2017-06

2015・5・31(日)フェドセーエフ指揮チャイコフスキー響

    サントリーホール  6時

 バイロイトでワーグナーばかり聴いていると、むしょうにモーツァルトが聴きたくなることがある。かと思うと、ザルツブルクでモーツァルトやヴェルディのオペラなどに浸っている時に、突然チャイコフスキーが聴きたくなる時がある。
 この3月から5月にかけて、あまりチャイコフスキーに巡り合わなかったので、昨日のテミルカーノフ&読響で「くるみ割り人形」の「パ・ド・ドゥ」を聴いた時には、妙に懐かしく感じられたものであった。

 それで━━今日のトリプル・ヘッダーの最終試合は、名匠ウラジーミル・フェドセーエフが指揮するチャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラ、つまり以前はモスクワ放送交響楽団と呼ばれた管弦楽団が演奏するチャイコフスキー・プログラムである。「四季」から、ガウク編曲になる「雪割草」「舟唄」「秋の歌」「クリスマス週」。続いて「くるみ割り人形」組曲。そして後半に「交響曲第5番」が演奏された。

 正直言って、前半の2つの作品における演奏には戸惑った。「四季」の4曲での、美しいけれどもあまり生気の感じられない、今にも倒れ込みそうな演奏、「くるみ割り人形」でのバレエ曲にあるまじき(?)超遅テンポの演奏・・・・。「葦笛の踊り」の中間部など、まるで幽霊の踊りのような薄気味悪ささえ感じさせたくらいだ。

 オーケストラは、弦も管も音色は素晴らしいものの、管の演奏が不思議に粗く、フルートとオーボエの受け渡しの悪さ(「雪割草」)や、このオケらしからぬミスも散見された。指揮者の遅いテンポを持ち堪えられず、アインザッツや音を切る個所での歯止めが利かないことがはっきりと感じ取れるのである。もしかしたら、83歳のフェドセーエフが、もはやオーケストラを完全に掌握できなくなっているのではないか、という不安をも抱かされたのだった。

 だが幸いにも「第5交響曲」にいたって、そういう不安は払拭された。細部の仕上げや全管弦楽の響きのバランスなどに関しては、このコンビがかつてつくり出していた鉄壁の構築こそ失われていたが、今世紀に入ってから顕著となっていた彼らの独特の音色━━輝かしさと陰翳とを同時に響かせるというあの大わざは、嬉しくも健在だった。そして、テンポやニュアンスの精妙な変化など、フェドセーエフの統率力も、見事に健在だったのである。

 厚みと煌めきのある弦を中心に、管楽器群をその彼方からエコーのように響かせるという音のバランスで演奏された第2楽章の美しさと来たら、これまで何十回、何百回と聴いて来たこの曲の演奏の中でも、一、二を争うものだったかもしれない。
 かつてこのコンビは、逞しい力感と豊かな均衡を備えたサウンドで、モスクワのオーケストラの中でも一頭地を抜く存在だったものだが、今ではその力を抜いて、自由な余裕感を愉しむ境地に達しているのかもしれない。

 オーケストラの音色自体は、昔より美しいほどだ。ただし欲を言えば、それでいながら内声部があまりに混然として響くのは、いくらこのコンビのユニークなサウンドづくりの一環といえども、いかがなものか、ということ━━これはまたホールによって、聴く客席の位置によって印象が違って来るから、迂闊に判断はできないことなのだが。

 その問題は、アンコールでの演奏に関して、いっそう大きくなるだろう。2倍のテンポに引き延ばされた不思議な演奏の「パノラマ」(「眠りの森の美女」)はとりあえず別として、「雪娘」からの「道化師の踊り」、「ガイーヌ」からの「レズギンカ」(これだけがハチャトゥリヤン)、「白鳥の湖」からの「スペインの踊り」は、2階正面席で聴く限り、ほとんど音響的カオスともいうべき、轟然、騒然、混然たる演奏だったのである。
 曲中に現われる主題は、知っているから何となく聞こえるものの、ほとんどは打楽器の大音響に打ち消されていただろう。こんな演奏は、このコンビからは、かつて聴いたことはなかった。

