2017-03

2016・2・14(日)マスカーニ:「イリス」

    アクトシティ浜松大ホール  2時

 「静岡国際オペラコンクールイベント 第5回県民オペラ」と題された上演。
 2011年のコンクールで最高位と「三浦環特別賞」を得た吉田珠代をタイトルロールに配した上演である。公演監督が木村俊光、指揮が杉浦直基、演出が三浦安浩。

 このオペラ、舞台が日本で、大阪だの京都だのという名の人物が登場し、しかも遊郭の回廊から投身した主人公の女性イリスが、次の場面では何故か富士山麓に倒れているといったような(※)ヘンなストーリーだが、音楽には魅力的なところが結構多い。
 とにかく、原作にも富士山が出て来るオペラだから、静岡県のオペラのイベントには絶好だろう。今回の舞台でも、富士山が━━あまり良い造りの舞台装置とも言えなかったが━━重要な背景のモティーフを為していた。
 ついでながら、遊郭・吉原も、そもそもの発祥の地は、徳川家康時代の静岡の駿府だったそうである。

 主役の吉田珠代は、柔らかくて綺麗な声を持った人だ。
 欲を言えば、声そのものに演技力がもっと欲しいところで、その意味では、このイリスという複雑な性格を持った女性の役柄を演じるにはまだ時期尚早だったかも━━もしくはこの役柄における微細精妙な歌唱の仕方をよくリードできる指揮者のもとで歌うべきだったかもしれない。

 何しろ今回は、指揮がただ几帳面に音楽をなぞって行くだけなので、音楽は極度に平板で生気のないものになってしまった。このオペラのオーケストラ・パートは本来、もっと活気と劇的な性格を持っているはずなのだが、それが甚だ緊迫感を欠いた、盛り上がりのない音楽になっていたのは残念である。
 ピットに入った浜松フィルハーモニー管弦楽団(1998年創立)は初めて聴いたオケだが、基本的にはいい線を行っているようだ。コントラバスにはもう少ししっかりして欲しかったが、これも指揮者次第だろう。

 演出は━━背景の人物に無駄な動きが多いので、主役の存在が視覚的にぼけてしまうことが多いのはこの演出家の癖だ。今回もその連続で、舞台はすこぶる散漫であった。
 しかし、第3幕を「イリスの死後の世界」のように設定したのは、実に当を得ているだろう。これにより、吉原の回廊から飛び降りたイリスが富士山麓に倒れているという原作の滅茶苦茶な設定も、「イリスの死後の幻想」として見事に解決されていた(その場合、第2幕と第3幕は続けて演奏する方が効果的だろうが、今回は間に休憩が入った)。

 とはいえ、そのアイディアも、最終場面でイリスを群集と絡ませたことによって散漫化してしまったのは惜しい。要するに、「自由を求める市民の世界」(プログラム掲載コメント)などという要素を、取ってつけたようにイリスの悲劇に混ぜ込んだことが失敗の原因なのである。ここを最後までイリスという女性の生き方のみに集中させておけば、このラストシーンはどれだけ感動的になったことかと思う。

 その他の配役は、水船桂太郎(金持の男オーサカ)、町英和(女衒キョート)、大塚博章(イリスの父)、大石真喜子(芸者他)ほかと、合唱がコール・デル・ソーレ。
 20分の休憩2回を入れ、終演は5時少し過ぎ。

※昔のテレビドラマでも、羽田空港で刑事たちを振り切って逃げた犯人が、次の場面ではいきなり新宿の高層ビル街で大立ち回りの挙句逮捕されるという設定が多くあったから、似たようなものかもしれない。

コメント

「イリス」と来れば井上道義――くらいに、このオペラ上演に井上さんが貢献されていると思います。また日本で、それも井上さんとは違う広がりで、かかって良かったなと思いました(残念ながら、遠方に住まう小生は聴いてはおりません)。
話ははっきり言って極めてナンセンスであり、そのあまりのナンセンスさに頭が痛くなる程です。しかし、マスカーニ独特のややしつこさもある甘美で快い音楽は癖になります。
ナンセンスではありつつも、ヒロイン役が強い共感を持ってイリスと一体化した時、何とも表現しがたい濃い感動を覚えます。おそらく、ここが井上さんがこの作品に愛情を注がれるとこなんだと思います。
嗚呼また井上さんで聴きたくなってきました。
名作ばかりでなく、このような魅力溢れる作品がもっと舞台にかかって欲しいものです。

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