2017-09

2015・10・24(土)アレクサンドル・ラザレフ指揮日本フィル

      サントリーホール  2時

 ラザレフの指揮を聴いて、作品の新しい視点を教えられたことは、これまでにもしばしばあった。先年のラフマニノフの「第1交響曲」の演奏などもその好例だったが、今回のショスタコーヴィチの「第9交響曲」の演奏も、大いに納得できるものだった。

 つまりラザレフの指揮は、この曲の軽妙洒脱な作風とか、ベートーヴェン以来の所謂「第9」という特別なイメージにスッポラカシを食わせて当時のソ連当局を激怒させたとかいった「軽い」イメージを、根本的に覆すスタイルなのである。
 そこには、重厚で激烈で、いい意味での凶暴さとグロテスクな躍動があふれる。音楽は猛烈果敢で、激情的なアイロニーを感じさせるものになる。これを聴くと、この「第9」は、ショスタコーヴィチが奇妙な作風の転換を行なったものでは決してなく、まさに「第8交響曲」の延長線上に位置する交響曲だということが解る。

 その前に演奏されたチャイコフスキーの「ロメオとジュリエットの二重唱」が、これまた実に珍しい作品だった。彼はこの曲の「下書きを完成していた」(森田稔氏の解説文による)が、直後に急逝してしまったため、セルゲイ・タネーエフが管弦楽配置を行なったという。
 面白いのは、チャイコフスキーの旧作の幻想序曲「ロメオとジュリエット」の序奏が冒頭に使用され、その後も二重唱の中に同序曲の「愛の場面」の部分が随所に現れ、まさしくオペラ的な雰囲気を醸し出していることだ。しかもそれが、すこぶる美しい。
 こんな珍しい曲は、二度と聴ける機会はないかもしれない。この日は、大槻孝志(ロメオ)、黒澤麻美(ジュリエット)、原彩子(乳母)の3人が歌った。

 そして、プログラムの最初に演奏されたのは、ストラヴィンスキーの「妖精の口づけ」。ショスタコーヴィチの「第9」の激烈な狂乱との対照を為す位置付けというべき、整然とした構築の演奏で、当然ながらこの作曲家の新古典主義作風を浮き彫りにした指揮だった。もちろんラザレフの指揮だから、冷徹明晰な20世紀の現代音楽としての色合いでなく、もっと濃厚な色彩の、層の厚い響きのものになっていたことは言うまでもない。
 チャイコフスキーへのオマージュともいうべき意味合いのこの曲を冒頭に置くあたり、プログラミングの巧さが光る。

 それにしても、日本フィルハーモニー交響楽団(コンサートマスターは木野雅之)の演奏は鮮やかなものだった。「妖精の口づけ」での均衡の豊かな演奏もさることながら、「9番」での奔放な躍動、怒号しつつもバランスを失わぬ最強奏は、実に見事なものである。第3楽章終り近くのファゴットの長いモノローグも緊迫感にあふれていた。
 ラザレフと日本フィルのロシアものには優れた演奏が多いが、ここにまた一つ特筆すべき快演が刻まれたことは間違いない。
         ⇒別稿 音楽の友12月号 演奏会評

コメント

素晴らしい「第九」

今までの彼のショスタコヴィッチの演奏で今回の演奏が一番衝撃的でした。8番も感動したし、4番も感動したし、と今までのどのショスタコもよかったのですが、ふざけた音楽で、きっとおもしろくもないと思っていただけに「え?これ9番だよね?」という驚きの念をもってワクワクして聴けたという点では断トツです!(実演で聴いたのは2回目ですし、CDも繰り返し聴いていないので耳が慣れてないので、若干過大評価気味かもしれませんが)
実は先日の名曲コンサートでのボロディン交響曲第2番も冒頭から重厚で重厚で思わず下を向いて笑っていたのですが、そのときは「大見得を切った演奏」という捉え方でしかなかったのです。でも、土曜日、大見得というのではなく、真価を抉り出した凄絶な演奏と感じたのは、曲の格の違いというか、やはりショスタコのショスタコたる所以でしょうか。更に言うなら、演奏の一期一会というのも考えさせられた名演でありました。

ブリバエフの5番

ショスココ9番では以前、高関/センチュリ響のKGBの足音が聞こえてくる様な恐ろしいものを聞いた記憶があるがラザレフ/日本フィルのショスタコ9番はそれとは別の意味で聞きたかった。
同じ日,ブリバエフ・/センチュリー響の定期でショスタコ5番を聞いたが、これが驚くべき解釈で、2楽章後半のヴァイオリンソロ(荒井氏)のところでスローモーションのようにテンポを落とした。団員の人の話ではリハーサルでは踊りながら指揮をしてこの場所はボリショイバレーをスターリンが見ている前で踊るバレーのイメージと説明したとのこと。
演奏会では踊らなかったが終結も同じテンポに落とし急速におわらせる解釈が効果的だった。ショスタコの謎がまたひとつ増えた思いである。彼の6.9番も聞きたいものだ。

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