2017-07

3・12(木)バーシェ・トリオ

    東京文化会館小ホール  7時

 「バーシェ」とはロシア語で「あなたの」という意味だそうな。

 メンバーはヴァイオリンが小森谷巧(読響コンサートマスター)、チェロが古川展生(東京都響首席)だが、ピアノの反田(そりた)恭平は、モスクワ音楽院に学ぶ20歳の俊英だ。この若者を中心に、その才能に惚れ込んだ2人のベテラン奏者が集まって室内楽を━━というねらいで、ロシア語のグループ名をつけたと聞く。

 今回が公式演奏会の第1回ということだし、まあ、三重奏団とは言っても臨時編成、いつまで一緒にやるかどうかは判らぬ・・・・と言ってはミもフタもないが、名手たちによる一期一会の室内楽演奏会は、それはそれで聴きごたえがあるし、楽しいものだ。実際にこれは、すこぶる気持のいいコンサートだった。

 何より、この反田恭平という青年の演奏が、著しく個性的で自己主張が強く、つくり出す音楽が尖っていて、一音たりともイージーに聞き流すことを許さない、という勢いを持っているのである。若々しいとか、瑞々しいとかいったイメージではない。制作マネージャーは「ある意味でふてぶてしい感じ」と評したが、これは穿った指摘だろう。
 桐朋出身とはいえ、モスクワ音楽院で勉強しているがゆえに、こういうアクの強い演奏を身につけられたのかもしれない。願わくば、この強い自己主張を、いつまでも失わぬようにしていただきたいものだ。

 この日のプログラムは、ハイドンの「三重奏曲ト長調Hob.ⅩⅤ-25」、久石譲の「おくりびと」(東日本大震災犠牲者を悼み、とのこと)、ラフマニノフの「2つの小品 作品2」、ヴィエニアフスキの「伝説曲」、チャイコフスキーの「ワルツ・スケルツォ」、メンデルスゾーンの「三重奏曲第1番」、アンコールとしてピアソラの「ブエノスアイレスの冬」とリストの「愛の夢第3番」、といったように、トリオ、デュオ、ソロを織り混ぜたものだった。

 若い反田の勢いに、2人のお父さんたちも煽られて、というか、最後までよく面倒を見てやったというか、特にメンデルスゾーンでは3人それぞれの━━イキの合った、とまでは言わぬが━━白熱の演奏が繰り広げられ、満席に近い聴衆を沸かせた。
 反田の演奏には、荒っぽいところもあり、傍若無人なところもあるものの、アンファン・テリブル的な才能を感じさせて面白い。だがたとえば「伝説曲」におけるように、大先輩・小森谷の劇的なヴァイオリン・ソロを盛り立て、自分はソフトな音で控えめな伴奏に徹するといったような、心得た幅の広い芸風をも聴かせるのである。

 もっとも、最後にソロで弾いたリストの「愛の夢」では、テンポを極度に落とし、一つ一つの音を際立たせながら自己沈潜的に演奏して、なんだか恐ろしく長い曲にしてしまう・・・・などというところは、やはり、今どきのピアニストの流行に乗っているんだな、と思わせる。

 なお、この日使用されたピアノは、1887年製のスタインウェイで━━1925年までニューヨークのスタインウェイの貸出用ピアノとして活躍、その後日本に渡り、一時期キャピトル東急に所蔵されており(あれか?)、1986年にホロヴィッツがこれを見つけて弾いたとかいう、いろいろ由来のある楽器だそうである。ローズウッドの色が美しく、音色もあの時代ならではの独特の個性を持っている。
 この楽器の音色が、反田恭平のこの演奏スタイルに合っていたかどうかは、ちょっと微妙なところもあるが・・・・。

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://concertdiary.blog118.fc2.com/tb.php/2106-029bf9aa
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

Since
September 13, 2007

これまでの来訪者数

最近の記事

カテゴリー

全記事表示

全ての記事を表示する

RSSフィード

ブログ内検索

プロフィール

リンク

News   

雑誌 モーストリー・クラシック に連載中
「東条碩夫の音楽巡礼記」