2017-10

2015・8・27(木)セイジ・オザワ松本フェスティバル       
ベルリオーズ:オペラ「ベアトリスとベネディクト」

    まつもと市民芸術館・主ホール  7時

 珍しいオペラをやったものである。
 小澤さんは1964年のタングルウッド音楽祭でこの曲を指揮したことがあるとのこと。若武者の頃の思い出をもう一度ということもあるだろうが、それ以外にも、「なるべくみんながあまりやらないようなオペラを選んでやっているつもり」(「道楽者のなりゆき」上演時の私のインタビューでの発言)という原点回帰の意図があったのかもしれない。

 そういうせっかくの機会だったのに、また怪我のため指揮できなくなったのは、かえすがえすも残念であった。代役として、オペラ・ボストンなどで活躍しているギル・ローズという人が指揮した。

 「ベアトリスとベネディクト」は、オペラ・コミーク・スタイルの作品ゆえにセリフ部分もかなり多いが、フランス語で歌い喋るソロ歌手たち(語り役も含む)は全員が外国人勢とあって、全く違和感なしに進められた。

 配役は、若い将校ベネディクトをジャン=フランソワ・ボラ、その恋人ベアトリスをマリー・ルノルマン、シチリア島守備隊司令官ドン・ペドロをポール・ガイ、副官クラウディオをエドウィン・クロスリー・メルセル、その恋人エローをリディア・テューシェル、彼女の女官ウルスルをカレン・カージル、軍楽長ソマローネをジャン=フィリップ・ラフォン、メッシーナの総督レオナートをクリスチャン・ゴノン、その他。
 ベアトリス役は、初日は歌ったヴィルジニー・ヴェレーズが風邪とかで、今日だけ急遽変更になった。

 特にスター的な人はいないけれども、このフェスティバルにはおなじみのラフォンが愉快な楽士長を演じて舞台に活気をつけ、また2012年に「火刑台上のジャンヌ・ダルク」で僧ドミニクを演じたゴノンも、コメディ・フランセーズ所属俳優の実力を生かした語り役で貫録を示していた。その他の歌手も手堅く歌い演じてくれるといった具合で、比較的まとまりの良い出来だったといえよう。

 一方、群衆役は、日本のOMF合唱団が歌い演じたが、これがまた予想以上によく頑張っていたのが嬉しい。「グロテスクな祝典歌」でのコミカルな発声など見事なもので、フランス人たち主役陣の歌をバックアップして隙がなかったのである。

 演出は、コム・ドゥ・ベルシーズが受け持っていた。だが、これはまた、舞台装置(シゴレーヌ・ドゥ・シャシー)を含め、冗談でやっているのではないかと思えるほどの、今どき珍しい超写実的なスタイルだ。全員が客席正面を向いて直立不動で歌ったり、主役が歌っている時に脇役は背景で佇立したまま動かずという光景があったりするのは、旧き「決まりの型」から一歩も出ていない演出と言わざるを得まい。
 ベルシーズは、3年前の「火刑台上のジャンヌ・ダルク」の時にもどちらかというと保守的な路線を見せていたが、・・・・もしかしたらいずれも、突飛な演出を嫌う総監督小澤の注文だったのか? 

 まあ、曲が曲だけに、楽しく観せたい、という狙いもあるだろう。だが、四半世紀近くに及ぶ歴史を持つこの音楽祭が、かつては「エディプス王」「ファウストの劫罰」「イェヌーファ」「利口な女狐の物語」「カルメル会修道女の対話」など━━中には共同制作もあったにしても━━日本のオペラ界に新風を吹き込んだ意欲的な舞台を輩出していたことを思うと、最近の保守回帰路線(?)は、このフェスティバルが何かローカルな、前進することを止めてしまった存在に陥るもののように感じられてしまうのが寂しい。

 ところで、指揮者ギル・ローズだが・・・・極めて丁寧ではあるが、やはり生真面目な表現の指揮だ。
 といっても、もともとベルリオーズの本来の作風には、やはり壮大でシリアスな音楽に最高のものを発揮する特徴があるだろう。このような「喜劇」を手がけると、どうしても何か、無理をしているような感を与えてしまう(それゆえ第1幕終曲の二重唱のような曲想の個所では「カルタゴのトロイ人」のディドとアエネイースの二重唱とも共通する美しさが出る)。そういう意味ではこの曲は、かなりの難曲ではないかと思われる。
 ローズにそれが上手くこなせていたとは言い難い━━序曲など、弦(コンサートマスターは矢部達哉)の音色は綺麗で良かったとはいえ、音楽のノリの悪さには心配させられたほどである。幸いにも曲が進むに従い、次第に持ち直した。それにしても、もう少し演奏には、闊達さと、瑞々しさとが欲しかった。

 もっともこれには、サイトウ・キネン・オーケストラにも責任があるだろう。以前にも書いたことだが、このオケは、非常に巧いけれども、指揮者に「気に入った」人を得ない時には、あまり気の乗らない演奏をする癖がある(在京のどこやらのオケによく似ている)。
 これは、このフェスティバルの将来に大きくかかわってくる問題だ。小澤さんに昔日のような活躍が望めなくなった場合、このオーケストラは、本当にフェスティバルの「顔」としてやっていけるのかどうか? それを真剣に考えなくてはいけない状況が、すでにやって来ているからである。

 上演時間は、休憩20分間(実際には30分くらいか)を含め、2時間15分程度を要した。

コメント

29日の公演を観ました。この日もベアトリス役はマリー・ルノルマンが演じました。背景の映像(天気など)でアリア等を歌う登場人物の心情を表現しているところは、写実的とは言い切れないかと思います。ただし、直立不動や主役が歌っている時の脇役の動きが少ないのはいただけないですね。2年前に同じ会場で観たロラン・ペリの演出とは対照的です。

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