 やはり、もはや、かつてのフェドセーエフではない。━━とはいえ、それらの演奏が、放縦なように見えて、どうやらある種の計算づくで行われているのではないか・・・・と思われるフシも、ないことはないのだが。

 それにしても、この最後の3曲で、このオケの名物打楽器奏者━━「二刀流タンバリンおじさん」の大活躍がまたも見られたのは、嬉しいことだった。「道化師の踊り」が始まった時に、「しめた」と思ったのは、私だけではなかろう。一つのタンバリンを膝で叩き、二つのタンバリンを頭上高く翻す、あんな派手な格好で演奏する打楽器奏者は、他のオケではちょっと見られまい(以前とは少しジェスチュアが違うようだったが・・・・別の人ということはないだろう)。「レズギンカ」では、華やかにスネア・ドラムもたたいていた。

 ガシャンガシャンした演奏だったが、とにかく賑やかなアンコールの演奏に、最後は客席も総立ちになった。フェドセーエフはソロ・カーテンコールに3回も呼び出され、そのうちの1回は「二刀流氏」も一緒に出て来て、聴衆を沸かせた。フェドセーエフはステージ前に詰めかけた客たちと握手したりして、ツアーの最終日を締め括った。
     別稿 モーストリー・クラシック8月号 公演Review

コメント

28日の演奏のほうがよかったように思います。
30日はお疲れのご様子。
来日中2度も大きい地震を味わいましたし・・・
 余計なことですが、タンバリンの方は、髪型のせい?違う人物にみえました。
同じ方ならよっかたです。ご健在で。

巨匠健在

あのテンポの遅さは計算ずくですよ。楽員達に少し退屈感もあったのでその対策かも。オケの音色も素晴らしいが、女性奏者の容姿がそれぞれ個性的で美しい。相変わらずのロシアです。

全く仰る通りです。前半はこのコンビ特有の芳醇なワインのような音色は楽しめたものの緩さも少なからずありフェドセーエフもいよいよ晩年に差し掛かったんだな・・・とあたりまえといえばそうですが淋しく思っておりました。ところが後半が始まったら驚いたのなんのって!指揮者もオーケストラも20歳くらい若返ったのか?と思うくらいの猛烈な化けっぷりに唖然としながらも夢中で聴き入った。間違いなく私がここ数年で聴いた第5番の最も凄い演奏だった。そしてアンコール、痛快極まりない!タンバリンおじさんいいですねぇ、大ファンです!レズギンカなんて私の座っていたR側最前列でも小太鼓しか聞こえませんでしたよ(笑)。でもこれでイイと思います。前回来た時の「悲愴」でも真面目な曲をやっんのにコミカルな印象をあたえてしまうところも好きでした(この時は大太鼓を担当)。終演後、楽屋口でサイン攻めにあってましたし完全にスターですね。 とにかくフェドセーエフには長生きしてもらって我々を楽しませ続けてほしいものです。

はじめまして

3月初めにウィーンに行きます。
自由になる日に、学友協会黄金ホールに行きたいのですが、その日はチャイコフスキー交響楽団で、ウラジーミル·フェドセーエフ指揮。
演目はオペラ「ウンディナ」からの抜粋と、「白鳥の湖」です。
指揮の方について、体調が良くないとかいう過去の記事を目にしたので気になって検索してきました。

「ウンディナ」は知らなかった曲です。
YouTubeで聴いてみたら、言語がわからないけど大丈夫かな・・・とか心配ではあります。
私は恥ずかしながらピアノ教師で、音楽の道に進まなかった娘と行きますが、時差もあって眠くならないかなどと、色々思案しております。

先程から学友協会HPで色んな席を見てはどこにするか悩み、Balkon-Mitteがいいかな?と思っています。
何かアドバイスいただけたら嬉しいです。

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