2017-10

2015・8・18(火)ザルツブルク篇(5)「フィガロの結婚」

      モーツァルトの家(旧祝祭小劇場) 8時

 ダン・エッティンガーが、ウィーン・フィルを穏やかな表情で指揮。1階前方3列目で聴くウィーン・フィルの柔らかい音色に、モーツァルトの色彩的なオーケストレーションが愉しめる。

 歌手陣には、ルカ・ピサローニ(アルマヴィーヴァ伯爵)、アネット・フリッチュ(伯爵夫人)、アダム・プラシェトカ(フィガロ)、マルティーナ・ヤンコーヴァ(スザンナ)、マルガリータ・グリツコーヴァ(ケルビーノ)、アン・マレイ(マルチェリーナ)、カルロス・ショーソン(ドン・バルトロ)、パウル・シュヴァイネスター(ドン・バジリオ)、クリスティーナ・ガンシュ(バルバリーナ)、エリック・アンスティーネ(アントニオ)、フランツ・スッパー(ドン・クルツィオ)といった人たち。
 スヴェン=エリック・ベヒトルフが演出し、アレックス・アールスが舞台美術を担当した。

 歌手陣には有名無名の顔ぶれを配しているが、みんないい。フィガロとバルトロのマッチョな雰囲気には驚かされるけれども、ピサローニは歌唱・演技ともに巧くて申し分ないし、フリッチュも柔らかい声で温かく、ヤンコーヴァは一昨年ここで観たデスピーナにも劣らぬ軽快さで、いずれも安定した出来である。
 特に、マルチェリーナ役としてアン・マレイが登場していたのが懐かしい。彼女は今でも美しく、気品があり、歌唱も確かだ。これほど「フィガロの優しいお母さん」の雰囲気を出した品のいいマルチェリーナも珍しいのではないかという気がする。

 さて、今年から登場したスヴェン=エリック・ベヒトルフによる演出━━あのクラウス・グートの演出に替わるこの新プロダクションは、まるで時代が四半世紀も戻ったような・・・・そう、そのアン・マレイが素敵なスザンナを歌っていた時代の頃のような、ストレートそのものの舞台だ。演技も設定もトラディショナルで、拍子抜けするくらいである。

 ベヒトルフの舞台は、一昨年ここで観た「コジ・ファン・トゥッテ」でもストレートな設定だった。「ザルツブルクのモーツァルト」も、クラウス・グートのあとは、ついに保守回帰といったところか。
 第4幕の「庭園」の舞台装置もガラス張りで、見たところは「庭の温室」という感じ。どこかで見たような光景だと思ったら、その「コジ」の舞台装置を小型にしたようなものだった。

 ただ舞台装置は、第3幕まではしばしば上下2層あるいは左右2,3室に区切られ、そこで同時に芝居が展開するという手法が採られているので、変化は感じられる。
 例えば第1幕では、バルトロとマルチェリーネの対話や、マルチェリーネとスザンナとの応酬などは、フィガロたちの寝室ではなく、上階の廊下その他で演じられる(これは理に適っている)。第2幕は伯爵夫人の部屋と、下手側の浴室とに区切られているため、伯爵と夫人との応酬および隣の浴室に逃げ込んだケルビーノやスザンナの演技とが並行して見られるという面白さもあるだろう。

 演技はコミックな要素もかなり多いが、非常にリアルで生き生きしており、スタンダードなものであるため解りやすい。久しぶりに安心して、のんびり楽しめる演出であったことだけは確かだ。だがそれゆえに、スレッカラシの観客(私もどうやらその一人だろうが)にとってはスリルがなくて、━━時差ぼけの影響が思わぬところで出て来るのも事実なのである。

 オリジナルではハッピーエンドのラストシーンで、何か一ひねりした演出が見られるだろうと思っていたが、案の定、伯爵夫人が不機嫌な顔で独り舞台前方に佇みながら歌い、やがて独り立ち去ろうとする様子が見られた。
 まあ「コジ」と同様、いったんこじれた関係はもはや二度と・・・・という意味だろうと見たが、そのあと、伯爵が彼女を強引に連れ戻し、演奏がすべて終ったあとに続く出演者たちのどんちゃん騒ぎの祝杯のパーティに引き込み、夫人も陽気に盃を傾けるという流れに変わったのは意外。これは今夜が最終公演だったためなのか? 他の日の映像を見たいところだ。

 終演は11時35分。今夜も爽やかな気候。ホテルまで15分ほど、歩いて帰るにはちょうどいい。

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