2017-10

2016・7・4(月)ハーディング指揮新日本フィル「千人の交響曲」

      サントリーホール  7時15分

 ダニエル・ハーディングの、新日本フィルハーモニー交響楽団「Music Partner of NJP」としての最後の定期最終日、マーラーの「交響曲第8番《千人の交響曲》」。
 声楽ソリスト陣には、エミリー・マギー、ユリアーネ・バンゼ、市原愛、加納悦子、中島郁子、サイモン・オニール、ミヒャエル・ナジ、シェン・ヤン。合唱は栗友会合唱団と東京少年少女合唱隊。
 エクス滞在を短くし、今朝帰国したのは、この演奏会を聴くためだった。

 この「8番」、マーラーの交響曲の中では、どうもあまり好きになれぬ曲なのだが、今夜のハーディングの指揮は、比較的気持よく聴けた。気に入ったのは、彼が新日本フィルから引き出した明晰な声部構築、明快で鋭いアタック。強弱の対比の鮮やかさ。
 それゆえ、演奏は極めてメリハリのある、起伏の豊かな、音色の変化に富んだものになっていた。全体に爽やかな感覚にあふれた「千人」ではなかったろうか。

 速めのテンポで、疾風怒濤のエネルギーで押した第1部━━ここは誰が指揮しても騒々しい絶叫となるので私は苦手なのだが━━とは対照的に、第2部での、神秘的な最弱音を多用して若々しく清新な叙情性を浮き彫りにしたハーディングの指揮が、思いがけず魅力を感じさせる。

 ただ、最後の合唱からエンディングにかけての大昂揚個所では、ハーディングはテンポを速め、実にあっさりと結んでしまった・・・マーラーの言う「宇宙が鳴り響く」というにはちょっと短い法悦の時間だったけれども、このへんが、後期ロマン派の世界には耽溺しないというハーディングの美学なのかもしれない。
 いずれにせよ、最近の彼の指揮姿には、何か強い自信があふれているように見える。

 新日本フィルも、この日はバランスの良い、確実な演奏を繰り広げ、ハーディングへのはなむけとした。演奏終了後には、コンサートマスターの豊嶋泰嗣から、ハーディングへ大きな花束が捧げられ、ハーディングもユーモアあふれるスピーチを行なって応えた。聴衆も、今日は長い長い拍手と歓声で、彼を送ったのである。

 こういった光景から、新日本フィルの指揮者としてのハーディングが、いかに愛されていたかがわかる。
 それはもちろん、彼の指揮への評価もあるだろう。が、それ以上に、あの5年前の東日本大震災による混乱のさなか、たじろがず東京にとどまって新日本フィルを指揮したことや、その後の演奏会でも自ら募金箱を持ってロビーに立ったことなどが、日本人の心情に訴えるものがあったからだろう。
 当時の音楽監督アルミンクが、新日本フィルに対する貢献度ではハーディング以上のものがありながら、大震災のあとの対応が著しく不手際だったために、やや気まずい形での任期終了になってしまったのとは対照的である。

 ハーディングは今秋、新しいパートナーであるパリ管弦楽団とともに日本に来る。ファンは、「出世」した彼を、おそらくその時もまた温かく迎えるのではなかろうか。

コメント

良い文章

いつ読んでも歯切れの良い文章で読ませますが、ハーディングには
暖かいはなむけの言葉ですね。

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