2017-10

2016・4・25(月)プレトニョフ指揮東京フィル 「ペール・ギュント」

     サントリーホール  7時

 イプセン原作の劇詩/戯曲とグリーグの音楽の組み合わせ。

 「全曲版として現在最も信頼できる『グリーグ作品全集』版を用いつつ、劇の進行に沿った語りも入れての演奏」(寺西基之氏によるプログラム解説より)で、アレクセイ・ブルーニのロシア語版朗読台本(ミハイル・プレトニョフ監修)を基にした鈴木功訳による日本語台本を、石丸幹二が朗読。
 協演の声楽陣は、新国立劇場合唱団、ベリト・ゾルセット(ソールヴェイ)、大久保光哉(ペール・ギュント)、富岡明子(アニトラ)他。
 前半約60分、後半約80分という長さで、終演は9時35分となった。

 これは東京フィルの昨年の定期で上演が計画されていた企画だが、プレトニョフ側の事情で延期になっていたものである。折しも今年がちょうど初演140年記念の年に当るから、かえってよかったかもしれない。

 演奏は極めて力の入ったもので、プレトニョフはかなり遅めのテンポ(「嵐」など)を採り、柔らかく膨らみのある響きをオーケストラから引き出し、すこぶる陰影に富んだ、物語の内容に相応しい寂然たる色合いを以って、全曲を大河の流れの如く進めて行った。
 組曲版でもおなじみの、あの懐かしい音楽が、今日は極度に翳りのある音色に包まれて現れる。それはグリーグの音楽にしては少し重い演奏と感じられなくもないが、静寂の中に人間的な温かさを湛えていた点では、まさにグリーグそのものだったであろう。彼の作曲小屋と山荘のあるあのトロルハウゲンを訪れると、まさにこういう音楽の雰囲気を、そのまま感じるのである。その意味でも、プレトニョフの音楽づくりは、極めて巧みなものがあった。

 かつてのコンサートマスター荒井英治がゲストでトップに座った東京フィルの弦の音色は殊更にふくよかで、「オーセ(オーゼはドイツ語読み)の死」での最弱音の美しさなどは、このオーケストラからは久しぶりに聴けたものだったし、また「嵐」での管楽器群の奥行感のある響き(dim.の個所でのバランスなど)も詩的な余韻を湛えたものであった。

 石丸幹二のナレーションは、表情も適切で、きっかけといい、テンポといい、音楽と実に見事に組み合わされていたのには感心した。第2部に入って、ナレーションの内容がペールの独白に重点が置かれるようになってからは、その抑制されたトーンが、語尾などにちょっと聞き取り難い個所を生じさせたものの、それはごく一部に過ぎない。プレトニョフの指揮と呼吸の合った彼の明晰な語りは、まさに音楽を生かし、物語を生かしたのである。

 ソリストの中では、ベリト・ゾルセットの清純この上ない、透明な美しさに富んだソプラノが映えた。全曲は切れ目なしに進められていたのだが、彼女の「ソールヴェイ(ソルヴェイグ)の歌」(第4幕)が澄んだ高音の裡に歌い終えられた時だけは、客席から拍手が沸き上がったほどである。

 今回は字幕付きで、曲名と、原語で歌われた歌詞の内容とが字幕に投映されたが、これは賢明な方法であった。ただその文体が少し荒っぽいのと、特にセリフ部分が「ら抜き」の文章であったことには強い抵抗感を覚えたが━━。

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