は「大フィルが解決すべき課題」でなく大阪に住むみんな
の課題だと今はみんなが気がついている。(井上道義 2014年5月)

さすが井上氏は晴眼者だが、小生はこれらの問題の多くは社会的病理性が深く相当に解決困難だと思っている。
本当は単に「日本の(関西の)クラシック演奏会のマナー」の問題などではないからだ。
大植英次的なエキセントリックな突破力も未だ問題の本質には届いていない。(以下略)

又もや失礼します。

素晴らしいワーグナーに感動しましたが、願わくは、もう少し余韻を味わっていたかったです。間髪を入れないブラボーには、ちょっとびっくり。翌日のサントリーホールでも、やはりブラボー騒ぎがあったとか。早い者勝ち意識かストレス発散か自己顕示欲か、せっかくの熱演がもったいないなぁ~!

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