7・6(日)旅行日記第3日
エクサン・プロヴァンス音楽祭 「コジ・ファン・トゥッテ」
アルシェヴェーシェ劇場
こちらは、音楽祭のための新制作。
アバス・キアロスターミの演出は「原点に還ろう」的な舞台。騙した男と騙された女がラストシーンで破局を迎えるでもなく、最後は明るく結ばれる。ただ、カーテンコールの際に組み合って出て来る2人が当初のカプルと入れ替わっているところあたりに、ある含みを持たせたのかもしれない。衣装もクラシックなスタイルだ。拍子抜けするほどストレートなもの。
結局、この舞台におけるスパイスは、背景一杯のスクリーンに投影される映像にあるようだ。映像演出は最近の流行だが、このプロダクションでもなかなか凝った手法が使われている。
冒頭に男3人が議論している場面では、背景にアマデウスの名を持ったカフェが映し出され、客やギャルソンたちが3人の言い争いを見物している設定になっていて、その上、ほどよいタイミングで演技も行なっているのである。紗幕の向こう側で実際に人間が動いているのかと最初は思わせるほどだ。
ただし私の方は商売意識というのか、映像が本当に上手くサイマルできるかどうかということに気を取られ、実際の3人の動きにはほとんど目が行かないという心理状態になってしまうのが困るけれど。
よくできているのは、その後の場面の大部分に映写される、海と半島の光景だ。
すべて実写であり、波は動き、雲も動いている。大変美しい。
遠くに見えていた帆船が次第に近づいて来て窓の下に停泊すると、これが「フェランドとグリエルモの乗る」船である。やがてそれが海の上を遠ざかって行くと、ご丁寧に船の上から手を振っている2人の人物の姿まで見えるというわけ。
これらが、実際の舞台上での演技や音楽に見事に同期しているのがミソ。夕暮れの海に遠ざかる船を背景に、あの美しい3重唱が流れるといった趣向はなかなか雰囲気があり、快い感覚に誘われる。
またラストシーンで背景に写されるのは、クリストフ・ルセが指揮するオーケストラが演奏している映像。
これは別のサロンのような場所で撮影されたもので、実際の演奏とは必ずしも巧くシンクロしていないが、ある程度タイミングは合わせてある。途中で瞬間的に映像に動きがあるのは、コンピューターか何かで調整しているためなのかもしれない。
全曲の演奏が終ると、歌手たちはまず後ろを向き、背景の映像中のオーケストラに向かって拍手、その指揮者と楽員が立ち上がって答礼する。やがて映像中の指揮者が手前に近づいてくると、それが実物のルセにすり替わり、彼が歌手たちとともに客席に答礼、今度はピットの中の「生身の」オーケストラに起立を促す、という段取りだ(この場面を見て、何となく日本の映画「リング」の、ビデオの中の古井戸から出て来た女が実際にテレビの画面から部屋に侵入してくるあの場面を連想してしまった)。
まあ、微笑ましいトリックではあるものの、これが「コジ」という室内オペラ的な性格を持つ作品であり、この小規模な劇場で上演されるということを逆手に取った、洒落たアイディアであることは事実だろう。舞台上の演技がストレートなスタイルであるのが、逆に生きる。いっとき楽しめるものではあった。こういった映像演出は、これからもっと盛んになっていくのだろう。
クリストフ・ルセの指揮は、だれかのようにテンポや間の採り方に妙な小細工を施さず、モーツァルトの音楽の快い進行を生き生きと再現してくれた。カメラータ・ザルツブルクも、小編成という点でハーモニーの拡がりに制限はあるものの、「コジ」の音楽の美しさを描き出すにはさほど不足はない。
歌手では、ドラベッラを歌ったYanja Vuletic (クロアチア出身)が声も演技も爽やかで魅力的だ。フィオルディリージ役のウクライナ生まれのSofia Soloviy も演技は良いが、高音にやや不安定さがあるだろう。デスピーナのJudith van Wanroij という人も軽快で好ましい。
男声では、フェランドのFinnur Bjarnason (レイキャビク生れとか)の声の弱さが若干物足りなかったものの、グリエルモのエドウィン・クロスリー=メルセルが明晰な声で光る。問題はアルフォンゾのウィリアム・シメル、いくら老人役でももう少し引き締まって貰えぬものか。この人、そういえば3月にハンブルクでドン・ジョヴァンニを歌っていた時にも甚だ危なっかしい歌い方をしていたっけ。
開演が9時半で、終演は午前1時15分。噴水広場でタクシーを捉えようとしたが1台もなし。日曜日深夜のこの時間となると、さすがに人出も減る。エクスも最近は治安が悪化しているらしく、2日前の夜中には大劇場傍でクルマが炎上していたし、私もある不愉快な目に遭った。いくら観光地でも南欧でも、こんな上演時間の設定は不便極まりない。一人旅行でホテルを取るなら、市街地の中にすること。
