2017-10

2015・6・2(火)新国立劇場 R・シュトラウス:「ばらの騎士」

   新国立劇場オペラパレス  2時

 5月24日から行われている5回公演の4日目。
 ジョナサン・ミラー演出、イザベラ・バイウォーター美術・衣装によるこのプロダクションは、2007年6月6日、ノヴォラツスキー芸術監督最後の新制作としてプレミエされたものだった。そのあと、2011年4月に再演され(この時は東日本大震災の余波でアルミンクはじめ歌手も何人かキャンセルして大騒ぎだったが)今回が3度目のレパートリー上演になる。

 プレミエの時の私の日記には━━「いかにもジョナサン・ミラーの演出らしく、派手さはないもののかっちりとまとまった舞台で、演技の細かさは主役のみならず・脇役・端役にいたるまで徹底しており、それだけでもドラマとしての面白さが出て、全体が引き締まる」とある。
 しかしどうも、再演を重ねるに従い、舞台のタガが緩んで来るのはよくあることで、これは全く「再演演出担当」演出家の責任によるものだが、今回も第2幕と第3幕のいくつかの個所では、人物の動きに明解さが不足する結果を招いていた。

 脇役だけでなく、主役の動きにも辻褄の合わぬところがいくつかある━━第3幕での、オックス男爵が「いっぱい食わされた」顛末に気づくあたりなどがそうだ。また、元帥夫人がオクタヴィアンとの「別れ」に際し、彼から手にキスを受けて動揺する場面での演技は、もともとあんなにあっさりしていたものだったか? 

 舞台全体は極めて美しいものだったが、今回の上演が人間のドラマとしての深みに欠けた印象だったのは、こういう精密な演技性に不足していたからであろう。
 このプロダクションがプレミエされた際のシーズン・テーマは「運命、希望ある別れ」であり、ミラーもそのコンセプトに沿って演出を考えていたはずだった。その演出意図は、8年後の今回にも、引き継がれていてもよかったのではなかろうか。

 今回の主役歌手陣は、アンネ・シュヴァーネウィルムス(元帥夫人)、ユルゲン・リン(オックス男爵)、ステファニー・アタナソフ(オクタヴィアン)、クレメンス・ウンターライナー(ファーニナル)、アンケ・ブリーゲル(ゾフィー)。
 その他、田中三佐代(マリアンネ)、大野光彦(ヴァルツァッキ)、加納悦子(アンニーナ)、妻屋秀和(警部)、水口聡(テノール歌手)、晴雅彦(公証人)らが脇役を務め、原純も理髪師(黙役)の助演で活躍していた。

 リンの底力ある声はいつもながら素晴らしく、オックスの怪物的な迫力をよく出していただろう。警部役の妻屋秀和も、巨体と風格ある声で、オックスと渡り合っていた。
 だがゾフィーのブリーゲルは声質が生硬で、第2幕のオクタヴィアンとの2重唱をはじめ、第3幕最後の3重唱や2重唱でも、オーケストラのあの夢のように美しい響きに声がまったく溶け込まない。これだけは本当に残念だったが、音楽的な弱点となってしまった。

 指揮のシュテファン・ショルテスは、今回はさほどテンポは速くない指揮だったが、東京フィルをよく引き締めた。アンサンブルの点では、東京フィルは今回も良いレベルに在ったといえよう。
 惜しむらくは、オーケストラの音に、色気と、ユーモアと、洒落っ気が不足していること。しかしこれはまあ、ショルテスの指揮のいつもの癖でもあるから、仕方なかろう。8年前のプレミエの初日の━━せっかく指揮にシュナイダーを招いていたのに━━あのよれよれのホルンや、ガタピシしたアンサンブルに比べれば、はるかに良かった。事実、今日の2重唱や3重唱の部分でのオケの演奏は、なかなかに美しく、あの「シュトラウスぶし」を充分に再現していたのである。
 終演は6時。

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千秋楽

ゾフィーについては歌唱よりも、むしろあなたの方がお婆さんみたいだぞというような髪型や、地味な色味の衣装や、ズルズルした首飾りの方が気になりました。でも最終場、頭の天辺から爪の先まで一分の隙なくビシッと決めた元帥夫人の佇まいを見たとき、ああゾフィーはあれでいいのだなと腑に落ちた。洗練も抑制も必要ない。見映えをよくするための技術もいらない。声も硬いくらいで丁度いい。なぜなら彼女には若さという最強の美しさがあるから。このオペラを見てそんなことを思ったのは今回が初めて。自分がそれだけ年を重ねたということかもしれないけど、やはり大きかったのは元帥夫人の存在感。殆どヒーローのようでした。会えて良かった。会社をさぼって行った甲斐がありました。

一方で、再演演出については東条さんの仰る通りだったと思います。緩急強弱のメリハリなくコメディ部分がほぼ不発。舞台上の方々の中途半端な動きほど興醒めな気分にさせられるものはない(カーテンコール時含む)。そのあたりさえクリアすればこの公演の格はもっと上がっていたはず。残念というより、いつまで同じことを繰り返すつもりなのかなというストレスを感じました。

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