2017-05

2016・6・23(木)ロベール・ルパージュの「887」

      東京芸術劇場プレイハウス  7時

 ロベール・ルパージュは、私の最も好きな演出家の一人だが、今日はその舞台の奥にある彼の演劇家としての本質を、まざまざと見せつけられた。
 約2時間10分近く、休憩なしの、彼の独り舞台である。演技そのものは比較的動きの少ないパターンだったが、英語とフランス語(日本語字幕付)による、ほとんどぶっ続けに語られる長大なモノローグが放つ豊かな表情は、凄まじい重量感だ。

 「887」とは、彼が少年時代、カナダのケベックに住んでいた家の番地であるという。
 つまり、ここで語られる内容は、彼の少年時代の「自分史」なのだが、実際にはそれに託して自らの演劇の信条を語っていると言ってもいいだろう。

 それにしても、このように彼の演出家・俳優としての本質の一端を垣間見てしまうと、これまで数多く観て来た彼の演出によるオペラの舞台のうち、彼のメッセージをダイレクトに伝えていたものは、一つとして無いようにさえ感じられてしまう。
 しかしこれは、ルパージュがオペラの演出家として才能がないという意味ではない。彼の持つ信条を顕わすには、オペラの舞台はあまりに制約が多すぎる、ということなのである。

コメント

887(2016年6月25日[土])

クリエイター側は演劇・オペラ・バレエ・サーカスというジャンルの壁を超えてしまいますが、鑑賞側が持っている情報はジャンルによって分かれていて、知らないうちに見逃してはいけない公演が行われているということがありますね。
オペラ演出家としてのルパージュ・ファンの方がどれだけこの公演をご存じだったでしょうか。私も知人に教えてもらわなければ、見逃していたと思います。
最近、観たルパージュ作品に対する私の感動レベルは、「針とアヘン」「エオンナガタ」「887」「トーテム」の順番でした。

「887」はルパージュ自身が子どもの頃に住んでいた家の番地。
物語は、「Speak White」(白い言葉で語れ)というミシェル・ラロンドの詩を暗記して朗読することを引き受けたものの「なぜかわからないが暗記は簡単でない」と気になるところから始まり、2時間10分の中で、この詩が意味する人種差別にかかわるエピソードがカナダで少数派のフランス系カナダ人であるルパージュ自身のことと関係付けた形で静かに進み、最後にイベント本番で「Speak White」の朗読をするところで終わるという構成。
作品は淡々とした語りで進むので、人種差別をテーマにしていると強く感じないまま最後までたどり着き、詩の朗読だけが、一転して「拳を上げた」ような怒りの表現で語られます。詩の朗読の場面は全く想定外。日本語字幕は秀逸だったのですが、この詩の朗読の展開に非常に驚いたためにパフォーマンスに耳目が集中してしまい、フランス語の詩の部分の字幕の内容があまり頭に入らなかったという状態になってしまいました。
英語とフランス語を同様に理解する人なら、そういう展開に惑わされることなく、この作品をもっと深く理解できたでしょう。

その後、ネットでいろいろ調べるとYouTubeでいくつかのSpeak Whiteの朗読があることを知りました。作者であるミシェル・ラロンドの朗読は静かな熱気というものであり、ルパージュの爆発する熱気とは違った味わいがありました(ラロンドは一か所だけ爆発していた)。

「887」の背景にカナダのケベック州(フランス語圏)独立運動があり、1967年のド・ゴール大統領のモントリオール訪問時の「自由ケベック万歳!」という演説事件なども交えて語られますが、ちょうど今日現在の英国のEU離脱問題と重なり、記憶に残る公演となりました(前者の独立は実現に至らず。後者の離脱は現実のものになった)。

東京芸術劇場が発行しているBUZZというフリーペーパーの中で「多忙を極めるルパージュ本人が日本の舞台に立つのは、なんと10年ぶりのことになる」と紹介されていますが、ルパージュがシルヴィ・ギエムと一緒に”踊った”「エオンナガタ」は2011年の公演なので5年ぶり…が正しいです。
今回の公演は6,000円と十分安いですが、25歳以下の若者は3,000円、さらに高校生は1,000円ということで、東京芸術劇場が意欲的な取り組みをしていることを初めて知りました。素晴らしいことです。若い人が圧倒的に多い公演でした。

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