2017-11

3・2(月)トゥガン・ソヒエフ指揮トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団

    ミューザ川崎シンフォニーホール  7時

 何年も前から私の贔屓のこの若手指揮者トゥガン・ソヒエフ。
 近年はこのトゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の音楽監督の他、ベルリン・ドイツ交響楽団の首席指揮者、モスクワのボリショイ劇場の音楽監督・首席指揮者を兼任するという、超売れっ子となっている。
 今日の公演は、今回のツアー最終日で、ユリアンナ・アウデーエワをソリストに迎えてのショパンの「ピアノ協奏曲第1番」と、リムスキー=コルサコフの「シェエラザード」というプログラム。

 「シェエラザード」は、前回来日(2012年12月)の際にもやった曲だ。あの時は豪華絢爛、縦横無尽、変幻自在、大胆不敵・・・・といった感の、えらく面白い演奏だったという記憶があるが、今回の演奏を聴くと、そういう大暴れ的な解釈は、ちょっと影をひそめてしまったようである。
 もちろんオケは上手いし、特に管はさすがに鮮やかだし、華麗な「シェエラザード」だったことはたしかだが、何かまっとうな演奏になってしまって、私としては少々拍子抜けであった。

 まっとうで何が悪い、と言われるかもしれないが、もともとこの曲は、極端に言えば同じ主題を楽器を変えて繰り返すのが取り柄みたいな曲だから、華麗な色彩感という良さはあるものの、それだけではだんだん飽きて来る。何かハッタリでも効かせてくれないと━━というのが、この「シェエラザード」への私の個人的嗜好なのだ。
 ただ、二つほどの個所で、コントラバスあるいはホルンの低音を、それぞれスコアの指定よりも強調し、長く引き延ばして、音楽に不安で劇的なアクセントをつけていたあたりは、さすがソヒエフ━━という感である。

 アンコールで演奏したのが、ビゼーの「カルメン」の第3幕の前の間奏曲、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」からの「トレパック」、再び「カルメン」の第1幕前奏曲(前半のみ)。・・・・「カルメン」は前回、前々回の来日の時にもアンコールで演奏していて、したがって前回「他にやるものはないのかね」と書いた記憶があるが、まあいい。

 ショパンの協奏曲の方が楽しめた。ソヒエフとオーケストラが、あっさり開始されることの多い冒頭の主題を、驚くほど堂々と威容に満ちて演奏しはじめた。まさにスコアの指定通りの「マエストーゾ」であり、こういうちょっとした個所にも、ソヒエフの楽譜読み込みの巧みさが聞き取れるだろう。
 だが何より、アウデーエワの演奏の明晰で明快で、しかも瑞々しい美しさが、たとえようもない。ショパンの音楽をこれだけ歯切れよく、かつ流れの良い澄みとおった情感をもって弾くピアニストは、そう多くはいないだろう。フィナーレのコーダで、いよいよ終結に追い込んで行くというあたりの持って行き方も、実に巧い。
 アンコールでは、ショパンの「華麗なる大円舞曲作品42」を弾いたが、これまた単なるワルツ以上に躍動的で、凛とした演奏だった。
      ⇒別稿 モーストリー・クラシック 5月号 公演Reviews 

コメント

Switchを入れる人

ミューザ公演を聴きました。座席は2CB1列。ミューザではこの辺りが表現力も音響的パワーも強い外国オケを聴くには、ちょうど合っていると認識しているので選びました。珍しくも東条先生とは比較的近くのポジションで聴きました。サントリーなどでは私は1階席中央ですから、2階席の東条先生とはいつも違う響きを聴いています。

もうソヒエフの群を抜く才能には呆れるばかりで、この日も東条先生の仰ることにほぼ同感です。私は初めてソヒエフを聴いたのが遅く、2013年11月のN響B定期。あの驚きは今も忘れられません。大抵はすまし顔で、或いはつまらなそうに見える表情で演奏することの多いN響奏者たちが、チャイコフスキー「第5番」を演奏した時です。

ソヒエフの、恰も奏者の音楽心に"switch"を入れたかのような指揮に、一人一人が反応して「そうだ、此処はこれでいいのだ」と頷きながら嬉々として演奏していたのでした。ソヒエフはオケに点火して燃え盛る炎を、自由自在に操りながら操作するマジシャンのようにも見えました。この日のミューザでは、それが更に顕著に見て取れました。

ショパン「ピアノ協奏曲第1番」では、そのオケの前奏部のあまりの雄弁さと、表現の豊かさにまず仰天。このまま続いてほしいと願うなど嘗てなかった体験をしました。そしてソリストは、既にリサイタルでも聴き知っているのですが、これまた納得の上にも納得。ショパコンの女性優勝者といえばあの暴れ馬のごときアルゲリッチを思い浮かべるのですが、エウデーエワはそれと対照的。この曲の姿形を余裕綽々の表現(技巧とか勢いとかの外面的な些末なものではなく)で、伝えきるのでした。これぞショパンが生前求めていた「古典的なスタイル」なのだと思いました。まさに真のショパンコンクール覇者に相応しい演奏でした。きっと指揮者とオケが違えば、そのときはそれなりに立派に作品第一を貫いて聴かせるピアニストなのだろうとも思いました。ソヒエフもソヒエフなら、アブデーエワもアブデーエワ。とんでもない才能です。

「シェエラザード」については、私は東条先生以上に感服したと思います。過去に広上純一が読売日響を振って、これまた素晴らしい「シェエラザード」を聴かせました。しかし最近では滅多に聴かれなくなった「真正のロシアの響き」を、フランスのオケから目一杯引き出した今回のソヒエフには脱帽するしかありません。まして管楽器の妙技まで超一級です。そういえばオケのチューニングの際にオーボエ奏者が最初は後ろの管楽器群を向いて、次にはなんと!コントラバス群を向いて、そして最後にコンミスを向いてチューニングをする。あまり見たことのないやり方に、このオケの秘訣の一端を見た気がしました。


まさにオケに"switch"を入れ、それがオケ奏者の音楽心を奮い立たせ、会場の隅々まで火をつけて回る。自然に心が歌い、踊りだす。そうした音楽が溢れた稀にみる音楽の現場でした。いつもは買うことのない高価なプログラムを、帰り掛けに衝動買いしてしまった私です。

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