2017-03

2016・6・28(火)山田和樹指揮バーミンガム市交響楽団

      サントリーホール  7時

 バーミンガム市響は、ネルソンスの後任音楽監督として、ミルガ・グラジニーテ=ティラというリトアニア出身の女性指揮者を今秋迎えることになっているので、われらの山田和樹は、ここでは単なる客演の指揮者である。
 だが、先年のスイス・ロマンド管弦楽団とのツアーもそうだが、たとえ客演関係であっても、いま日の出の勢いにある彼が欧州のオーケストラを指揮する演奏を日本で聴かせるという試みは非常に面白いし、極めて意義のあることだ。彼の世界での活躍ぶりの一端を、居ながらにして実際に聴くことができるからである。

 一聴した印象で言えば、この両者、相性はいいように感じられる。
 今日のプログラムはベートーヴェンの「エグモント」序曲と「交響曲第7番」、その間に河村尚子をソリストに迎えての、ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第3番」が置かれるというものだったが、どの作品においても山田の設計が実に細かく、しかも「持って行き方」が巧い上に、オーケストラがよくそれに反応していたのだ。

 「エグモント」序曲の、最初のフェルマータの長いこと。彼の劇的演出の巧さは以前から承知していたが、この曲においても、なかなかのものだ。
 フレーズ、アタック、テンポの細部にも神経を行き届かせているので、演奏の起伏が極めて豊かに感じられる。コーダに入る前の遅いテンポの個所を最弱音で強調し、コーダではティンパニのクレッシェンドをつくって追い込み、終結のフォルティッシモをひときわ強調させて終る━━という具合だが、これらがあまり芝居気を感じさせず、自然な起伏で流れて行くのも好ましい。

 「第7交響曲」でも同様、全体に速めのテンポによる闊達な流れになっているが、随所に綿密な気配りが感じられ、バランスの良さを感じさせる。
 山田和樹の「7番」といえば、6年前にサイトウ・キネン・オーケストラを指揮した演奏を聴いたことがあるが、今回の演奏には、この間の彼の成長ぶりが感じられて頼もしい。随所に細かい気配りが為され、それが見事にクライマックスで実を結ぶという構築が実現しているのである。

 テンポの闊達さゆえに、以前のような(一時代前の指揮者のような?)重厚壮大さは影を潜めたが、たとえば第2楽章の第27小節から第74小節にかけての弦の厚みのある交錯が、あたかも何か巨大な雲のうねりのような力を以って響いて来たのは、若い世代の指揮者の演奏としては珍しいだろう。
 そして彼は、情熱的な指揮ではあるものの、あまり「細かく棒を振る」ことなく、オケの自主的な動きを引き出すといった術をすでに充分身につけているように見える。

 協奏曲では、彼はバーミンガム市響をやや凝縮させつつ、しかも巨大な爆発を伴ってダイナミックに進めた。
 河村尚子のソロの出だしが意外なほどストレートで屈託なく始められたのには少し意外だったが、これが第3楽章での熱狂に盛り上がるまでの指揮者との丁々発止の応酬は、さすが若手同士の気魄の見事さを感じさせて痛快であった。
 それにしても、ここ東京で、日本人の若手音楽家2人が、泰西のオーケストラをバックに存分に気を吐くというステージが実現するとは、いい時代になったものだ。

 彼女のソロ・アンコールはラフマニノフの「エチュード作品33の8」で、うしろで黙って聴いているオケの存在を一瞬忘れさせるほどの沈潜した美しさであった。そしてオケのアンコールは、ウォルトンの「ヘンリー5世」からの叙情的な小品だった。
    →モーストリー・クラシック9月号 公演Reviews

コメント

大阪で拝聴しました。

大阪でのプログラムは「エグモント」の代わりにウェーバーの「オベロン」序曲でした。私、山田和樹さんの指揮は初めてなのですが、「音楽が、指揮が、楽しくて仕方ない!」というお背中。天職というのは、こういう人の事なのでしょうね。河村尚子さんも全身で表現なさっておられてお見事!今回、このオーケストラの「気迫」を感じました。(正直、EUショックを心配したのですが。)ああ!凄っ!残りの公演も追いかけたかったなぁ!

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