2017-10

2015・6・29(月)新国立劇場 松村禎三:「沈黙」

     新国立劇場オペラパレス  2時

 宮田慶子演出版の3年ぶり再演。指揮も同じく下野竜也。ただし前回は中劇場での上演だったが、今回は大劇場(オペラパレス)に変わった。4回公演の今日は3日目である。

 1993年の日生劇場での初演(若杉弘指揮、鈴木敬介演出)以来、同劇場での再演、新国立劇場や大阪音大ザ・カレッジ・オペラハウスでの上演(ともに中村敬一演出)、そしてこの新国立劇場での宮田慶子演出━━それらを、私もその都度観て来た。何度観ても気の滅入る、しかし数限りない問題について考えさせられるドラマである。

 これについては2012年2月16日の項に書いたから、ここで繰り返すのはもうやめよう。ただ私は、遠藤周作の小説(1966年刊)を原作とするこのオペラを初めて観た時から、ある別の小説に登場する一文のことをずっと連想し続けているのである。それは曽野綾子の「幸福という名の不幸」という、1972年に刊行されてベストセラーになった小説なのだが、その中に、阪之上神父が語るこういう言葉がある━━

 「神は、単純には答えを出さんよ。答えを出さない、というすさまじい答えなんだ。神は逃げるんじゃない。答えが与えられないからこそ、人間は考えるようになる。自分の無力について実感としてわかるようになる。・・・・性懲りもなく、希望をもてばいいんだ。単純で、子供のような人が神を見る、というのはそういうことなんだ。自分が知的だと思っている人は計算をする。そして、その通りにならないと絶望する。・・・・充分に知的で複雑であった上に、そのような単純さに還れたら、本物だね」(講談社刊1973年版、368頁)。

 今日の上演では、下野竜也指揮の東京フィルハーモニー交響楽団が、実に引き締まった劇的な演奏を聴かせてくれた。何度か訪れる衝撃的な場面での、全管弦楽が鋭くたたきつける最強奏は、鬼気迫るほどの効果をつくり出していた。こういう深刻な物語だと、その内容に気を取られ、音楽の方は何気なしに聴いてしまうこともよくあるものだが、今日のような演奏を聴けば、松村禎三のその音楽がいかに劇的なものであるかを、明確に認識させられることだろう。

 今日の歌手陣も素晴らしかった━━小餅谷哲男(ロドリゴ)の体当り的な熱演、黒田博(フェレイラ)の落ち着いた凄味、星野淳(キチジロー)の苦悩の演技、高橋薫子(オハル)の悲劇的な歌唱と演技をはじめとして、成田博之(ヴァリニャーノ)、吉田浩之(モキチ)、島村武男(井上筑後守)、峰茂樹(役人)、その他、脇役の一人一人まで歌もセリフもぴたりと決まっていたのは、さすが日本人の手がける日本のオペラという強みだろう。合唱は新国立劇場合唱団と世田谷ジュニア合唱団である。

 休憩25分を含め、4時50分頃終演。初台から地下鉄で市ヶ谷を経由し、JRで上野に向かう。

コメント

私は日曜日の二日目に参りました。(1階13列中央)
入りもよく、テレビ収録(新国の記録用かNHKかは不明)も行われていました。またホワイエにはアリベルト・ゼッダの姿もありました。

このオペラには「重く暗い」という修辞が付きものですが、下野竜也の表現する響きには抒情的な優しさと温もりまも加わっていたのが印象的でした。東フィルもピットを所狭しと埋め尽くす大編成で、いつになく素晴らしい演奏を聴かせていました。オケはピットであっても、指揮者の力次第でどうにでも変わるという一例でしょう。

終演後のカーテンコールの続く中を、私は拍手も出来ずじっと座ったまま。ひたすら『沈黙する』神と、それに投げかけるかのように傾けられた巨大な十字架に思いを馳せ続けていました。

下野竜也は2012年の中劇場公演と長崎公演を経て、昨年の9月には読響と"この地球を神と崇める" をテーマに掲げた演奏会を敢行しています。東条先生もお聴きになられていますね。プログラムは、次の通り。
* 松村禎三:「ゲッセマネの夜に」
*モーツァルト:「ピアノ協奏曲第24番 ハ短調 K.491」 (Pf/小川典子)
*J.S.バッハ(ストコフスキー編):「ゲッセマネのわが主よ BWV487」
*カレル・フサ:「この地球を神と崇める」
これはオペラ「沈黙」への一過程とも考えられる公演でした。

今回の「沈黙」で、下野竜也はこう述懐しています。『とても厳しいオペラですので精神的には追い詰められましたが、作品の偉大さに感動しながらの日々でした。』と。私見では日生劇場での初演以来数々の「沈黙」上演史上、最高の成果があった新国立公演だったと思います。

下野竜也はこのすぐ後に、読響が初演したシュニトケ「長崎」の九響公演のリハーサルに入っています(「原爆投下70年・平和への祈り」と題した定期は7月6日)。長崎続きのプログラムに、これも天命と思い力を尽くしたことでしょう。

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