2017-03

2016・4・17(日)仙台フィル東京特別公演

      サントリーホール  2時

 「東北復興」を掲げ、かつ第300回定期開催(4月15,16日)を記念しての、仙台フィルハーモニー管弦楽団の大々的な東京公演。それゆえ、当初予定されていた天皇・皇后両陛下御臨席が熊本の地震のために中止になったことは、仙台フィル関係者をいたく落胆させたようである。
 だが、常任指揮者パスカル・ヴェロに率いられての、今回のベルリオーズ・プロ(「幻想交響曲」と「レリオ、または生への回帰」の組み合わせ)は、まさに快心の演奏であった。

 それにしても、仙台フィルはいつからこんなに素晴らしいオケになったのか━━私も年に一度か二度はこのオケを聴いているけれども、サントリーホールを轟かせた今回のようなダイナミックで壮大で深みのある演奏は、これまでほとんど聴いたことはなかった。
 特に弦の張りのある色彩感、低弦の艶やかさと力強さ、金管楽器群の豪壮華麗な重量感などは卓越していて、そこには、フランスのオーケストラにしばしば聞かれるようなブリリアントな音色さえあふれていたのである。

 何より見事だったのは、そうした音色や響きの美点だけでなく、ベルリオーズの音楽に特有の、たたみかける緊迫性と、一種の不気味でミステリオーゾな陰翳が見事に表出されていたことだ。日本のオーケストラで、「幻想交響曲」がこうした特徴をすべて備えた形で演奏された例は、私の経験では、むしろ稀有といっていい。

 そして、パスカル・ヴェロの円熟は疑いないところだろう。新星日響時代からよく聴いて来た指揮者だが、この境地に至ったことは嬉しい。彼は、ドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」をはじめ、やはりフランス音楽のレパートリーで最大の強みを発揮する。
 今回の「幻想交響曲」も、滅多に聴けないような密度の高い指揮だった。けれんのない、基本的にはストレートな構築だが、オーケストラを豪快に響かせ、しかも弦のアクセントに鋭さを与えたり(第5楽章でのロンドの主題)、断頭台の露と消える直前の主人公の幻想に狂気の絶望感を導入したり(第4楽章のクラリネットによる固定楽想)と、随所に鮮やかな手法を取り入れた指揮だったのである。

 「レリオ」では、ジル・ラゴン(テノール)、宮本益光(バリトン)、仙台フィル第300回定期記念合唱団が協演して原語で歌った。
 ジル・ラゴンは、彼らしく巧味のある歌唱だったが、残念ながら数年前にヴェロ指揮仙台フィルや、アルミンク指揮新日本フィルのそれぞれ「ペレアスとメリザンド」でペレアス役を歌った頃の見事な歌唱表現はもう望めず、声よりも味で聴かせる状態になっていたのが寂しい。
 レリオ役は、渡部ギュウが日本語(台詞原訳・久納慶一)で演技を交えつつ受け持っていた。台詞はPAを利用して流されたが、響き過ぎて明晰さを欠くところもあり、━━彼の声量をもってすれば、PAなしでも行けたのではないかという気もするが、そのあたりはテストの結果で決めたのだと思うから、言っても詮無いことだろう。

 しかしいずれにせよこの「レリオ」は、作品の性格としては「幻想交響曲の後編」にふさわしい水準に達しているものとは、どうみても思えない。いかに演奏者たちの大熱演をもってしても、それは補い得ないものではなかろうか。なおコンサートマスターは、「幻想交響曲」が神谷未穂、「レリオ」が西本幸弘だった。

 「演出」はヴェロ自身によるものとのことだが、「幻想交響曲」は、半明かりのような状態のステージで、指揮者はいつの間にか定位置にいて、いきなり演奏が開始された。その曲の間じゅう、下手側の山台の上で行われた主人公(渡部ギュウ)のパントマイムは、━━今日のプログラムの趣旨からいえば、もちろんあってもいいものだが、やや中途半端で曖昧なイメージしか生まなかったのではないか?
 「幻想交響曲」が終るとステージは暗転してしばし沈黙に包まれ、やがて客電もろとも場内の照明が入り、盛大な拍手が爆発したが、その時にはすでに指揮者は居らず、楽員も退場のさなかというわけで、これも何となく締まらぬ印象を与えたまま、休憩に入る段取りとなった。演奏は良かったのだが、この演出と進行のほうは、どうも今いちである。

 とはいうものの今日は、仙台フィルの大躍進を印象づける演奏会であった。仙台フィルが、あの本拠地の小さな、しかも大オーケストラに充分なキャパシティとは言えぬアコースティックのホールにおいて、これだけのブリリアントな音をつくり上げているということには敬意を払わずにはいられない。
 去る1月に仙台で山田和樹の指揮により演奏した「エリヤ」も、その演奏の素晴らしさで、欧米から取材に来ていたうるさがたの批評家連中の舌を巻かせたという。そういえば今日は、開演前にその山田和樹がロビーに立って、来客に挨拶していた。マエストロがそんなことをやっているので私もびっくりしたのだが、彼は「(仙台フィルの)ミュージック・パートナーですから」と涼しい顔をしていた。
     別稿 音楽の友6月号 演奏会Reviews

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