2017-10

2015・10・11(日)ブルガリア国立歌劇場 「イーゴリ公」

     東京文化会館大ホール  3時

 ブルガリア国立歌劇場━━以前は「ソフィア国立歌劇場」という名称で知られていた。現在でもそれが正式名称である。
 「ブルガリア」としたのは、「ソフィア」では日本人には分からないから、ということか? 公演スポンサーに「明治ブルガリア・ヨーグルト」がついていることからすれば、尚更・・・・。

 演目は、ボロディンの名作オペラ「イーゴリ公」。
 ボロディンが完成作を残していないために、リムスキー=コルサコフとグラズノフが補作完成した版が、最初のうちは一般に上演されていた。その後、オリジナルから部分的に新しく復活させて取り入れたり、幕の順序を変更したりした、いろいろな版が出始めた。マリインスキー劇場新版のように複雑な構成の版もあれば、先頃METで上演されたような「イーゴリの悔恨」に重点を置く長大なスタイルもある。「イーゴリ公」は、10の上演があれば10の版がある、と言われるゆえんである。

 今回は、ソフィア国立歌劇場の総裁でもあるプラーメン・カルターロフの演出により、彼の考えによる版が使われた。
 場面の順序は、「プロローグ」(プチーヴリの街の広場)━━「ガリツキー公の館」━━「ヤロスラーヴナの館」━━「ポロヴェッツ軍の野営地」━━「荒廃したプチーヴリの街(ここでは墓地)」━━「ポロヴェッツ軍の野営地」という構成。
 そして全曲の最後に、ウラジーミル(イーゴリ公の息子)とコンチャコーヴナ(コンチャク汗の娘)との結婚を祝う設定として「ポロヴェッツ人の踊り」が置かれてクライマックスをつくる。

 だがこの順序は、1990年代初期にボリショイ劇場で、演出家ボリス・ポクロフスキーらが行なったものと、基本的には全く同一である(1995年に日本でも上演されている)。
 人物の動きで大きく異なるのは、カルターロフ演出では、イーゴリがプチーヴリに帰還する場面にスクーラとエローシュカが登場しないことと、脱走したはずのイーゴリ公が最後に突然ポロヴェッツ軍陣地に妻を連れて戻って来て、息子たちの結婚祝宴に立ち会う(!)という奇抜な設定の2点である。
 「ポロヴェッツ人の踊り」を最後に置いて結婚祝宴とし、「対立する世界の和解」を描こうとする手法も、ポクロフスキーが既に試みていたものだった。それゆえ、このカルターロフ演出が、特に目新しい手法だというわけではない。

 衣装も含め、全体にトラディショナルなスタイルの舞台だ。
 が、「プロローグ」で、イーゴリ軍の出征を、民衆が口では「スラーヴァ!(万歳)」と叫びながらも、実際はうんざりしている様子を巧く描き出しているところは面白いだろう。実在のイーゴリ公が実際は無茶な出陣を強行して失敗した人物である、ということは、歴史上の事実だからである。

 だが、最後のポロヴェッツ軍野営地の場面に、イーゴリ夫妻が突然やって来るという設定は、いくらなんでも無理があるのではないか? 幕切れで東西の勇者がしっかと剣(十字架の象徴でもある)の上で和解を誓い合うという場面のためのご都合主義、としか思えないだろう。
 その点、若者たちの結婚にのみ焦点を合わせ、「東西の和解、未来への希望」というテーマを打ち出したポクロフスキー演出版の方が、同じ「今日的なメッセージ」を打ち出すにしても、よほど筋道が立っていたと思う。
 なお、こういう試みに応じ、音楽の構成にも追加、入れ替えなど、さまざまな趣向が加えられていたが、長くなるので省略する。

 制作費も潤沢とは思えぬ歌劇場としては、精一杯やっているな、という印象だ。
 歌い手にも国際的に有名な人がいるわけでもなく、技術的な水準の高くない歌手も混じっている。合唱も、テノール・パートはかなり雑で、1960年代には西欧に名を轟かせたこの劇場の合唱団の片鱗もないのは寂しい。だがとにかく、舞台もそれなりにまとまっているのは事実である。

 惜しむらくは、指揮者グリゴール・パリカロフが、劇的感覚を欠いているとしか思えぬような、生気のない、緊張感の全くない演奏しかつくれなかったということだろう。オーケストラが少したるんだ演奏をしていたのも、指揮者の責任ではないか。もし引き締まった指揮でオケや歌手を率いていたなら、もっと全曲の流れも良くなったはずである。

 主な配役は、イーゴリ公をスタニスラフ・トリフォノフ、ヤロスラーヴナをガブリエラ・ゲオルギエヴァ、ガリツキー公をアレクサンデル・ノスィコフ、コンチャク汗をアンゲル・フリストフ。2幕制で、休憩1回を含み、6時終演。

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