2017-09

2015・10・1(木)新国立劇場 新演出「ラインの黄金」

    新国立劇場  7時

 新シーズン開幕初日は、芸術監督・飯守泰次郎の指揮でワーグナーの「ラインの黄金」。これは同劇場にとっての「指環」新プロダクションの幕開きになる。

 新国立劇場の「指環」は、2001年に新制作されたキース・ウォーナー演出(2009年再演)以来だ。今回は故ゲッツ・フリードリヒの演出(1996年フィンランド国立劇場制作)が取り上げられている。
 前者があれこれ謎解き話題の豊富な演出だったのに比べ、今回のそれは、設定、舞台装置、演技などを含め、極めてシンプルなものである。つまり、全くストレスを生み出さぬ演出といえようか。それゆえ、ワグネリアンたちから見れば、あまり手応えのない舞台である。しかし一方、白紙の状態で「指環」に接する観客にとっては安心して観ていられる類の舞台であろう。

 劇場側としてはおそらく、前作のウォーナー演出があまりに尖っていたので、今回は解りやすい舞台で━━と、日本の観客のオペラ体験や好みを考慮した上での選択だったのだろう。それはそれで、劇場としての一つの選択肢だ。
 だが、昨年新制作されたあのクプファー演出の「パルジファル」が、東西の宗教の融合などといった興味深い問題を多く含んだ、いろいろなことを考えさせた意欲的な舞台だったのを思い起こすと、今回のまるで時計の針を逆行させたようなフリードリヒ演出が選ばれたことは、新国立劇場の姿勢にやはり一抹の不安と寂しさを感じないではいられないのである。

 ちなみに今回の彼の演出は、30年近く前にベルリン・ドイツオペラで制作した別ヴァージョン(日本でも1987年に引越上演され、われわれに大きな衝撃を与えた)とはもちろん異なっており、舞台奥にトンネルなどはない。だがラストシーンで、神々がヴァルハルに入城して行く際の「前進━━後退」を繰り返すステップは、やはり採用されていた。フリードリヒは、よほどこのテが気に入っていたらしい。
 なお今回の演出補(再現演出)はイェレ・エルッキラ。美術と衣装はゴットフリート・ピルツ、照明はキンモ・ルスケラだった。

 演奏は、飯守泰次郎指揮の東京フィルハーモニー交響楽団である。飯守のワーグナーには、私はこれまで悉く賛辞を呈して来たが、今回の「ラインの黄金」におけるテンポの遅さにだけは・・・・些か共感を抱きかねた。
 上演時間も、多分2時間半を超しただろう。2時間35分くらいは行っていたかもしれない。これは、メータや、一頃のレヴァインのテンポに匹敵する遅さであろう。
 遅いだけならまだいいけれども、この日の演奏は、随所で緊張力が弛緩していた。飯守としては、これまで例を見ないことではなかったろうか? 

 東京フィルは、今回は何とか14年前の汚名を雪いだともいえる演奏だったが、ただ第1場(ライン河底の場面)では、やはりどうも頼りなくて冷や冷やさせられる。特に「黄金」が姿を現す場面での3本のホルンのバランスの悪さには、啞然とさせられた。なにしろ、「黄金の動機」の主旋律が浮かび上がって来ないという状態だったのである。
 こんなことは、多分初日だけの問題だろうと思う。しかしやはり、シーズン開幕日にこんな状態では困るのだ。オペラのピットに入った時の東京フィルの弱体ぶりは、未だに解決されていない。

 歌手陣。
 最も映えたのは、やはり火の神ローゲのスティーヴン(シュテファン)・グールドである。成金男風の扮装で、赤いコートと赤い縁の眼鏡をかけ、「陰の主人公」としてのこの役を見事に歌い演じた。こういう「恰幅のいい」ローゲというのは、比較的珍しいのではなかろうか。
 ニーベルング族の長アルベリヒのトーマス・ガゼリも、少し騒々しい表現ではあったものの、物語のキーマンとしての性格を荒々しく的確に描き出していた。もう1人のキーマン、大神ヴォータンのユッカ・ラジライネンは、三角形の眼帯という変わったメークで大見得だったが、今日は少し声が粗かったか? 

 その妻フリッカのシモーネ・シュレーダーは声が綺麗であり、智の神エルダのクリスタ・マイヤーも、あまりおどろおどろしくない透明な声で映えた。この2人の女声歌手はバイロイトの常連だし、ツボを心得た歌唱を聴かせてくれる。
 小人ミーメのアンドレアス・コンラッドも安定している。巨人族の2人━━ファーゾルトの妻屋秀和とファフナーのクリスティアン・ヒューブナーは、上げ底の靴を履いて巨体をいっそう目立たせ、宇宙服のようないでたちでのし歩いていたが、歌唱と演技には、もう少し凄味があってもいいだろう。

 その巨人たちを最初は憎からず想っていたのに結局凌辱されて酷い目に遭う女神フライアを、安藤赴美子が清純な声で歌い演じた。ボクサーを気取る雷神ドンナーの黒田博は、もう少し演奏のテンポが速ければ、終場の聴かせどころで(早く出すぎるようなこともなく)もっと朗々たる見得を披露できたのではないか。フローの片寄純也、ラインの乙女役の増田のり子、池田香織、清水華澄ら、いずれも好演だった。

 幕が下りたのは9時45分頃。

コメント

東条先生、待ってました!笑
お疲れ様です。いつも拝見してます。

毎回先生の意見と食い違うのですが笑、悪意はありません。お許しを。

今回の演奏は、過去に聴いたものと比較しても、個人的には1番短く感じました。ヤノフスキやヴァイグレなどの殺伐として情緒皆無なワーグナーのあとでは、やはり飯守泰次郎、見事というほかありません。

東京フィル、珍しくマシな方だったのでは笑?このオケ、人数の割に冴えないのはサントリーでも同様で、新国立劇場のピットの時だけの問題ではない気がします。ただ、飯守泰次郎が今まで指揮してきた二流管弦楽団《西のオケとかシティとか》とは力量が段違いです。在京オケは、レベルが相対的に高すぎます。

フリードリヒの演出については、予算もないし、現代に通用する力を持ち、奇妙キテレツ路線とは反対に音楽を邪魔せず、かつ視覚的に美しいもの、という条件のなかで選ばれたようです。リングは四部作ですから。パルジファルとは金が違います。今回の選択は、無難にして最良ではないでしょうか。事実、バイロイトのリングなど、演出はくだらなさの限りですし、フリードリヒの演出は今なお時代と対決できるもと考えます。

ワーグナーの音楽をパロディーにしてしまうような最近の演出はもう時代遅れではないですか?
今回のは限られた予算の中で最良の選択肢といえるでしょう。
もちろん飯守がシーズンスケジュール
発表のときについ洩らしてしまった一言が本音なのでしょうが。
予算が足りなくて仕方なくこれにしたみたいなことを言いましたよね。

東条先生、こんばんは。
秋のラッシュでお忙しそうですね笑

ラインの黄金、4日のご報告です。東京フィルハーモニー、やればできるじゃないか!というような快演。オーケストラにブラヴァーかかってました。

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