2017-10

2015・9・20(日)みつなかオペラ ベッリーニ:「ノルマ」

      川西市みつなかホール  2時

 阪急電車宝塚線の川西能勢口駅近くにある「みつなかホール」━━客席数は500人足らず、オケ・ピットが使用された時には440人程度の由。だが入ってみると、ホールも舞台も立派で、意外に大きい感じがする。関西では名の知れた存在だが、私にとっては今回が初めての訪問だ。

 ここで公演されている「みつなかオペラ」(旧・川西市民オペラ)は、1991年に旗揚げし、97年以降は年に1回(2007年と2010年は各2回、2008年は行わず)の割で公演、今年が第24回になる。
 10年ほど前からはイタリア・オペラを取り上げ、「愛の妙薬」「ドン・パスクワーレ」「セビリャの理髪師」「ラ・ボエーム」「椿姫」「アイーダ」「マリア・ストゥアルダ」「ラ・ファヴォチータ」「ランメルモールのルチア」「カプレーティとモンテッキ」「清教徒」といった作品を上演して来ている。

 今回はベッリーニの「ノルマ」だ。
 牧村邦彦指揮ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団とみつなかオペラ合唱団が出演。演出は井原広樹、舞台装置はアントニオ・マストゥロマッティ。ダブルキャストの2日目の今日は、尾崎比佐子(ノルマ)、藤田卓也(ポリオーネ)、木澤佐江子(アダルジーザ)、片桐直樹(オロヴェーゾ)、小林峻(フラヴィーオ)、味岡真紀子(クロティルデ)という配役。

 まず驚いたのは、ピットも小ぶりで、せいぜい30人ほどが納まる程度の広さなのにもかかわらず、序曲の冒頭からオーケストラがたっぷりした音で堂々と鳴り出したこと。
 牧村の鳴らし方も巧みであるに違いないが、管弦楽編成のリダクション(倉橋日出夫)の巧さもあるのだろう。その響きと演奏の見事さには、「これで充分」とさえ思えたくらいである。
 ヨーロッパの地方都市の歌劇場の中には、昔はワーグナーのオペラを第1ヴァイオリン4人という編成で上演していた所もあったとか聞く。量より質━━であることを実証した例の一つが、この「みつなかホール」のオペラ上演スタイルではないかという気がする。

 ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団も好演した。牧村の指揮は、今年1月の札幌での「アイーダ」におけると同様、場面ごとの音楽の変化が明確でなく、全体の流れが単調になる傾向があるが、歌手たちを巧く支え、この小さな劇場での音響を聴きやすく構築しているという点では、やはり非凡なものがあるだろう。

 その歌手陣が、また素晴らしい。東京の国内オペラ団体の上演でも、特に最近は、これだけの水準を示した歌唱陣はなかなか聴けないのではないか。
 題名役の尾崎比佐子は、先日の「アンドレア・シェニエ」でも感嘆させられたことだが、実に力のある、温かくてしかも綺麗な声だ。立ち上がりはヴィブラートも強めで、歌唱も少し揺れるところがあるものの、長丁場の中でぐんぐんと調子を上げて行き、最終場面で完璧に決めるという、見事な「持って行き方」である。今回のラストシーンでも、これだけ伸びのある美しい声をよく最後まで些かの瑕疵もなく発揮できたものだと感心した。欲を言えば、ノルマの「怒り」と「優しさ」との描き分けを歌唱でもう少し明確に表現してほしかったところだが、これは今後に期待しよう。

 また、彼女との2重唱も多いアダルジーザ役の木澤佐江子も素晴らしい。第1幕の終り頃から歌にも気魄があふれ始め、二つの2重唱では尾崎と拮抗して全く引けを取らなかっただけでなく、「和解の2重唱」の方ではむしろ安定して聞こえたくらいである━━もっとも、この2重唱では、どのコンビもたいていメゾの方が安定した歌い方になるものだが。

 男声陣でも、藤田卓也が前記「アンドレア・シェニエ」におけると同様、胸のすくような声を聴かせてくれた。ただ最初のうちは、どうみても大劇場向けの歌いぶりに過ぎたようだが、後半、ポリオーネの苦悩が増すに従って、女声とのバランスもよくなった。期待のテナーである彼は、12月6日に東京で藤原歌劇団公演の「仮面舞踏会」のリッカルドを歌うことになっている。私は浜松国際ピアノ・コンクール本選の取材があるので、聴けないのが残念だが。

 そして、片桐直樹のオロヴェーゾは、もうベテランの貫録そのもの。「シェニエ」におけると同様、こういう重みのある人がしっかりと脇を固めてくれてこそ、オペラは成功するというものである。

 井原広樹の演出は、衣装(村上まさあき)を含め、今どき珍しい写実的なものだ。とはいえ、兵士たちの動きひとつにしても、音楽の変化に合わせてその都度立ち位置や姿勢を変えるといったように、細かい部分まで気を配った、念の入ったつくりになっていた。主役たちを含め、何もしない棒立ちの姿勢などは一切見られない舞台だ。たとえ現代のオペラ演出の潮流に属さぬものであっても、このように細かい演技が織り込まれていれば、それはそれでいいのである。
 だが、時々現われるダンスだけは、━━なくもがなであろう。「戦いだ!」の合唱場面における背景でのダンスなど、妙に野暮ったくて、舞台の悲劇的緊張感に水をさすものに感じられた。

 しかし全体としては、これは驚異的な水準の上演だった。特に音楽面でこんなに真摯なレベルの高い公演が、大阪の小さな劇場で、しかも関西に本拠を置く歌手を中心に行われていることを知ったら、お高くとまっている東京のオペラ団体も顔色を失うだろう。

 5時終演。往路と同じ阪急宝塚線で梅田へ引き返す。JRに乗り換え、6時半の新幹線に飛び乗って帰京。
          ⇒別稿  音楽の友11月号演奏会評

コメント

ようおこし

昨日、会場でお見かけしましたが、お声かけできませんでした。「アンドレア・シェニエ」のとき、藤田卓也さんのポリオーネを川西で是非お聴きになるようにとお勧めしましたが、やはりお越しいただけましたね。各地を回り国内のめぼしい公演に足を運び、きちんと素早くレポートされている、評論家でほとんど唯一の存在に頭が下がります。こちらはまだ、二日分の感想が書けていないのに。

お聴きにならなかった19日の並河寿美さんのノルマも、尾崎さんとは違う役作りでとても聴きごたえがありました。20日には並河さんをロビーでお見かけしましたので、「昨日はとても良かったですよ」と声かけしましたら、とても喜んでしらっしゃいました。これも小さなホールの良さですね。

さて、2011年9月24日の川西でのフェルナンド(ドニゼッティ「ファヴォリータ」)で仰天して以来、私の一押しのテノール、藤田卓也さんについては、東条さんと同じ印象を持ちました。第一幕前半の歌唱は気負い気味で彼本来の美質が損なわれ気味になっていたのが残念、上手く力を抜けばこの人の良さが100%出るのに惜しい。東京から駆けつけた友人(先月、秩父で彼のカラフ(「トゥーランドット」)も聴いている)も同様の印象とのこと。

とは言え、立派な歌唱であることには違いなく、藤原歌劇団が彼を引き抜いたのも頷けます(関西在住の人間にとってはちょっと微妙ではありますが)。テノール人材難のなか、首都圏で引っ張りだこになるのは確実だと思いますが、力任せに陥らないよう、天賦の声を大事にしていってほしいものです。

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