2017-05

2016・7・9(土)アレクサンドル・ラザレフ指揮日本フィル

      サントリーホール  4時

 天皇・皇后両陛下が日本フィルハーモニー交響楽団の定期を、しかもラザレフの指揮するショスタコーヴィチの「交響曲第15番」を聴きに来られるとは、いろいろな意味で、何となく意外な感に打たれることだが・・・・いや、とにかく、今年が創立60周年記念の年にあたる日本フィルとしては、大いに結構な話であることはたしかである。
 いつもは賑やかな身振りで聴衆に答礼するラザレフが、珍しく今日は直立不動の姿勢で皇族席に向かって敬意を表していた光景には、聴衆から軽い笑いが起こった。

 今日はラザレフの日本フィル首席指揮者としての最終定期とあって、しかも近年例のないほど見事な演奏だったこともあって、オケが退場してからも聴衆は彼をステージに呼び出すべく、拍手を延々と続けていたのだが、どうやら彼は両陛下のもとへ表敬にでも行ってしまったか、ついにステージには現れず。事務局のM氏が恐縮し切った様子で出て来て、申し訳なさそうに拍手を制止し、聴衆も諦めて引き揚げるという結末になった。彼への花束の贈呈などは特に無かった。

 その「交響曲第15番」の演奏が良かったことはもちろんだが、まずその前に、前半に演奏されたグラズノフのバレエ音楽「四季」がまた実にカラフルな音色の演奏だったのである。これは、ラザレフと日本フィルの演奏水準が、特にロシア音楽のレパートリーで、今や国内随一の域に達していることをはっきりと示すものだろう。
 とりわけ木管群の色彩感は素晴らしい。この全曲を演奏会で聴ける機会など滅多にないし、たまにあってもオケに色気がなければ、さっぱり面白くない曲に感じられてしまう。今回は初めてこの曲の良さに気づかされた━━というのが正直なところである。

 そして、天覧演奏(?)の、ショスタコーヴィチの「交響曲第15番」。
 今日の演奏は、これまで私が聴いたこの曲の数多い演奏のうちでもベストに属するものと断言してもいい。第2楽章でのコントラバスのピッツィカートがあんなに緊迫感を以って、何かの前兆を示すように、不気味に聞こえたのは初めてだ。

 スコアに指定されているフォルテが非常に強く━━時にはぎょっとさせるような強烈なアタックで演奏されるので、音楽が極度に鋭角的な姿になっていたのも印象に残る。
 第4楽章最後の打楽器群のリズムにおいても、特に終結の数小節前でラザレフは部分的に凄まじく鋭いアタックを施して聴く者を驚かせる。が、スコアをよく見ると、デクレッシェンドしてpになったはずの音が次の小節の頭では突然メゾフォルテになっているといったような作曲者の指定を、ラザレフが精妙に配慮し、かつそれらを衝撃的に強調して演奏させているのだということが判るのである。その緊迫感たるや、凄まじい。

 Morendo(だんだん弱く)で音が消えて行ったあとも、ラザレフはこういう曲ではいつもやるように、虚空に無音を永遠に響かせるかのように高く上げた指の先で指揮を続けていた。その間、ホール内は物音ひとつない静寂に包まれていたのだった。

 日本フィル(コンサートマスターは扇谷泰朋)の演奏も、まさにくっきりとした構成で、無駄にヒステリックな叫びになることも一切なく、持ってまわった重苦しさもなく、しかも陰影に富んで、充分に響きわたっていた。トロンボーンとチェロのソロは、ひときわ鮮やかだった。見事なものだった。

 かくてラザレフは、首席指揮者として、完璧な結果を出した。
 あとは日本フィルが、彼の素晴らしい置き土産をいかに活用するかである。

コメント

天覧演奏で!

天覧演奏でラザレフのショスタコ15番ですか!
おっしゃる通り意外感満載ですね。
戦後71年、日本の西洋音楽受容史もここまで来たかと・・・
東条さんの文章を読むたび、今回行けた人が
本当に羨ましい限りです。


ただただ頭が下がる思い

耳にイヤホンをつけたSPらしき人がいっぱいで、明日は参議院選挙となると、皇族のお方かな、いつもの席は空けてあるしと思っていたら、なんと天皇皇后両陛下!感激いたしました。なんでまたこんな難しい曲を聴きに来られるのか、宮内庁に「陛下、ショスタコですが決して退屈いたしません」と言い切った人がいるのかと、いろいろ興味は尽きませんが。
それはさておき、演奏は本当に素晴らしいものでありました。ラザレフが小刻みに手を震わせながらその手を下ろすその瞬間まで、ずっと緊張が持続した凄演でした。P席で見ていると、ラザレフの眼と手が奏者と一本の糸でピーンと繋がっているのが見てとれ、凍りつくようなくらい曲想の中であっても、お互いが全身全霊身を捧げあうみたいな美しいものを感じました。とにもかくにもこの曲をこんな形で我々に届けてくれたラザレフ/日本フィルにただただ頭が下がる思いです。感謝。

日フィルのサービスもよかったです

失礼します。
今回、開演時刻がいつもとは違いましたが、その案内をチケット購入者全員に葉書で送ってくれたようです。
また当日、日フィルの方にこの公演のチラシを貰おうと声をかけたところ、切らしているので郵送でよければと対応してくださり、ありがたくお願いしました。
手間もコストもかかるであろうサービスに感心し、公演に来られなかった方にも是非知っていただきたいと思いました。

ラザレフさんありがとう

ラザレフさんがいらしてから、日フィルは毎年毎年劇的に面白くなりました。ラザレフさんには本当に感謝です。いつもいつも引き込まれる音楽を聴かせていただきました。日フィルは良い方にめぐり会えて良かったです。これからもちょくちょく振りに来ていただけることを祈っています。

ショスタコの15番

ショスタコ15番、1972年大阪で日本初演されたとき、ロジェストヴぇンスキー/モスクワ放送響の放送をオープンリールにエアチェックしてよく聞いた、ロッシーニやワグナーの引用などが奇妙に思えておかしな曲という印象が当分続いていた、そして彼の他の曲を聴きだしてからこの曲がすこし理解できるようになってきた。なまで2回ほど聞けたが今、この曲が名作として認知されてくるとは........やはり繰り返し演奏されることによってそれが可能となったということか。ラザレフ/日フィル聞けた人うらやましい。

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