2017-07

2016・6・30(木)エクサン・プロヴァンス音楽祭(1)
モーツァルト:「コジ・ファン・トゥッテ」プレミエ

      アルシェヴェーシェ劇場 夜9時30分)

 前夜エクサン・プロヴァンスに入る。この音楽祭に来るのは、3年ぶり。

 この半野外劇場アルシェヴェーシェで「コジ・ファン・トゥッテ」を観るのは、2008年以来のこと。あの時のキアロスターミの演出は、背景の海や船の映像が実際に動くという、今のプロジェクション・マッピングのハシリのようなもので、のどかで微笑ましい舞台だった。
 だが今回のクリストフ・オノーレ演出の新プロダクションは、さすがに「ヨーロッパでの今風の」もの。

 今風になること自体は大いに結構なのだが、こういう「暴力的」なスタイルの描き方には、もううんざりさせられる。
 舞台は多分、1920~30年代のアルジェリアかどこか、アフリカの白人兵士部隊駐屯地だろうか。「6人の主役」および登場する兵士たちの何人かは白人だが、合唱団員を含めた召使、労働者たちはすべて黒人である。
 そして白人たちは、黒人たちに対し一方的に暴力を振う。白人の主役陣の間でも暴力的行為が絶えない。何かというと小突き、殴り、髪の毛を掴み、足蹴にし、性的暴行を加えるという始末だ。今どきのオペラの新演出は、こういうアイディアしかないのかねえ、という気にもなって来る。

 兵士フェルランド(ジョエル・プリエト)は、恋人がいるにもかかわらず、冒頭場面から黒人女性を追い回し殴打し、レイプしている。グリエルモ(ナウエル・ディ・ピエロ)も、恋人に裏切られた怒りを黒人女性にぶつけ、レイプする。ドン・アルフォンゾ(ロドニー・ジルフリー)も、黒人たちに対しすこぶる荒っぽい。

 一方、フィオルディリージ(レンネッケ・ルイテン)とドラベッラ(ケート・リンジー)も似たようなもので、ストレスを使用人の黒人男性にぶつけ、小突いたり足蹴にしたり、反抗しないのをいいことにして、玩具にして逆レイプするといった状態だ。デスピーナ(サンドリーヌ・ピオー)だけが、まあ少しはまともといってもいいか。
 もっとも、やられる方も、それなりのいろいろな願望があるように見えるが・・・・。

 こういう演出には、もううんざりさせられる。といったところで━━これは現代のストレスや人種差別意識を具象化しているのであり、単にこれまで表沙汰にはしなかったような心理を赤裸々にし、多くの人間の内心に潜む魔性的なものを現実の行動にして描いているのであって、これこそまさに現代の手法なのですぞ━━とかいった擁護論が聞こえてきそうな気がする。なるほど、「潜在意識の具現化」か。

 だが、考えてみると、この「コジ・ファン・トゥッテ」の、ダ・ポンテの台本そのものが、本来そういう性格を持っているのではなかったか? 端的に言えば、これは、男と女の「不倫願望」を、赤裸々に、しかも美しく軽快に描いたオペラだった。それを思えば、「コジ・ファン・トゥッテ=みんなそうする」という題名には、何と皮肉な意味が籠められていることだろう。

 などと言っていると、この演出を擁護する方に論が傾いてしまうことにもなるが、今ここでそれについて詳しく書いている時間はない。
 とにかく、こういう舞台をわざわざ財布をはたいて、欧州くんだりまで観に来るのは、ばかばかしいことに思えてしまう。といって、伝統的な平凡な形だけの演出も、観る気にもなれない。結局、「演奏会形式上演」が一番いい、ということになるのだろうか。

 カーテンコールでは、プレミエなので演出スタッフもステージに出て来た。拍手と一緒に、少なからぬブーイングも飛んだ。オノーレは、それらを受けて、至極満足そうな表情である。
 書き忘れたが、演奏はルイ・ラングレー指揮のフライブルク・バロック管弦楽団。合唱はケープタウン・オペラコーラス。

 終演は午前1時10分。夜9時半などに開演するから、こんな時間になってしまう。以前、野外劇場での上演は、暗くならないと始められないのだよ━━と教えられた。たしかに、夜の9時半は、こちらではまだ明るい時間だ。
 1時過ぎても、街は未だ賑わっているが、人通りのない暗い裏道は、気をつけなければならぬ。この街の意外なほどの治安の悪さは、数年前に実際に体験していることである。

 そういえば、すでにミュンヘン空港でEUとしての入国審査を受けていたにもかかわらず、マルセーユ空港で再びパスポート・チェックがあったのには驚いた。3年前にはこんなことはなかった。しかもアルシェヴェーシェ劇場でも、劇場敷地内に入る際に、空港並みのセキュリティ検査が行われるようになっていた。世情不安がここにも影を落している。

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