2020-07

7・7(月)旅行日記最終日
 バイエルン州立歌劇場「ファウスト博士」

 マルセーユからのルフトハンザがストで欠航、代替便でブリュッセル経由を余儀なくされたため、ミュンヘン空港着は当初の予定より3時間以上も遅れて6時近く。7時の開演に間に合わず。

 とりあえず7時半頃、歌劇場に到着し事情を話すと、オーケストラ・ピットの下手側の最上階にある小さなスペースに案内してくれた。既に数人の先客あり。舞台はほんの一部分しか見えないけれども、ナマ音は(それもかなり良い響きで)たっぷり聴ける。
 
 折しも場面は序幕の途中、メフィストフェレスが出現してファウストと応酬している真っ最中。
 遠慮してしばらく後の方に立っていると、一人のドイツ人らしき中年の女性が「前にお立ちになっていても構いませんよ、どうぞ」と勧める。「あなたは?」と訊いたら、首を振って「だってグロテスクなんですもの」と断る。
 なるほど間もなく、教会の中で兵士が股間に槍を突き立てられて殺され、容器に入った血のようなものを全身に浴びせられた。

 このプロダクションは、今年のミュンヘン・オペラ・フェスティバルの新制作。演出はニコラス・ブリーガー、共同演出者がロイ・ラッロ、ドラマトゥルギーがゾフィー・ベッカーという顔ぶれ。
 休憩後は1階席でゆっくりと観たが、多少趣味の悪いドタバタ個所はあるとしても、どこもかしこもグロテスクというわけでは全然ない。むしろ、ザルツブルクやベルリンで観たムスバッハ演出や、シュトゥットガルトでリハーサルを半分観たヴィーラー&モラビト演出よりも、舞台に変化があって面白い。
 物語にふさわしくマジック=奇術が多用され、それらは一寸したものではあるが気が利いていて、手際も進行もスムースに行われている。黒子が扱うさまざまな人形も、表情に富んでいた。

 歌手陣の中では、ファウスト役のヴォルフガング・コッホが歌唱・演技とともに劇的で存在感充分。
 メフィストフェレス役のジョン・ダスザックも、登場場面ではデブデブした裸体を延々と誇示しているのには顰蹙させられるが、高音域を力強く使って劇的な性格表現だ(かつてアロン役でも売ったクリス・メリットを太めにしたような個性と声である)。 
 パルマ公爵夫人はキャサリン・ネイグルスタッドが歌っており、この人は絶対声の崩れない性格派ソプラノとして卓越した存在であろう。それにここミュンヘンでも大変な人気。

 が、それらにも増して今回感心したのは、トマシュ・ネトピルという若い指揮者だ。ドラマティックに全体を盛り上げたりバランスよく構築したりする点では未だこれからという感じもあるが、何よりこの音楽にふさわしい音の陰影、音楽の不気味さと暗さ、それに瑞々しさを見事に出しているのに魅了された。
 本来この曲には、こういった不気味な魔性のようなものが不可欠なのだが(以前のライトナー指揮のレコードはすばらしかった)、なぜかこれまでバレンボイムの指揮でも、ケント・ナガノの指揮でさえも、なかなか聴けなかった表現なのである。パルマ公爵邸の場面の音楽など、これほど生き生きと瑞々しいものに感じられたのは初めてかもしれない。
 こういう演奏なら、たとえ全曲の半分でも聴けたのは幸いだったと思う。
 終演は10時25分頃。

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