2017-08

2015・8・5(水)アルゲリッチ&秋山=広響 「平和の夕べ」コンサート

      広島文化学園HBGホール  6時45分

 秋山和慶が広島交響楽団を指揮、マルタ・アルゲリッチをゲスト・ソリストに迎え、プログラムは前半にベートーヴェンの「エグモント」序曲と「ピアノ協奏曲第1番」、後半にヒンデミットの交響曲「世界の調和」。
 これに、アニー・デュトワと平野啓一郎が、協奏曲の前に「ホロコースト」(チャールズ・レズニーコフ)からの一節を、また交響曲の前に原民喜の詩「鎮魂歌」からの一節を朗読するという趣向が織り込まれる。

 アルゲリッチは、今なお素晴らしい。なによりも、その演奏に張りつめる鮮烈な緊迫感である。アクセントの強烈さも、昔より増したのではないか。しかも今はそれに、一種の魔性的な凄味のようなものが加わっていた。
 第1楽章のカデンツァあたりの演奏には、その前に朗読された「ホロコースト」を聴いての彼女の衝撃が反映していたのではないかと思えるくらい、異様な鋭さ━━怒りのような激しさが漲っていたのである。

 音色に翳りが異様に濃かったのはピアノのせいかもしれない・・・・ピアノが必ずしも完璧な状態ではなかったという話も聞いた。
 ソロ・アンコールにはシューマンの「夢のもつれ」を演奏したが、これがまた絶品である。今日はさすがに、1曲しか弾かなかった。オケの演奏会でソリストがソロ・アンコールを2曲やるのは多すぎる、と先日は書いたが、それも演奏次第かなと、都合よく考えてしまう。アルゲリッチのような演奏だったら、2曲、いや3曲、4曲弾いたとしても文句は言うまい。

 今日も、拍手は止まらない。アルゲリッチが「もうこれでいいわ」と言ったかどうかは知らないが、彼女と何事か話しながら袖へ引き上げて行く秋山和慶が、コンサートマスター(佐久間聡一)に「もう引っ込みなさい」という身振りをしてみせ、それでようやく聴衆も拍手を諦めたという具合だった。

 その広島交響楽団も、今日の演奏には、凄まじいほどリキが入っていた。このオケの演奏は、私は年に1度か2度しか聴ける機会がないけれども、これまで聴いたいかなる演奏にも増して充実したものだった。秋山の指揮も巧いことは事実だが、広響も見事な底力である。

 冒頭の「エグモント」序曲から骨太で密度の濃い響きがあふれ出た。秋山の指揮だから熱狂陶酔といったタイプの演奏にはならず、あくまで均整と節度とを守ったものではあったが、それでも、どの曲にも、堂々たる力感が漲っていた。ヒンデミットの交響曲は・・・・私は彼の作品には極度に相性の悪いクチなので、「曲はつまらないけど演奏は良かった」という下世話極まりない表現をお許し願おうか。

 朗読の個所では、オケはもちろん板付き状態で、指揮者もソリストもすでにステージにいる。朗読が終ると、読み手2人は退場するが、すぐに演奏が始まるのではなく、おもむろにチューニングが行なわれ、その間に指揮者が座っていた椅子を(野暮ったいことに)スタッフが片づける・・・・といった進行だった。
 このように「言葉」と「音楽」を全く切り離してしまう演出は、あまりに演奏会の「型」にこだわりすぎたものではなかろうか。せっかく全員がステージにいるのだから、ナレーションのあとにすぐ演奏を開始させ、言葉の内容の持つ恐ろしさと、音楽の持つ気高さとを、もっと積極的に合体させたらいかがなものだったろうか。

 身の毛のよだつようなドキュメントの「ホロコースト」では、2人の淡々たる表情の朗読が、むしろ効果を発揮していた。これを芝居気たっぷりに読まれたりしたら、聴く方はたまったものではない。
 ただ、平野啓一郎の発音が明晰さに不足していたため、特に最後の衝撃的な一言が明確に聞こえなかったことが、聴き手へのインパクトを弱める結果となったのは惜しい。

 一方、「鎮魂歌」のように、同じ単語を何度も繰り返す「詩」の場合には、さすが一語ごとにニュアンスを変えて読んで行くアニー・デュトワ(英語)の朗読がプロらしく見事であったが、それに対し読み手のプロではない平野の朗読は、単調平板に言葉を繰り返すだけなので、同じ言葉の羅列がくどく冗長に感じられる結果を生み、成功とは言えなかった。
 これは、アルゲリッチ、秋山、広響という名演奏家を配した、シリアスな演奏会だったはず。そういう場で音楽と言葉の完璧な融合を図るならば、朗読陣もやはりそれなりのプロで固めるべきだろう。

 この「平和の夕べ」演奏会は、11日に東京でも行われる。私も聴く予定だ。しかし、これを、まず━━たとえ芸術文化振興基金調査の仕事が絡んでいたとしても━━広島で聴くことが、自分にとっても意味があるだろうと思った。

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