2017-05

2015・12・20(日)バッティストーニ指揮東京フィルの「第9」

     Bunkamuraオーチャードホール  3時

 ラジオから流れる「第9」を家族みんなでこたつに入って聴いた子供の頃(そんな光景もあったのだ昭和の昔には!)は別として、年末に「第9」を聴く習慣というのは、最近の私には無い。

 だが今年は、指揮者とオケとの組み合わせもちょっと興味があるので、二つ三つ聴きに行くことにした。本当は昨日、びわ湖ホールで午前中に「さまよえるオランダ人」のオペラ講座を担当した時、大ホールでは午後に佐渡裕と兵庫芸術文化センター管の「第9」があったのだが、帰京する都合で聴けなかったので、今日の東京フィルハーモニー交響楽団の「第9」を以ってその初弾とする。

 俊英の首席客演指揮者アンドレア・バッティストーニが振ることが、最大の注目点だ。プログラムは「《レオノーレ》序曲第3番」との組み合わせだ。協演は東京オペラシンガーズ、声楽ソロは安井陽子、竹本節子、アンドレアス・シャーガー、萩原潤。コンサートマスターは三浦章宏。

 結論から先に言うと、とにかくテンポの速い「第9」である。演奏時間60分、正味58分くらいか。昔のレコードにはそういう演奏もあったが、最近のナマのステージでは、極めて珍しいタイプに属するだろう。
 「矯め」もほとんどないイン・テンポの演奏で、それは痛快というか、あっさりしすぎるというか。良くも悪くも、猛烈に慌ただしい「第9」だ。
 第1楽章の、コーダに入るところのリタルダンドも概して目にも止まらぬ速度で通り過ぎ、第4楽章のファンファーレとレシタティーフも、勢いのいいテンポで飛ばして行く。第1楽章はもちろん、ベートーヴェンがスコアに指定した「マ・ノン・トロッポ」ではないし、「マエストーゾ」の要素も皆無である。

 それらはまあ一つの手法だとしても、しかし第27、29小節のトランペットとティンパニによるリズムが、まるで踊るように快活な表情で演奏された(バッティストーニ自身が、指揮台の上で躍っていた)のには愕然とし、この第1楽章にかくのごときイメージをぶち込むとは、彼の解釈に根本的な誤りがあるのではないかという気さえしたほどだった・・・・。

 同じように速いテンポの中にも、流動的な音楽の動きと、微細な明暗と陰翳の変化とを常に欠かさなかった大先輩トスカニーニのような演奏もあるのだから、若いバッティストーニも、この「第9」を振るからには、もう少し音楽の構築についての研究を重ねて行ってもらいたいと思わざるを得ない。

 が、バッティストーニの面白いところは、第4楽章冒頭のレシタティーフを実に慌ただしく(まるで問答無用と言わんばかりに)片付けておきながら、それに続く各楽章の主題を順に否定して行く個所では、まるで思い悩むかのように躊躇いがちにチェロとバスを歌わせて行くようなところだろう。このあたりはなかなかオペラ的な感覚だな、と思わせる。

 そしてそのあとに出現する「歓喜の主題」で、カンタービレをいっぱいに利かせつつ、歓びに満ちるように盛り上げて行くあたりも、巧い。こういうところが、彼の身上ではないかという気がする。
 「歓喜の歌」は、彼の指揮では、まさに爽やかで、若々しい歌になる。合唱も、若いエネルギーを噴出させるように歌って行った。

 特に愉快だったのは、テノール・ソロのシャーガーだった。声の張りと勢いが目覚ましく、他の3人のソロ歌手を牽引するかのように朗々と歌っていただけでなく、あの行進曲に乗ったソロの個所では、あたかもオペラのような身振りを加えて劇的に歌っていたのが微笑ましい。
 身振りの是非はともかくとしても、この「兄弟たちよ、勝利に向かう英雄のように歓びに満ちて自分の道を進め!」という歌詞は、若者たちの集団の先頭に立つリーダーの歌なのであり、曲想からいっても、本来はこのようにドラマティックに歌うのが正しいのではないかと思う。
 若いバッティストーニの「第9」のイメージが原曲のそれと完璧に合致した個所は、この勝利の進軍のところだったかもしれない。
          →モーストリー・クラシック3月号 公演Reviews

コメント

バッティストーニを初めて聴きました。先日、「トゥーランドット」の物凄いCDを聴いたばかりでしたので大いに期待してたのですが、正直拍子抜けといったところでした。ほぼ同感でしたので具体的な感想は略きますが。同じくテンポの速い演奏でも昨日聴いたパーヴォ・ヤルヴィ/N響は超カッコ良かった!表現も多彩だし。やっぱベートーヴェンって特別なのだな・・・と改めて思いました。勿論これ一回で判断は出来ないので今後に期待しています。

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