こちらは、音楽祭のための新制作。
アバス・キアロスターミの演出は「原点に還ろう」的な舞台。騙した男と騙された女がラストシーンで破局を迎えるでもなく、最後は明るく結ばれる。ただ、カーテンコールの際に組み合って出て来る2人が当初のカプルと入れ替わっているところあたりに、ある含みを持たせたのかもしれない。衣装もクラシックなスタイルだ。拍子抜けするほどストレートなもの。
結局、この舞台におけるスパイスは、背景一杯のスクリーンに投影される映像にあるようだ。映像演出は最近の流行だが、このプロダクションでもなかなか凝った手法が使われている。
冒頭に男3人が議論している場面では、背景にアマデウスの名を持ったカフェが映し出され、客やギャルソンたちが3人の言い争いを見物している設定になっていて、その上、ほどよいタイミングで演技も行なっているのである。紗幕の向こう側で実際に人間が動いているのかと最初は思わせるほどだ。
ただし私の方は商売意識というのか、映像が本当に上手くサイマルできるかどうかということに気を取られ、実際の3人の動きにはほとんど目が行かないという心理状態になってしまうのが困るけれど。
よくできているのは、その後の場面の大部分に映写される、海と半島の光景だ。
すべて実写であり、波は動き、雲も動いている。大変美しい。
遠くに見えていた帆船が次第に近づいて来て窓の下に停泊すると、これが「フェランドとグリエルモの乗る」船である。やがてそれが海の上を遠ざかって行くと、ご丁寧に船の上から手を振っている2人の人物の姿まで見えるというわけ。
これらが、実際の舞台上での演技や音楽に見事に同期しているのがミソ。夕暮れの海に遠ざかる船を背景に、あの美しい3重唱が流れるといった趣向はなかなか雰囲気があり、快い感覚に誘われる。
またラストシーンで背景に写されるのは、クリストフ・ルセが指揮するオーケストラが演奏している映像。
これは別のサロンのような場所で撮影されたもので、実際の演奏とは必ずしも巧くシンクロしていないが、ある程度タイミングは合わせてある。途中で瞬間的に映像に動きがあるのは、コンピューターか何かで調整しているためなのかもしれない。
全曲の演奏が終ると、歌手たちはまず後ろを向き、背景の映像中のオーケストラに向かって拍手、その指揮者と楽員が立ち上がって答礼する。やがて映像中の指揮者が手前に近づいてくると、それが実物のルセにすり替わり、彼が歌手たちとともに客席に答礼、今度はピットの中の「生身の」オーケストラに起立を促す、という段取りだ(この場面を見て、何となく日本の映画「リング」の、ビデオの中の古井戸から出て来た女が実際にテレビの画面から部屋に侵入してくるあの場面を連想してしまった)。
まあ、微笑ましいトリックではあるものの、これが「コジ」という室内オペラ的な性格を持つ作品であり、この小規模な劇場で上演されるということを逆手に取った、洒落たアイディアであることは事実だろう。舞台上の演技がストレートなスタイルであるのが、逆に生きる。いっとき楽しめるものではあった。こういった映像演出は、これからもっと盛んになっていくのだろう。
クリストフ・ルセの指揮は、だれかのようにテンポや間の採り方に妙な小細工を施さず、モーツァルトの音楽の快い進行を生き生きと再現してくれた。カメラータ・ザルツブルクも、小編成という点でハーモニーの拡がりに制限はあるものの、「コジ」の音楽の美しさを描き出すにはさほど不足はない。
歌手では、ドラベッラを歌ったYanja Vuletic (クロアチア出身)が声も演技も爽やかで魅力的だ。フィオルディリージ役のウクライナ生まれのSofia Soloviy も演技は良いが、高音にやや不安定さがあるだろう。デスピーナのJudith van Wanroij という人も軽快で好ましい。
男声では、フェランドのFinnur Bjarnason (レイキャビク生れとか)の声の弱さが若干物足りなかったものの、グリエルモのエドウィン・クロスリー=メルセルが明晰な声で光る。問題はアルフォンゾのウィリアム・シメル、いくら老人役でももう少し引き締まって貰えぬものか。この人、そういえば3月にハンブルクでドン・ジョヴァンニを歌っていた時にも甚だ危なっかしい歌い方をしていたっけ。
開演が9時半で、終演は午前1時15分。噴水広場でタクシーを捉えようとしたが1台もなし。日曜日深夜のこの時間となると、さすがに人出も減る。エクスも最近は治安が悪化しているらしく、2日前の夜中には大劇場傍でクルマが炎上していたし、私もある不愉快な目に遭った。いくら観光地でも南欧でも、こんな上演時間の設定は不便極まりない。一人旅行でホテルを取るなら、市街地の中にすること。
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