2017-06

2015・8・29(土)シュトックハウゼン:「シュティムング」

       サントリーホール・ブルーローズ 7時

 薄暗い電灯の下で、6人の男女が車座になって座り、お経みたいな、呪文みたいなのを延々と唱えるんだぜ━━と、誰だったか、1970年の大阪万博でこの曲を聴いたヤツが言っていたセリフが、突然記憶の中に甦った。45年間もずっと忘れていた言葉を、それも演奏が始まって、音楽に浸った瞬間に、「あ、この曲だったか━━」と思い出した。

 当時の資料をひっくり返してみると、あの大阪万博(3月~9月)の際、「西ドイツ館」では、ツィンマーマン(!)やブラッハーなどの「現代ドイツの電子音楽作品」とともに、シュトックハウゼンの作品も「ツィクルス」「コンタクテ」など多数が「再生」または「演奏」されていたことがわかる。この「シュティムング」も、その一環として演奏されていたのだった。
 その上、若きシュトックハウゼンご本人もほぼ半年近く日本にいて、6月半ばまで毎日、自作の録音テープの再生を自ら担当したり、生演奏に立ち会ったりしていたのである。

 実は私も、大阪万博には仕事を含めて4度ほど足を運んでいたのだが、立ち寄ったのはフェスティバルホール(セルとクリーヴランド管のリハーサル)が1回、あとは武満徹氏が音楽プロデューサーを務めていた「鉄鋼館スペース・シアター」だけだった。
 「西ドイツ館」で行われているコンサートがそういう規模のものだと知っていたら、無理をしてでも立ち寄ったのに、と思う。60年代から草月会館のホールに日参してジョン・ケージを聴き、ベリオやカーゲルやピエール・アンリのレコードに熱中し、とりわけシュトックハウゼンの「コンタクテ」のレコードを自宅で大音量再生して陶酔していた時期の生意気なガキとしては、あの機会を逸したのは、大いに悔やまれることであった。

 もっとも、「西ドイツ館」のPRそのものが、鉄鋼館に比べると、少々地味だったせいもあるだろう。鉄鋼館の方は、1008個のスピーカーと820台のアンプを駆使した精巧緻密な音響(技術・若林駿介氏)を売り物にして、現代音楽祭から雅楽に至る幅広いレパートリーを打ち出し、マスコミでも大きく取り上げられていたのである。

 本題に戻る。
 今回の「シュティムング」の演奏では、小ホールの中央に一段高い小さな舞台を設置、まさに「電灯」が吊り下げられたその舞台の上で、歌手6人が円形の位置に座し、声を会場の四方のスピーカーから増幅して響かせるという形が採られた。
 演奏は、工藤あかね(S)、ユーリア・ミハーイ(S、音楽監督)、太田真紀(A)、金沢青児(T)、山枡信明(T),松平敬(Bs)の歌手たち。それに有馬純寿が音響を担当した。聴衆は、その舞台をぐるりと囲んで聴く。
 歌手たちが演奏するのは、もちろんお経でも呪文でもない。様々な高さや表情を持った声と、ドイツ語の歌詞、口の形を変えて発音する様々な声、などである。

 それらを聴いているうちに、何か理由は判然としないけれども、60~70年代に当時のこの種の現代音楽を聴いた時の感覚が、自分でも呆気にとられるほど鮮明に蘇って来たのだった。作品や演奏のスタイルが旧いという意味ではないのだが、━━というより、あの頃はこういうタイプの曲や演奏を、新鮮な感覚で、随分夢中になって聴いたことがあるな、という記憶のようなものである。ということは、この作品は、やはりシュトックハウゼンとしては、60年代末の作風━━であることを証明しているのかもしれない。

 ではあるものの、それらの声が同時に響き、交錯していく時の微細で複雑なハーモニーは、今聴いても、喩えようもない美しさだ! たった6人の声がこれだけ多彩な倍音効果を生み出すものなのか、と驚嘆させられる。それは言うまでもなく、「七色の声」でおなじみの松平敬さんをはじめ、今日の歌手たちの力量ゆえでもあっただろう。
 正味演奏時間は70分を超すほどだったが、私には全く長く感じられなかった。

 歌手たちの入場と退場もすこぶるセレモニー的だが、これらを含め、やはり何か密教の儀式めいた雰囲気がつきまとうのも、たまらなく面白い。
 そう、60年代の草月会館ホールで、ジョン・ケージが真面目な顔で、長い棒で床をがりがりとこすりながら客席に入って来る「演奏」をしていた時にも「まるで儀式だ」と思ったものだった。━━あの時には、緊張に耐え切れず、ついニヤニヤしてしまったものだったが。

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